第36話 追跡する潜水艦

「おっと、時間だ。」

潜水艦TEAM、LANCEROTTY-LANCEの艦長リチャード・ランスロッティはマイクのスイッチをONにした。

「提督、定時連絡です。先ほど(海中)ドローンを回収できましたので、そちらに

映像をお送りできるのですが、いかがいたしましょう?  それとも、今日はもう

お休みになられますか?」

『・・・まだ23時ではないか。 直ちに送ってくれ。隣にいるWO-PARTSのCEO

さんも見たがっているんでな。』


薄暗い操舵室に、北太平洋第七艦隊総司令デヴィッド・ソロモンと、兵器開発企業WO-PARTSのCEO、ウォルター・オブライエン。

「提督、今回はレイザービルに助けられた形になってしまいましたね。」

「ヤツのおかげで凶悪なテロ組織を一つ壊滅させる事ができた。それは認める。」

「我々のカメラスタッフが撮影した映像はご覧になりましたか?」

「拝見させてもらった。 あの悪名高き{見えない光の矢}の発射シーンを見たのは正直言って初めてだったが、あれが最初で最後となろうとはな。」

「あんな落雷みたいな音がするなんて、皆一同に驚いていましたからね。」


操舵室内のパネルスクリーンに映像が映し出されようとしていた。

「どうなんだろう? WO-PARTSのCEOという立場上、あの手のイベントはやはり

再開すべき、と考えておられるのかな?」

「世間的には厳しいかもしれません。 ですが、どうしても解明したいのです!」

「・・・解明ねぇ・・・ 君らはメカニズムを、国連の諜報部はヤツの行動理由を

解明したい、と我々は見ているのだが。」

「国連諜報部の件は私の知るところではないですし、正直、眼中にもありません。 ですが、RAZORBILLという未知のテクノロジーのニオイがプンプンする謎の存在を目の当たりにしてしまった以上、技術屋魂のわが社はそれを指を咥えてみている訳にはいかないのです。 その辺は御理解いただければ、と思います。」

「・・・ひとつ訊いておきたい。  もし、差し障りがあるようだったら答えてくれなくても構わないが?」

「いえ、なんなりと。」

「君らはヤツをどうしたいと思っている? 最終的に。」

「先ほど申し上げたとおり、まずは解明です。これは、あくまで理想論なんですが

・・・完全制御および、管理下。  そして・・・提督の下、戦力として思う存分

使っていただく。 これが、私の思い描く理想の形ですね。」

「・・・・・・」


複数の海中ドローンのうち、一番近くで撮影された映像にキャプションが加わる。

{ どうやら部分的に海流が生じているらしく、温度差も生じているようです }


「・・・これは背後から撮影しているみたいですね。」

「そうなのか・・・ ん? 何か映っているな。」


サーチライトに照らし出されているおかげで、前方の岸壁は真っ黒なウニのトゲのような集合体で出来た、レイザービルの特徴ある姿の一部と分かる。

{ その部分的に生じている暖流が海底に向けられているのはお分かりになります

でしょうか? }  クローズアップされる映像。

巻き上げられる砂とヘドロ(?)に混じって見られる、夥しい数の白いミミズ(?)のような 生物らしき物体の残骸。

上の映像を部分的に掠めるように横切る生物の姿。

{ 詳しい正体は不明ですが、おそらく線虫の一種が多数埋もれていた所を海流の変化により巻き上げられ、ご覧の様子になったものと思われます。 }

“エサ”に群がる数多くの深海魚。その深海魚を捕食しようとする深海ザメ。

{ この部分的な海流の変化ですが、中途半端といえる温度といい、時おり断続的になる事といい、やはり地形とレイザービルの位置関係を照らし合わせて見ても、これは不自然だという見解に達しました。 }


「まあ、そんな事だろうとは思っていたがな。」

「すると、海水を取り入れて循環しているんでしょうか?」

「内部の原子炉を冷却でもしているとか?それにしては排出温度が低すぎるぞ。」 画面に表示されている温度は40~37℃を推移している。

「そうですね・・・自然界に存在している熱水鉱床でさえ、300℃はありますし

・・・ やはり、海水から何かを取り出しているとしか思えませんね。」

「ホントにヤツはよく分からん。」


今の所、目立った動きを全く見せない、レイザービルと呼ばれるカラスの怪物。 




 

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