第52話 緋莉と僕らの金曜日



 駅前のパーキングに車を入れて僕達は緋莉を連れて駅へと向かう。


「えっと……まだみたいなの」

「緋莉ちゃん?お友達でも来るのかしら」

「お友達?うん!まぶだちなの!」


 緋莉が満面の笑みを浮かべて鈴羽に応える。

 ああ……うん、何となく誰を呼んだのかわかる気がするよ。

 駅の改札を出たところで僕達はそのまぶだちとやらを待つことにしたのだが。


「いやぁ〜こっちはごっつう寒いやない?関西はまだましやったで」


 聞き慣れた声の主はやはり僕の予想通り、まこっちゃんだ。

 改札から猫背になってブルブルと震えながら僕達のほうへと歩いてくる。


「久しぶりなの〜!」

「久しぶりやなぁ」


 イェーイとハイタッチをする我が妹と隣人。

 いつかの水族館以来、すっかり意気投合したようで歳の離れた友人関係を構築しているらしい。


「明けましておめでとうなの」

「おめっとさんやで〜」

「明けましておめでとう、誠くん」

「九条はんもおめでとさんやで」


 まこっちゃんが言うには丁度大阪からの帰りに緋莉から連絡があったから寄ってきたそうだ。

 達也にしろまこっちゃんにしろ、あまり実家には帰りたがらないみたいだけど流石にお正月くらいは顔を見せに帰っていたらしい。


「大体こんなことだろうと思ってたよ」

「あれ?お兄ちゃん分かってたの?」

「そりゃまあなんとなくね」

「つまんないの〜」


 緋莉的には僕を驚かせようと思っていたみたいだけど、僕の知る限りではわざわざ電車で来るような友達は緋莉にはいなかったと思う。

 まぁ知らない間にそんな友達ができていたってこともあるかもだけど。

 しかし、こうやって楽しそうな2人を見ているとなんというか親戚の人に久しぶりに会った姪っ子みたいに見えたりするのが、ちょっと面白い。


「皐月っち、なんや失礼なこと考えてへん?」

「うん?あはは、気のせいだよ」


 変に感の鋭いまこっちゃん。


 そんなわけで僕達4人は駅前をぶらぶらしたり地下で食事をしたりして1日を過ごした。

 最近ではお正月でも大抵の店が開いているので、暇つぶしには事欠かない。

 僕が小さかった頃は、閉まってる店も結構あったと思うんだけど今では閉まっているほうが珍しいくらいだ。


「鈴羽の会社は休みなんだよね?」

「うん、一応はね。出てる人も何人かはいるけど基本的にはおやすみかな。会長が休みたがりだし」

「あはは、確かに休みたがりそうだ」


 あの門崎会長さんなら確かにお正月は休んでそうだ。

 きっと温泉に行ったりして遊びに行っているに違いない。


 ひとしきり4人で遊び、まこっちゃんは一足先に電車で帰っていった。

「僕、何しに来たんやろか?」

 ほなまた、とあっさりとした挨拶をする緋莉にジト目を向けていたまこっちゃんが可笑しくて鈴羽はずっと笑っていた。

 ホント、何しに来たんだろう?


 翌日、結局両親に会うことなく僕と鈴羽は帰ることになった。

 以前に比べれば随分と母さんには会っているので、特に会う必要もなかったんだけど、何か色々と僕の知らないところで企んでいる気がするから少し話したかった様に思う。


 鈴羽はほっとした顔をしてたから、会わなくて正解だったかもしれないけれどね。


「じゃあまたね、緋莉ちゃん」

「うん!すぐに遊びにいくから!」

「ふふっ待ってるわね」

「うん!お兄ちゃんのこと、よろしくなの!」

「ええ、もちろんよ」

「え〜?何だよ、それ」

「あ、お兄ちゃんも、またね」


 う〜ん、ついこないだまではお兄ちゃん子だった様に思うんだけど、やっぱり最近僕の扱いが雑になってないかな?

 そんな緋莉に見送られて僕は鈴羽の愛車アルファに乗り込み帰路についた。


「相変わらず父さんも母さんも忙しいみたいだったね」

「そうね。正直言ってお義母様が不在でちょっとほっとしたとこもあったわ」

「ははは、それは僕もだよ」


 帰り道の車の中で僕と鈴羽はそう言って顔を見合わせて笑う。

 どうも我が母ながら苦手なんだよな。

 手のひらの上で転がされてる気がして仕方ないから。


 鈴羽は鈴羽で去年から散々付き合わされてるから余計だろうし。


「どのみちどうやっても母さんの手のひらからは逃げれないだろうけど」

「ふふっそれもそうね」


 慌しかった昨年と比べ何事もなかったお正月が終わり、また新しい一年が始まる。

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