第11話


「あー・・・遅刻したわぁ・・・」


スマホで目覚ましのアプリが消えていた事をすっかり忘れていた俺は花見の集合時間に遅れることが確定した――いや、していた。俗にいう遅刻である。


連絡は入っているのでメールが八件に電話五件である。


すまん、遅れる、寝坊したとメールを春樹に送り、集合場所へと急ぐ。


予め焦りたくないからと買ってあった花見用の持ち物を引っ掴み最低限の身だしなみを整えて急行、電話が鳴り響くが無視だ。怒られたくないから、多分春樹だし。


余裕をもって30分前集合!とか張り切って市川さんが言ってたのでその分の余裕の時間は消し飛んだがまぁその・・・すまない。


昨日ダンジョンに向かって帰ってきてから後日ギルドへもっていく分のクエスト用の素材を纏め、装備の点検、その他ダンジョン関係の錬金術を行いながら花見の準備をしてて夜更かししていたのが原因だろうが体が怠く、若干投げやりにももう遅刻したのは事実だししょうがないかぁという諦めも混ざっているので自分でもなんか遅れた癖に開き直ってしまっている感があるのは否めない。


そもそもがダンジョンに向かい花見をするという時点で俺の常識を超えている。


しかも数日前まで見ず知らずだった女子二人とだ、柄にもなくリア充みたいな事をしていて花の大学生感を味わっている事にも何処か違和感を感じる始末だ。


骨の髄まで苦労性な所が染みついてしまっているのかしなくてもいい苦労をしている気分だ。


・・・今からでもふける?


・・・いや、それはただの最低野郎だ、約束までした癖に土壇場でドタキャン、しかも遅刻してからとか屑野郎以外の何物でもない。


だが、遅刻して気まずくてどう謝ればいいものか・・・。


春樹だけならまだなんやかんや許してくれそうだが、あの二人は・・・どうなんだろうなぁ・・・どうにも気が重い・・・。


いや、俺がどう考えても悪いんだけど。


・・・何とか気分転換に道すがら、【妖精の花園】について何かネットで情報を拾えないかと思って覗く。


が、一般にはダンジョンの情報はあまり出回っておらず、あっても有料っぽい所ばかり、貧乏苦学生にはそんなムダ金つかえないですわーと思いながら冒険者用の有志サイトっぽい所でギルドのIDを使い情報を流し読みしていくと、【トラミエル】の情報について得ることができた、というよりそこのギルド自体?というよりリーダーがあまりこういった事を秘匿しないのか、軽く調べたにしては何だか本当っぽい雰囲気のものを集めることができた・・・けど、盛り過ぎじゃないか?と思うほどの功績だった。


【トラミエル】のリーダーは恐るべき力を持った青年で、神の加護を持っているらしい、ダンジョンのボスモンスターと契約を交わし従えており複数のダンジョンを企業に資源回収用として流しており、莫大な財産を冒険者の収入と合わせて持ち得ており、美人で上級の冒険者の女をギルドに抱えている等々。


しかもイケメンで人格も優れているが敵には容赦なく、周りの奴らを悉く力でねじ伏せてギルドを拡大してきたが味方には優しく聡明な頭脳を持っているとか。


うーーーーん、この。


うーーーーーーーーーん、この。


突如現れた流星の超上級冒険者らしいがメディアには余り関わらずもっぱら副リーダーが応じているらしい。


えっと、名前は・・・新崎 霊歌しんざき れいかか・・・。


美人っぽそうな名前のひとだなぁ、それに何だか分からんが気がするのは寝坊して頭が惚けてる所為なのか?


