15

 よく話を聞くと、先日、友人たちと飲み会をした帰りの道で、新宿歌舞伎町の片隅に店を出している占い師のおばあさんに、秋は「占ってあげようか?」と声をかけられて、千円を出して、そのおばあさんに手相を占ってもらったのだと言う。

 その手相占いは『恋愛運は大吉』であり、秋は喜んで、それからおばあさんと少し話をして、人の手相を見るコツを教えてもらったのだと言う。


「それで僕の手相を見たの?」

「そうです」自信満々のとても嬉しそうな顔で秋は言う。

「ちなみに、私とお兄ちゃんの相性もばっちりですよ」と秋は言った。


 朝倉秋は朝倉静の三つ年下の、今年二十二歳になる大学生の妹で、髪は耳が出るくらいに短くて、いつも動きやすいラフな格好をしている、気持ちの良いさっぱりとした性格をした、(兄の自分が言うのもなんだけど)すごく美人な女の子だった。

 高校まではずっと陸上部に所属していて、種目はハードル。そのころは髪が長くて髪型をいつもポニーテールにしていたのだけど、秋は大学に入学するころにその長かった髪をばっさりと切ってしまった。陸上もやめてしまって、静は大学生になってから走っている秋の姿を一度も見たことがなかった。(髪を切った理由も、陸上をやめてしまった理由もわからなかった)

 静は「じゃあね」といい、「はい。……あ、お兄ちゃん。用事があるんで、またあとで院生室にお邪魔しますね」と言う会話を秋として、大学の校内で秋と別れた。


「お兄ちゃん!」

 大声で呼ばれて静は後ろを向いた。

「大好き!」

 にっこりとした笑顔で、遠くから手を振っている秋が言った。静の周囲にいた学生たちが、幸せそうな顔をして静と遠くにる秋のことを見ているのがわかった。

 静は、なにも言わず、手だけで合図をして、大学の校舎の中に移動をした。

 さっきの言葉通り、静は妹の秋から、ずっと昔から、すごく好意を寄せられていた。(秋はお兄ちゃん子だった)

 もちろん、秋の兄である静はそのことに対して不満などを抱いたりはしてはいなかったのだけど、……ただ、人の大勢居る前で、さっきみたいな行動を取るのは、もうそろそろ、やめてほしいと思っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鳥の巣(科学) 雨世界 @amesekai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