第二話 偶像

偶像 第一章

 わたしはせきをおこす。

 これは熊谷てつせきの物語だ。

 こんほうたるだいがくのキャンパスにしようりつしているだいがく創立者の銅像をじようするれんのうえに初音ミクのフィギュアであるミクダヨーとともに鎮座してひとりきりみずかれいめいに調理した弁当を満喫している。ミクダヨーとおしなべてツインテールをしているが男性である。ミクダヨーと会話する。いわく〈ダヨーさん今日もおいしいね〉と。低偏差値だいがく特有のいんしんのなかでかつ視している学生たちの存在も鮸にべもせずにらいつづける。発見したさいはいまつしぐらまいしんしてきた。さいはいいわく〈しやしんきのCDにふたりぶんのライブチケットと握手券がついてたんだよライブいこうよ〉と。ミクダヨーとの会話を中断してこうべをもたげながらしゆもなくとうしなれてこたえる。〈音楽興味ないよ大勢のところ苦手だし〉と。さいはいいわく〈二枚ずつあってもつたいないし結構たかかったんだよご当地アイドルだからひともすくないって〉と。当人は沈思黙考する。

 ふたりはライブへゆくことになる。

 あいたいたるむらくもきゆう窿りゆうさんそうする悪天候のなか新潟市内のパチンコ店の駐車場にファンとさいはいと当人がしようしゆしていた。たるパチンコ店の壁面に隣接して天蓋もない野外ステージが設置されている。筋骨隆隆の警備員さえ存在しないがファンたちは風紀びんらんもせず指定位置にしつしていた。さいはいと当人は最後列にてきちよくしている。当人いわく〈やっぱりひといっぱいはやだなあ〉と。さいはいいわく〈ならなぐられたりしないって〉と。さいはいの冗談に〈なぐられるのやだなあ〉という。のうのR&Bのヒット曲がめきステージ上に〈ゆきんこ〉が整列する。複雑怪奇なる姿勢で準備するとごうおんのオケが交響する。〈ゆきんこ〉たち四人の紹介ソングだ。メンバーの名前はときちゃんこめちゃんさどちゃんゆきちゃんというらしい。紹介ソングがしゆうえんすると暗雲からしゆうがふりそそぎはじめたが四人はダンスしうたいつづける。四人ひとりひとりのソロ曲がらんしようした。三人はろうこんぱいしてこえがでにくかったようだがゆきちゃんだけは幼稚ながら白熱する楽曲を披露しきった。

 きゆうきようひやくがいがふるえていた。

 しんいんひようびようたるライブがしゆうえんするといくばくかの休憩時間とともにパチンコ店の〈ひさし〉のもとに臨時握手会場が設置されファンたちがえんえん長蛇となっていった。最後尾にせんかいするさいはいいわく〈どのメンバーと握手したい〉と。〈ぼくはゆきちゃんがいいな一番がんばってたしでもゆきちゃんいやがらないかな〉というとさいはいいわく〈ゆきんこは全人類を愛してるんだよご当地発全人類型アイドルなんだから〉と。しゆうのなかぬれそぼつファンたちが握手してゆくとさいはいと当人の順番がほうちやくした。さいはいはさどちゃんと交歓し当人はゆきちゃんのまえでしやがんしている。ゆきちゃんがきようどうして握手するといわく〈はじめましてお名前は〉と。〈熊谷です〉とこたえる。ゆきちゃんが〈熊谷さんにえてよかった〉というと当人はきつきゆうじよとして〈ぼくFランクだいがく生だし〉という。ゆきちゃんが〈だいがくかよってるのすごいわたし中卒だし〉というと当人は〈わるいこといっちゃったかなダヨーさん〉とフィギュアと会話した。ゆきちゃんいわく〈その子ダヨーちゃんでいうんだかわいい〉と。当人は幼稚に沈黙する。

 はつこいだった。

 きよくてんせきとしてれんあいなどしようもなかった人生ではじめて戀をしたのだ。あんたんたるアパートの一室に帰宅してPCを起動させるとGoogle画像検索でゆきちゃんの画像をしゆうしゆうしゆきんこの公式サイトをりゆうらんした。次回の握手会はタワーレコード新潟店前でライブは開催しないらしい。握手券の入手方法はゆきんこ新作しやしん集の購入である。翌日だいがくの講義を完遂するとまつしぐらにTSUTAYAへむかい新作しやしん集を購入握手券も獲得した。こんかいさいはいにも内緒である。握手会当日はじめてほうちやくしたタワーレコードまえにてきつきゆうじよとして握手の順番をぎようぼうした。〈いつか名前をおぼえてもらおう〉とひとりごちていると順番が到来する。ゆきちゃんは〈熊谷さんまたいにきてくれたの〉といってくれた。〈ダヨーちゃんも元気かな〉といい握手をせんとするのできつきようする。きゆうきようひやくがいけいれんはいするかたちでくずおれて慟哭する。ゆきちゃんがさくがくして握手するかたちで介抱すると当人はけいがいしながらいう。〈ぼくいままでおんなのこにやさしくされたことなくて〉と。

 ゆきちゃんはいう。

〈どんな熊谷さんでも大切だよ〉と。

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