Appassionato——Articolo Capitolo

 ライブ後の月曜。

 杏奈がサークルの部室に入ると、何やらザワザワしていた。


「何?何かあったの?」

「杏ちゃん!」


 明奈が抱き付いてくる。

 まぁいつもの事で、挨拶の様なものだ。


「康介先輩……、って今はもう先輩じゃないか」

「なに?」

「大学辞めたんだってー」

「え?」


 康介が大学を辞めた。

 それを聞いて、晋太郎達のライブの後に隆明が言っていた事を思い出した。


「なんか吹っ切れたみたいだったって、そういう事だったの?」

「杏ちゃん、何か知ってるの?」

「う~ん……」


 杏奈は少し考えた後、笑いながら言った。


「やっとロックンローラーになったんだよ」



「観客のほぼ全員が泣くライブとか、初めてだったわ」


 練造が笑いながら言った。

 今はライブ直後の打ち上げ。

 ライブハウスに程近い居酒屋だ。


「そういう練造も泣いてただろ」

「泣いてねーよ」

「俺は泣いた」

「俺も」

「俺も」

「あ!?」


 練造以外は素直に泣いた事を認める。


「あの曲は、何故かイサの事思い出すんだよな」

「そうそう」


 皆、しんみりとビールを飲む。

 5曲目は去年公開され大ヒットしたアニメ映画の主題歌だった。


「勇に貰った音楽だからな」

「勇の為に使いたいんだがな」

「アイツはそれを望んでないよ」

「そうだな。俺達が笑って音楽楽しんでるのが一番じゃないか?」

「そういや、杏奈ちゃん」


 練造が杏奈を呼ぶ。


「何?」

「元カレはどうした?」

「あぁ、先に帰るってー」

「付き合い悪いなー」

「いや、居心地悪いでしょ。たっくんにも嫌われてるし」

「お?隆明、嫉妬かぁ?」

「うるせぇよ、クソ親父!」


 隆明はビールを飲んだ。


「それに、康介さんは嫌いじゃないよ」

「え?敵意剥き出しだったじゃん!」

「最初はね。けど、途中からなんか吹っ切れたみたいで。よく分かんないけど、悪い人じゃないんだなって……」

「ふぅ~ん」

「杏奈ちゃんはまだ嫌い?」

「う~ん、嫌いなのははっきりしない性格だけ。ほかはいい人だよ」

「うん、何となく分かる」


 杏奈はウーロン茶を飲む。


「ところで、隆明は踏ん切りついたのか?」


 意外にも晋太郎がビールを飲みながら言った。

 こういう事は練造辺りのセリフなのだが。


「え?何が?」

「はぁ……」


 晋太郎を始め、杏奈までもが頭を抱えた。


「こんなんで大丈夫か?杏奈ちゃん……」


 練造が申し訳なさそうに杏奈に耳打ちをする。


「たっくんのこういう所がいいの」


 ニッカリと笑う杏奈。

 隆明にもやっと意味が分かったらしい。

 アルコールとは別の原因で赤面する。


「結局、既に親公認なのよね、私達って」

「いや!でも!」

「テンパり過ぎ。まぁまぁ、ビールでも飲んで」

「え?あ、うん……」


 グラスに瓶ビールが注がれる。


「で、次のデートは何処にする?」


 杏奈のその言葉に隆明は喉を詰まらせるのであった。




04:Appassionato————Fine...

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