第51話 三が日の火曜日
お正月も明けて、翌2日の火曜日。
僕は鈴羽の運転するアルファで実家へと向かっていた。
昨年のお正月は散々だったけど、今年は母さんからの無茶な要求もなく本当の意味で実家に挨拶をしに行くだけだ。
「〜〜♪〜〜♪」
おかげで運転をする鈴羽も気が楽なようで、軽快に鼻歌を歌っている。
ただ、その鼻歌に合わせてスピードがぐんぐんと上がっているのは僕の気のせいだろうか。
高速を降りて久しぶりに懐かしい街並みを横目に実家のある高台へと登っていく。
高台の上、僕の実家の敷地を周り、裏門から中へ入る。
昨年は沢山の来客があったため守衛さんが立っていたけど、今年は普通に門が開け放たれていた。
「去年も思ったけど、本当に広いお家よね」
「うん。無駄に広いからね、ここの庭は」
裏門から入って実家、つまり本家の駐車場に行くまでに林のような庭を通る。
この林の中には、母さんや父さん、それに僕や妹の緋莉専用の茶室がある。
ただそれだけの為にこの広い林があるわけだ。
林を抜けて本家が見える駐車場に車を止める。
「到着よ、皐月君」
「ありがとう。鈴羽」
車を降りて本家の方を見ると、小さな人影が走ってくるのが見えた。
「おねえちゃ〜んっ!!明けましておめでとうなの〜!!」
「緋莉ちゃん!明けましておめでとう」
ダッシュで鈴羽に抱きつく我が妹。
「あ、お兄ちゃんもおめでと」
「なぁ、緋莉。年々僕の扱いが雑になってきてない?」
「え?そんなことないよ?ね?お姉ちゃん」
「ふふふ、そうね」
「ええ!?鈴羽までひどいや」
緋莉を真ん中に挟んで手を繋ぎ、僕達はそう笑いながら本家へと向かった。
「おめでとうございます。皐月様、九条様」
「おめでとう、是蔵さん」
「明けましておめでとうございます。是蔵さん」
玄関先では母さんの専属運転手の是蔵さんが出迎えてくれる。
是蔵さんが言うには今年年始の茶会は諸々の都合で5日に開催されるらしく、他のお手伝いさん達はお正月休みで不在だそうだ。
「是蔵さんも休めばよかったんじゃないですか?」
リビングでお茶を出してくれた是蔵さんに尋ねてみると、大方予想した返事が返ってくる。
「奥様と旦那様におやすみはございませんので」
我が母もそして父さんも、どうやら今日も不在の様子。
是蔵さんもこれから母さんを迎えに行くそうで、例をしてリビングを出て行った。
「相変わらずお義母様は忙しいのね」
「本当に相変わらずだよ、全く」
「なのよ、全く」
「ふふっ」
鈴羽の膝の上で緋莉が真似をする。
やっぱりこうして見ると実の姉妹みたいで何となく嬉しく思う。
「あ、お姉ちゃん、お兄ちゃん!後でちょっと用事を頼んでもいいかな?」
「用事?」
「うん。あのね、駅まで乗せていってほしいの」
「あら?緋莉ちゃん、どこかにお出かけ?」
「ううん、それはいってみてからのお楽しみなの!」
「お楽しみね……」
にへらと笑う緋莉を見ていると、悪戯や悪巧みを考えた時の母さんの笑い方にそっくりだ。
ああ、母さんの場合は笑うというよりは冷笑か。
時間もまだ早かったので緋莉の用事は後回しにして、僕らはとりあえずお昼にすることにした。
「じゃあ、お兄ちゃんよろしくなの!」
「ごめんなさいね、皐月君」
「あはは、じゃあ適当に作るから2人共リビングで待っててよ」
冷蔵庫の中を確認しながら僕は2人にそう声をかける。
うん、結構色々あるんだよな。ここの冷蔵庫って。
普段はお手伝いさんが管理をしているためか、緋莉に三食出す様に買い込んである食材が沢山ある。
さて、お正月で御節も飽きただろうし、素麺とかはお歳暮でもらってお腹いっぱいだと思う。
となると……中華かな。
ていうことでお昼ご飯は炒飯に八宝菜、中華スープにすることにした。
「お兄ちゃんって無駄に料理が上手なのよね」
「無駄って何だよ、無駄って」
「うふふっ、おかげですごく助かってるのよ」
それなりに大目に作ったはずなのに、テーブルの上のお皿はきれいさっぱりなくなっている。
残さず食べてくれると作った甲斐があったってものだ。
僕が洗い物をしている間、鈴羽と緋莉は次いつ僕の家に泊まりにくるかの相談をしていた。
このパターンからすれば、きっと依頼されているホテルのセレモニー辺りになるんだろうな。
「緋莉もお兄ちゃんの晴れ姿を見にいくの!」
「ふふっじゃあ一緒にいきましょうか」
「うんっ!!」
ほらね。
予想通り過ぎて笑ってしまうや。
「あ!お姉ちゃん!そろそろ時間なの!お願いしますなの」
「はいはい、皐月君、行きましょうか」
「うん」
鈴羽と緋莉と一緒に家を出て駅前に向かう。
さてさて緋莉の用事ってのは何なんだろう。
お楽しみって言ってたけど……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます