第20話

 体当たりではない、仮にも魔物避けの香を焚いていたのだ、警戒心の高さ故に生き残っているインビジブルモンスターは自ら攻撃する事はしない。


・・・の、だが俺は攻撃された。


それは恐らくは俺自身が弱いが故に警戒心が高くなったモンスターでも攻撃される程に弱かったという事だ。


強さ=神秘がモノを言うこの世界においては俺という呪いでレベルが上がらない存在であり神秘を扱う事は出来ても持ち得る事が出来ない人間は絶好の獲物なのだろう。


攻撃方法が直接攻撃ではなく魔法による神秘的手段での攻撃なのは、流石というべきか。


せめて体当たりでもしてきたならばまだ反応出来たかもしれないのに。


神秘の一欠けらも持ち合わせていないレベル1じゃあ、畏れるに足らずってか。



「・・・ってぇなぁ!」



ざざざ、と。びくりとしながらもおっかなびっくり攻撃をしようとしてきてるのを声で威嚇し牽制を試みる。


これまで近づく努力をして来たのに、ここからは寧ろ奴等を遠ざける努力をしなきゃならないっつーのは中々に泣けてくる。


おっかなびっくり攻撃しようとしてるのが分かるのは、今さっきぶつかった木を背にしながら囲まれているからだが・・・此奴等、全員風魔法でさっき俺を弾き飛ばした衝撃系の魔法と思われるものを使ってこようとしてやがる。


・・・涎を垂らし牙を剥き出しにしながら。


・・・え?君達雑食?嘘でしょ?兎みたいなつぶらな瞳をしてる割にはやることエグくない?しかも囲んでフクロ?チンピラでもこんな事しないよ?財布でもだせばいいんですか?(切れ気味)375円しか入ってないけど???


拳銃(風魔法)握った野生動物ってこんなに脅威何ですか?


何とか今膝がガクガクしながら漸く立ち上がった所で・・・



「・・・後、何分だったかな・・・」



気になるのはタイムリミット。


さっきの衝撃で腕に嵌めていた帰還用の腕輪の留め具が壊れたのか、投げ出された俺の鞄や道具類と共に落ちている、最悪、体を食われながらでもアレを時間内に手に入れられればまだ助かるかもしれない。


・・・まぁ、体に風穴をあけられてなければだが。


そしてこうなったらもう手段は選んでられない、何が何でもこの状況を切り抜けて帰還してやる。


といっても、俺に残された手段はもうこれしかない。


用意してきた勝算(痺れ薬)は、ダンジョンに対して余りにも考えが足らない自分自身の落ち度により通じなかった。


残るは最終手段。


だが考慮に入れなかったと言えば嘘になる。


金を稼ぐために格が足らない依頼を無理に受けたツケで命を懸けなくてはいけなくなった。


別に家に頭下げれば済んだ話、だがどうしようもない俺の根っこのようなところでソレを拒否した。


ギルドだって鬼じゃあない。


借金だって待ってくれるし地道にカルマクエストと呼称されるようなキッツイ仕事をやってりゃ良かったのかもしれない。


・・・大学に行くためと理由を付けて家を出て行きたかったという俺の願望が叶わなくなるのが嫌だったからだ。


養子の俺はデメリットで神職には絶対に持ってちゃいけない神の呪い持ちで俺を引き取った後で判明して後から漸く子宝に恵まれた実子である俺の妹が才能に溢れた可愛い子であるというなら俺という存在は両親にとって負担にしかならない。


・・・出来た親だ。


だからこそ俺は自分が嫌いになりそうで呪いが少しでも何とかマシになれる可能性のあるダンジョンに潜っている。


神秘の深いダンジョンは遺物と呼ばれる未知の宝物が発見される。


国が所有したり神様への貢物やソレ一個で戦争が起こるレベルのヤバいブツ。


神様の呪いを解ける神様はいないのか俺の両親が探し回ったが結論はその呪いをかけた神様を探すしかないというものだった。


俺は絶対呪いを解いて幸せになってやる、大学だって夢の一人暮らし生活だ。


・・・それが冒険者になってダンジョン潜り始めてすぐ組み始めたパーティーメンバーに賠償金払う羽目になった?


こんなもん知れたら大学どころじゃねぇや。


これから行う事はただの自爆だ。


ないない尽くしの凡人以下のレベルが上がらないクソみたいな、冒険者とはとても呼べないゴミクソだが――唯一ある呪い《祝福》。


この一点だけは明確に俺と他人とを分ける。


そしてそれは恐らくはこのモンスターには通用するだろうという確信をもって上着を脱ぎ棄て、可能な限り荷物から距離を取りながら意識を俺と目の前の獲物にだけ集中する。



「とびっきりの餌だ、喰らいやがれ――【悪神の恩寵カルス・ニヒツ】!」



瞬間、神の呪いが溢れた。


反動が物凄いことになるから絶対に普段からはやらないが、気力でどうにかダンジョンの中という何故かこの呪いが反応する異空間の中で発動することができる。


普段の呪いはこんな融通の利いたものではないがダンジョン中に限りギリギリ自分の意志で発動できる。


普段はパッシブでランダム発動だがダンジョン中に限りアクティブ、みたいなものだろうか?


そして更に、自重を無くし一切の枷をその呪いからは外す、自分で絞ることもなく、寧ろ全力で呪いを排出する様に体から溢れさせる。


――体から黒い線どころではなく濁流ともいえる程の黒い闇が溢れ出す。


宛ら暗黒の海がその場に現れたのではないかと錯覚するほどの濃密で深く巨大な呪いの塊。


突然の事に反射的に能力を使いながら逃げようとしたインビジブルモンスターの群れだったが、使ったところで逃げられるものではなく、あっという間に闇にのまれた。


俺自身も、感覚でしか伝わらないが、恐らくこれは俺自身にも影響を及ぼすものだろうから何かしらの反動がくるだろう。


元々これは使い勝手のいい加護じゃなく呪いだ。


前に使った際は、明確に手酷い後遺症を引いたし、ヤバい被害を起こした。


だからこそこれは使いたくなかったのだが、闇は俺の体を離れ、ダンジョンをまるで犯すように辺りを黒い沼地のように覆った後――まるで満足したかのように俺の体に帰ってきた。


「――え、ちょ、まっ―――――!」


まるで溺れるという錯覚――いや、錯覚じゃなかったのかもしれない。


呪いに溺れるという呪症間違いなし、過去トップクラスのデメリットを負うという覚悟の元行われた俺の自爆行為は何故か俺自身には影響を及ぼさずに済んだ。


 最もそれに気づいたのは闇に飲まれて溺れて意識を失い、目を覚まし、周りに同じ様にまるで死んでいるのではないかと思うほど何も身動きをしなくなった――この世と縁遠くなったと思うぐらい無反応のぶっさいくなカエルの様な面をした兎っぽい生き物――ドモモを一匹、捕獲籠の中に入れた。


五感を確認して口に違和感を覚えながらも帰還の腕輪を回収しようと触ろうとした所粉々に破裂して胡散した為ため息をついて――まるで辺りの神秘を全て吸い取ってしまった様なこの惨状を見て、ふらつく体に鞭打って、何故かモンスターの気配が微塵も感じられないこのダンジョンの状況に気づくことなく、籠を抱えてダンジョンを後にした。


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世界がレベルアップしたようです  東線おーぶん @akansasu

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