第6話 み

最近このクラスがおかしい。


クラスの中でも浮きまくりの底辺キャラ、早川さん静かに席を立つ。

すると、


「あれ?早川、どこ行くの?」


と声をかけたのは早川の前の席に座る西川。

いつもなら早川の行動の一つ一つを気にして、いちいち声をかけていたのは新学期早々に転校してきた丸山君位だったんだけど、今では他のクラスメイトの子達がパラパラ声をかけるようになっていた。


「今日日直だから。皆から集めたパンのお金、購買に届けないと・・・・」


「そっか。いってらっしゃい~」


早川の事を笑顔で見送る西川&丸山。

早川はぎこちなく微笑むと教室を出て行った。


何あれ・・・・・・・・・・・・・・・気持ち悪っ。



丸山君が転校してきた日。

私はわざわざ彼を廊下に呼び出すと、早川をシカトするよう警告した。

早川はこのクラス全員の標的な存在。

皆でコイツを一致団結していじめていれば、このクラスは平和に楽しく過ごせるから。

下が居るから私は常にトップに居る事が出来る。

その秩序を乱して欲しく無かった。

それなのに・・・・彼は私の警告をお構いなしに、ガンガン早川に話しかけ続けた。



気に入らないー・・・・・・。

なんでアイツがチヤホヤされてる訳?



早川の事も大嫌いだし、私の忠告をシカトした丸山もムカつく。

だから丸山もこのクラスの底辺キャラに落としてやろうと、彼が昔いじめられっ子だったって事をクラスメイトにバラしてやった。

皆丸山君がいじめられっ子って知れば、ガンガン嫌がらせして馬鹿にするって思ってた。

それなのに、予想は大きく外れた。


皆は丸山君をシカトすることもイジメる事もなかった。

むしろいじめられっ子だった丸山君がクラスメイト全員に平等に接する態度を評価し始めた。

結果・・・・・・丸山君は以前より立場は上になった。

そして早川に対しても、皆ベタベタと仲良くする訳じゃないけど、前みたく 空気やゴミ扱い しなくなったように思う。


無視も差別もない平和な教室は、とても退屈だった。

全員の立場が平等。

私の立ち位置もトップから 平 に格下げになった。



「・・・・・・誰のせいだよ。クソっ」


放課後、誰も教室からいなくなったのを確認した後、思いっきり早川の机を蹴る。


「なんでうちらとコイツが同じ立場なの?ウザっ」


「最近の早川って調子乗ってるよね~。前なんて一切笑う事なんて無かったのにさ」


「少しだけ男子に構ってもらった位でヘラヘラ笑うなっつーの!!」


うちらはとても怒っていた。

前までは男子にチヤホヤされて良いのは、このクラスでは うちらだけ だったんだから。



「このままでいいの?真夏。

このまま卒業しちゃうなんてつまんなくない?」


「だよねー・・・・・このままでは終われないよねー・・・・。そうだっ!」



良いことを思いついた!

早川を監視し続けて、落ち度になりそうな事を探せばいいんだ。


そもそも早川がこのクラスから浮いたのも、きっかけはうちらではない。

入学当時から独特な雰囲気を醸し出した早川は、次第に皆に避けられ、友達が出来ず浮いた所からイジメの標的になったのだった。

アイツがいじめられたのは偶然ではなく、必然。

あの時の 早川への違和感 を皆に思い出してもらえばいいんだ!



それからうちらは常にアイツの事を学校に居る時は常に監視し続けた。

アイツの学校での生活は常に単調で、空いてる時間は常にスマホをいじってるだけ。

特に揚げ足になりそうな物はなかった。



「マジでつまんねーやつ」


ネタになりそうな物が何も無かったけれど、ここで諦める訳にはいかないっ!

だからアイツの監視を学校外まで広げる事にした。


「そーいえばアイツの家ってどこなんだろ?

家突き止めちゃう?

あんな奴の親なんて、どうせ変わり者に決まってるって!

親共々つるし上げてやるのはどう?」


そんなノリで、アイツの家を突き止める事になった。

軽いノリだったハズなのに・・・・・・・。



「・・・・へぇ・・・・・ここがアイツの家なんだ」


早川に見つからないように後をついて行き、突き止めた自宅はとなりに広い空き地がある一軒家だった。

中を覗こうとしても分厚いカーテンが全ての窓に締められており、中を見ることは出来ない。

30分程外で監視していたが、特に変化はなく帰ろうとした時だった。



「待って!誰か家から出てきた」


フラリと家から出てきたのは制服姿のままの早川だった。

早川はまっすぐ何処かへ歩いていく。


「どこいくんだろ?・・・・ついて行っちゃう?」


何か良いネタが見つかるかも!

うちらはニヤニヤしながら早川の後をついていった。


何処へ行くのか?・・・・と見張っていると、向かった先は早川の自宅隣にある空き地。

何もない空き地で何やってるんだろ。

と近づくと、・・・・・・・



「・・・・・っ。何あれっ」



怖さと不気味さでぶっちゃけ手足は震えていた。

それは一緒にそれを見ていた千佳と美優も同じだった。


アイツがここまでイカれた奴だったなんてー・・・・・・やっぱり私のカンは正しかった!


このまま逃げる?・・・・・・そんな訳ない。

だってこんなに面白いネタ!見逃す訳にはいかないっ!!


握り締めていたスマホを動画撮影モードに切り替えると、早川に見つからないよう一部始終を撮影する。

ある程度撮影をし終えると、駅まで皆でダッシュで逃げた。



「はぁ・・・・・はぁっ・・・・」


久しぶりに真面目に走ると疲れる。

ずっと体育すら真面目に受けてなかったから、運動らしい運動ってしばらくした事なかったっけ。


駅にはまばらに人が居て、なんだかホッとした。

さっき見た出来事があまりに衝撃的過ぎて、今も手足は震えている。


「ねぇ・・・・見た?さっきの」


「見たよ。それに動画も撮った」


「偉いっ!口で言っても皆信じてくれないかも知れないしね。

証拠があれば、次は絶対にイケるって!」


顔を見合わせ、三人で笑いあった。

これを皆に見せれば、きっと皆以前のように戻ってくれる。

皆でまた早川の事をゴミ扱いするに違いないっ!!


あのクラスに平和も平等もいらないの。

常にトップはうちら。

うちらの高校生活を 平 で終わらせるつもりはない。

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となり 美春繭 @miharumayu

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