天神短編集

天神シズク

第3回 #匿名短編コンテスト・パートナー編

最後は彼女と僕の手で。

 『神空都市ゴッズ・シティ』、最深部『能源深核回廊アビスエリア』。数多あまたの犠牲を払い、僕はここに立っている。


「ついにここまで辿り着いたな……。長い道程みちのりだった」


 グオングオンと大きな機械音が鳴り響いていた。巨大なタンクのような鉄の塊が目の前にある。黒いコートのすそをなびかせながら、群青色の目でそれを見つめる。


 《魂玉の欠片コア・ピース


 半永久的にエネルギーを放出し続けると言われている究極希少金属アルティマレアメタル。このタンクの中にはこいつが格納されている。そして、その破壊が僕の任務だ。厳重に管理されている『能源深核回廊アビスエリア』に入るまでは苦労したが、ようやく報われる。


「それもこれも、君がいてくれたからだよ。君の存在なしではここまで辿り着くことも……いや、生きていることすら叶わなかっただろう」


 彼女はいつものように無言のままだ。


「……君と出会った頃を思い出すよ。一目惚れだった。僕の目には、君が輝いて見えた。どんな手を使ってでも、自分のモノにしたい。これまで生きてきて、初めてそう思った。そして、君は僕のモノになった」


 僕は彼女を撫でた。大事に。大切に。優しく撫でた。


「いつだって一緒だった。寝るときも、食事のときも。お風呂は……流石に無理だったね。一緒に入りたかったけど」


 僕は笑いながら彼女に話しかける。しかし、彼女は変わらずツンとした様子だ。


「他のにも浮気しちゃったこともあったけど、やっぱり君が一番しっくりきたよ」


 機械音が一瞬止まり、プシューという音と共に煙が吐き出された。


「ゴホッ……ゴホッ……もう、臭いなぁ……」


 左手を振り回し、煙をかき消す。視界が良好になると深呼吸をした。


「ふぅ……。ったく、僕の最後の任務だってのに、散々だな」


 左手首に巻いてある腕時計型の端末がピピッと鳴った。音を止め、音の原因を確認する。


「……あと1時間だってさ」


 『寿命通知音ライフアラーム』だった。この世界では、あらかじめ寿命が決まっており、遺伝子レベルに書き込まれたその情報に抗う術はない。僕の寿命は18年と125日6時間32分17秒。決められた時間が経過すると、身体機能は完全に停止し、そのまま死ぬ。生まれてから死へのカウントダウンが始まっているんだ。人間に明確な優劣をつけるために、母親の胎内にいる頃から現代の僕らはもてあそばれてきた。寿命を見てわかる通り、僕は圧倒的な劣等種。20歳までも生きることができない存在。


 だからこそ、ここまで来れた。そう思う。

 

 僕が所属する『黄泉ヨミ』には、そういった寿命の短い運命を背負った者が集まっている。最高齢でも30歳程度で、何回もリーダーが変わったのを見てきた。

 遺伝子への情報書き込みには、膨大なエネルギーが必要とされてる。あらゆる処理端末を使っても、エネルギーの消費が早く、不可能とまで言われた遺伝子操作は、こいつの登場で一瞬にして解決された。


「《魂玉の欠片コア・ピース》……。お前はすごいよ。まさに神だ。……しかし、邪神だった。神は地上には必要ない。今、もう一度。全てを元に戻そう」


 右手に持った彼女を握りしめる。彼女の中には、《魂玉の欠片コア・ピース》破壊用の弾丸が装填そうてんされている。『破神弾ルドラ』と呼ばれるその弾丸は、地層から発掘した《魂玉の欠片コア・ピース》の破片を寄せ集めて作った代物で、劣等種である僕らが、何千人、何万人もの死を超えて、ようやく作り出した1発だ。

 照明がチカッと光り、警告音が鳴り響いた。


「ようやく気づいたのか。今更遅いっての……。さて、さっさと終わらせようか」


 僕は彼女をタンクへと向けた。彼女の引き金トリガーに人差し指をかける。自分でも驚くことに、緊張や震えはない。


「兄ちゃん、姉ちゃん。今までありがとう。僕の死が、無駄になりませんように……!」


 僕は引き金トリガーを引いた。


「ありがとう」


 彼女がそう言った気がした。僕は一瞬驚きながらも、軽く息を吐いて言った。


「愛してたぜ。マイパートナー」


 『破神弾ルドラ』がタンクを貫く頃、周囲は《魂玉の欠片コア・ピース》から溢れ出たエネルギーによって跡形もなく吹き飛ばされていた。

 《魂玉の欠片コア・ピース》があった半径250kmはポッカリと穴が空いた状態に変貌した。


 世界中が静寂に包まれた。


 これからまた、人類の歴史は動き出す。

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