宇宙戦史(2)

 戦場は、アームドスキンパイロットの技量が大きく左右する場へと変わっていた。


 その状況下で進宙歴394年、支配下である植民惑星ゼムナがゴート政府に対して独立宣言を行う。これが事実上、三星連盟大戦の始まりであった。


 発掘されたゼムナの地では当然のように日々アームドスキンの研究開発が行われている。その技術力を背景に、圧政下で苦しむゼムナの国民は解放へと向かって決起したのだ。


 独立戦争では数々の英雄の名が挙げられるが、特筆すべきはロイド・ライナックであろう。稲妻ロイドの異名を持つ彼はアームドスキンを操り、たった一人で戦況を大きく変えてしまうパイロットだった。

 彼自身の技量も非凡であったが、彼の愛機が他の追随を許さない性能を有していたのも事実である。


 地表で発掘された遺跡は人型機械と航宙船の残骸だけだったが、それには理由があった。研究の結果、先住文明が発生したのは惑星ゼムナではないのがその頃には判明していたのだ。

 恒星フェシュを主星とするゼムナ星系には、第四惑星ゼムナの外方に宇宙環礁を持っている。過去、そこにはもう一つの惑星が存在し、実は惑星破壊によって生まれた天体群がゼムナ環礁を形成しているとの研究結果だった。


 よって、ゼムナ環礁にはより多くの遺跡が眠っていた。

 そして、そこで眠っていたのは文明の残骸だけではない。文明の意思が残っていたのである。


 ロイド・ライナックに接触してきたのは、先住文明の人工知能の対人インターフェイス。その人工知能はコード「ラノス」を名乗り、彼に限定して技術提供を申し出てきた。

 ラノス曰く、彼ら残存人工知能群は後発文明を監視し、その人類がゼムナ文明技術を運用するに足るか観察するのだそうだ。その成熟度に応じて彼らが保有する各種技術を提供すると告げてきた。


 ロイドのような立場に在る人間もそれなりの人数生まれ、彼らは人工知能の総称「ゼムナ遺跡」の「協定者」と呼ばれるようになった。

 圧倒的に寡兵であるゼムナ軍が、三星連盟の中心的な存在であるゴート軍との戦線を維持できたのは彼らの働きあってのことであろう。


 膠着状態を生み出したゼムナ軍は社会情勢に変化をもたらす。

 ゼムナ独立戦争開始から八年の進宙歴402年、各地の植民星からの訴えに耳を傾け、アルミナ王が腰を浮かす。ゴートの敗戦を疑わずに座視していたゼフォーンに宣戦布告を行う。

 同時にゼムナ政府との同盟を発表し、物資支援を行うとともに技術的支援を受ける条約を公表した。


 更に時を同じくして、ゴートの衛星ツーラのガルドワインダストリーもゼムナとの協調を宣言した。技術供与を前提としたこの共同戦線は戦局を揺るがすに十分であった。

 地方叛乱と侮っていたゴート政府も全面戦争へと移行せざるを得ない。戦局は拡大の一途を辿り、反三星連盟の気運はあまねく人類圏へと広がっていく。


 三年後の進宙歴405年にはバルキュラでのレジスタンス活動が活性化し、その背後でゼムナやアルミナの協力が噂される。


 そして、進宙歴419年、ゴート本星浄化作戦が行われる。

 これはウォノ星系のカイパーベルトがら運搬された巨大氷塊をゴートの地表へと落とし全てを破壊する計画だ。これには人道的見地から批判の声もあったが、既に惑星として終焉を待つだけとなったゴートを浄化するという名目があった。


 人類発祥の地ゴートは、資源は取り尽くされ生態系は完全に破壊されており、その地に執着を見せる人類の手によって改造を重ねに重ねられている。食料はもちろん、呼吸可能な大気さえも人工的に生み出さねばならず、地表のほぼ全てを建造物で覆われている状態だった。それらを可能とするために他星系から資源の搾取を行っていたのだ。


 聖なる大地を取り戻すには、一度全てをリセットするしかないと訴える声に押されて氷塊落としが敢行されるも、その戦いの中で一人の英雄ロイド・ライナックの命が散った。


 人口のほとんどを軌道上の要塞に避難させたゴート。戦線の要だった英雄。双方に多くのものを失った浄化作戦から三年後の進宙歴422年、稲妻ロイドの息子ディオン・ライナックが忽然と姿を現す。

 同様に協定者であり、父親以上の才覚を見せるディオンは目覚ましい働きを持って戦況を大きく動かしゴート軍を敗地へと誘う。アルミナ戦線もゼフォーンは劣勢に追い込まれており、三星連盟は窮地へと陥っていった。


 六年後の進宙歴428年、ゴートは降伏を宣言、政府は解体される。

 続く429年にゼフォーンも敗戦に追い込まれ、軌道上にゼムナ、アルミナ両軍を確認したバルキュラ政府も降伏せざるを得なかった。

 これにより三星連盟体制は崩壊し、人類圏は各惑星国家が共存共栄を願う時代を迎えたのだった。


 しかし、人類はその業を捨て切れない。宇宙の深淵は人の欲を飲み込んではくれない。それが新たな戦乱を生み出してしまう。


 人型戦闘兵器アームドスキンの舞う宇宙に新時代が訪れようとしていた。



※ 同時に更新しました『ゼムナ戦記 神話の時代』『ゼムナ戦記 伝説の後継者』に続きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゼムナ戦記 三星連盟史 八波草三郎 @digimal

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説