如何にも俺は陰キャ精神が染みついている為か知らない人間に会うとこう・・・嫌悪感?を感じるのはもうホント・・・コレ呪いの所為とかだったりしない?って思うレベルなんだが。


この前もファミレスで切れ気味になっちまったし、幼馴染だった春樹に対してならまだいいが俺はやっぱ性根まで腐ってるわ、ゴミカスだな俺。


・・・でも、抑えられるようになんないとな。


呪いでも呪いじゃなくてもどっちにしろ克服しないとな。


・・・黒いが、そっと頭から晴れる様な気がした。――ホントに、気がしただけだけど。







「――でね!すっごい綺麗な人なんだよ!」


「へーそんなに美人なんだ、そのトラミエルの新崎麗華さんって人」


「そうねぇ、絶世の美女っていうのはあの人の事を言うのかなぁって思ったわね。温和で理知的で女神様の加護も持っていて・・・ダンジョンでもクールにギルドのメンバーに指揮してる姿が目に浮かぶわぁ・・・憧れるなぁああいう人」



東が遅刻するという連絡が入ったので少し歩いて余裕をもって集合していたので花見の前だが荷物を一旦降ろして休憩したいという事で近くの喫茶店に入って休んでいた。


その際に今日の花見場所である【妖精の花園】の会場を仕切ってるギルドの話になったのだ。



「えーっとね、最初に私たちがそこのダンジョンに潜っていた時なんだけど・・・」


「あれ?そこってギルドの所有物になってるって・・・」


「ああ、トラミエルだけじゃなくて多くのギルドがそうだけど基本的にダンジョンを所有となると他の冒険者にも開放してるのよ、よっぽど旨味があるところは隠すけどそうじゃなければ入場料を払ってダンジョンアタックさせた方が儲かるしね」


「何だか分からんがスッゴイ大手のギルドなんだなぁ・・・やべ、俺今更ながらに冒険者じゃないのをちょっと後悔するぐらい緊張してきたわ」


「だいじょーぶだよ!春樹君!スッゴイ優しいから私たちも助けて貰った上に今回も招待してもらったんだもん!」


「そうねぇ・・・モンスタートレインされて困ってた所に霊歌さんが魔法でズバッと一網打尽だったわねぇ・・・トレインを引き起こして私たちに擦り付けようとした冒険者もあっという間に捕まえてたし、何も悪くないのに管理側の不手際って謝罪されちゃったし」


「そうそう!花見に誘われた時も最初は申し訳なくて断ろうとしたら人数が多ければダンジョン内の妖精も喜びの感情により多く触れ合えるから助けると思ってって気を使ってくれたものね」


「もんすたーとれいん?擦り付けられた?・・・何か事故に巻き込まれたの?」


「あっ・・・ごめんなさいね、篠原君。簡単にいうとダンジョン内でモンスターを連れて他のパーティーにモンスターをぶつける事を言うのよ。因みに立派なギルドの盟約違反ね、悪意をもって行ったかどうかでまた分かれる所だけど・・・今回のは故意じゃなく事故の形ね、仲間がダンジョン内で負傷し、帰還の術がなくどうにか駆け回った先にたまたま私たちがいて、それでいてモンスターを連れてきてて・・・」


「あの時はちょぉっと危なかったよねぇ、夢ちゃん・・・」


「へぇーー」



と、雑談をしているとこのタイミングで東から連絡が入る。



『遅刻してすまんな、あと少しで着くけど今どこにいる?』


「あ!あいつ・・・!まったく・・・早めに来た時間が台無しじゃないか!はやくこいっと・・・!」


「東君から?なんて?」


「ひ、東君もうくるの?早くない?・・・サク、今日の私前髪変じゃないわよね?」


「夢ちゃん東君遅刻してくるんだよ・・・?」



でもそんな夢ちゃんは可愛いからだいジョーブだよー!と飛びついている市川さん。


うん、可愛いのは貴方もです。


そう心の中の春樹ノート(極秘)に書き留めた後何とか花見へと向かう会場へは遅刻しなくてすみそうだと東への制裁を拳二発から一発へと変更した所で・・・



「あの、ちょっといいかしら・・・もしかして貴方達、ウチのダンジョンに今日くる予定の子達なの?」


「にゃぁッ!?」


「え、ええっ!?」


「ん、え?そう、ですけれど・・・?」


「ああ、覚えてないかしら?この前中級の【回帰する水源の森】ダンジョンで会ったと思うのだけれど・・・あ、そっちの男の子とは初対面ね。私の名前は新崎霊歌よ」


「【トラミエル】の副リーダーを務めさせて貰ってるわ、よろしくね?」



――何か、すっごい美人の人に話しかけられた。





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