第37話 POORMAN'S WEAPON

{ ナックルボールの副産物である、「ファイアービーンズ」と呼ばれる物。

果たして、それは何なのでしょうか?

これからご覧いただく映像は、当時の状況を記録できた貴重なものです。

ナックルボール破壊に成功した、あるチームが残骸の回収を含めた調査に

入ろうと、その現場に足を踏み入れた時の事です。 }


TV映像は、その現場からかなり離れた場所から撮影されたと見られる監視カメラに

よるものだった。

炎上している乗用車。   複数の隊員が消火作業を開始した、その時。

隊員の足元で眩い閃光。 瞬時に画面が煙で見えなくなった。

そして、画像はここまで、と知らせる特有の砂嵐映像。


{ これは明らかに、爆発によるものである。 

と、後発支援チームの代表はこう結論づけて語っています。 }


続いてのTV映像は、その後発支援チームが撮影したものらしかった。

数百メートル離れた場所で見つかった、もはや原形をとどめていない乗用車。

シャーシが不自然な曲がり方で、エンジンの形状はと言うと・・・まるで、縦に切り離したアイスクリームのような断面。  

次の映像には、やはりボカシが入っていた。


{ 現場から数百メートル先で発見された・・・ 隊員の遺体です。 }

現場の調査に携わったチームの隊長のインタビュー映像に切り替わった。

{ ・・・遺体の損傷はひどかったですが、辛うじて認識番号を確認できました。

私共の隊員で間違いありません。(中略)  右足の膝から下が切り取られたように無くなっていて、周囲を隈なく探したのですが、全く見当たりませんでした。 }


続いて、コメンテーターの正面映像となった。

{ ナックルボールの破壊に成功すると、まず三つの副産物が発生します。


1、霧状の気体。直接浴びてしまうと即死です。助かった例は一つもありません。

防護服を着用していても同じでした。 遺体の損傷具合には変わった特徴があり、

いずれも、筋肉や骨までグズグズに柔らかくなってしまい、軽く触っただけでも

簡単に崩れてしまう、といった奇妙なものでした。

その霧状の気体の成分ですが、どうやら瞬時に消失してしまうらしく、遺体に

痕跡は残すものの、その特定には至っていない・・・との事です。


2、ペレット。  ナックルボールのほとんどを構成している甲羅の部分が

バラバラの状態になった、ひとつひとつの物をそう呼びます。

これは成分の分析調査は進められていますが、未だ解析できずじまいのようです。

何故なら、現在の先端技術を持ってしてもキズひとつ付けられないそうで、危険性

は無いものの、現時点では半ば無用の長物と化しています。

また、不確定な情報によりますと・・・アメリカのユタ州にあった某研究所に起きた事故の原因がそのペレットにあるらしいそうですが、真相は依然謎のままです。


3、問題はファイアービーンズと呼ばれる物です。

いずれも、ほぼ球形をしており、大きさは最小の物で直径約6mmから。

最大の物でも、せいぜいゴルフボール程度でしょうか。

それより大きい物はまだ見つかっていません。

目立った特徴と言えば、さほど艶は無いものの、変にきれいな色をしています。

ナックルボール破壊後、見つかるのは濃い青系統の色がほとんどです。

そのまま放置していれば、徐々に赤系統の色に変化していきます。

おそらく、大気に反応して急激に劣化しているのでしょう。

最終的には真っ白くなり、粉状に崩壊、無害化する事が判明しています。

ですが、その崩壊が進む時間も、発見された時の状況によって異なるようで、

一概に大きさだけで判断してはいけないのです。


ところで、なぜ「ファイアービーンズ」呼ばれるようになったか・・・

それは、冒頭にお見せした映像。 

きっかけは、まさにこの映像から・・・だったのです。

例えて言うなら、粒状のニトログリセリン。 あるいは、地雷キャンディー。

こういうあだ名が付いてしまうほど、危険な存在であるその理由。

それは・・・

扱いに細心の注意を払わなければならない、その特性にあります。

些細な物理的衝撃で大爆発。 全てはそこに尽きるのです。

威力は凄まじく・・・ これは顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまいそうですが、

あえて言わせていただきます。

これは、極めて狭い範囲で起こる・・・核爆発・・・と言うべきでしょうか。

それでいて、(爆心地)跡に有害な放射線は一切検出されていないのです。


せっかくの副産物も、これでは有効活用の見通しすら立たない・・・

と、思われていましたが、まずは安全に回収する事が先決です。

試行錯誤の末、ある企業が開発した『ハードゼリー』という物質を使えば、

安全に持ち運びができ、なおかつ崩壊の進行を停止させる事も分かってきました。

しかし、回収漏れはどうしても起きてしまうもの。

いろいろなケースは考えられますが・・・ 最終的に、テロなどを引き起こす反社会勢力の組織へと流れつくようです。

そして、実際に警察、軍隊、国連のTEAMとの衝突が起きてしまっています。

時々、誤った扱いによる自爆や敵対するグループ同士による抗争で一つ二つの組織

が壊滅した・・・というニュースもあったりしますが、またすぐに新しいグループ

が現れ、同じ事を繰り返しているのが現状なのです。 }


次の映像もボカシがはいっていた。

見ようによっては、ズボンを履いた(横たわる)足の部分に見えなくもない。

{ この写真を直接お見せするのは、とても難しいかもしれません。

あえて説明を補足させていただきますと、自爆か抗争によるものか不明ですが、

とある麻薬カルテルの構成員の・・・ 足だけが残った遺体との事です。 }


再びコメンテーターが語る映像。

{ 私たちが危惧するのは、この『ファイアービーンズ』と呼ばれる物質がすでに

テロ組織に渡り、数多く備蓄され、攻撃の機会を窺っている・・・

そう考えて対処するべき時期に、もう来てしまっているのではないでしょうか?

何しろ『ファイアービーンズ』という物質。

たった一発で、甚大な被害を及ぼす恐ろしい物です。

取り扱いを間違えず慎重に行いさえすれば、極めて安く入手できる武器で発射可能

となってしまうのです。

すでに・・扱い方の情報や、発射できる武器の創意工夫は相当行き渡っていると見ておいた方がいいでしょう。       次回は・・・

『環境に合わせ変化を遂げるナックルボール』をお送りいたします。 }



そのTV映像を食い入るように見ている秀太。

別に関心は無いとばかり、PC画面に向き合っている少女。

晴れ渡った海上と上空を映しているであろう映像に、一機のヘリコプターの姿。

時々チラ見するものの、特に気にする様子も無く、スマホのように画面を払う。


尖った形の顔を部分的に出し、船のように波を掻き分けて海上を進む、カラスの

怪物こと、レイザービル。

 


 

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