第34話 土曜日の海で
「海だあぁっ!!」
「うん、海だね」
「夏と言えば海!海と言えば夏だっ!なぁ!皐月!」
「そうだね」
「おいおい、皐月!テンション低うないか?海やで海!もっとこうあるやろ?」
「あのね、達也。いきなり呼び出されて連れてこられた僕がテンション上がると思う?」
そう、いつものように鈴羽を仕事に送り出してから部屋の掃除をしていたら達也から急に呼び出され、あれよあれよという間にこうして海に連れてこられたのだ。
「せっかくの夏なんやで!お前部屋に篭って掃除なんかしとう場合やないやろが!」
「だからって急に呼ばなくてもよくない?それにお盆も過ぎたしそろそろ夏も終わりだよ」
「そう言うなや、な?ほら見てみぃや、水着のお姉ちゃんいっぱいやで」
「……僕は鈴羽がいるからあんまり興味ないけど」
ここのビーチは近場でも結構有名で週末ということもありかなりの人で賑わっている。
今年は涼しいとはいえこの時期でもまだまだ人出は多い。
達也の言う通り水着姿の女の子が沢山いて、それはそれでいいんだけど……
やっぱり同じ見るなら鈴羽の水着姿の方がいいんだよね。
僕は昨年一緒に行ったプールでの水着姿を思い浮かべていた。
「まぁええわ!よっしゃ!ほな行くで!」
「あ〜僕はその辺で座ってるから、達也頑張って」
「くっ!彼女持ちの余裕かいっ!」
僕は近くの木陰に座りボーッと海を眺める。
燦燦と降り注ぐ日差しが焼けるように暑く、達也みたいに走り回る元気が出ない。
そして眺めていると達也があっちで声をかけ向こうで声をかけしているのが見える。
あははは、全然相手にされてないや。
見た目はイケメンの部類に入る達也だけど、なんていうのか雰囲気が軽いんだよね。
本人はそんなつもりはないんだろうけど、いかにも遊んでますって感じだし。
僕は近くにあった海の家でかき氷を買って再び木陰に戻った。
「あ、あのぅ〜」
「え?あ、はい」
不意に声をかけられ顔を上げると水着姿の女性が2人、目の前に立っていた。
座っている僕に話しかけているので前屈みになっていて、その色々と目のやり場に困ってしまう。
「あの、間違えてたらすみませんが立花皐月さんでしょうか?」
「え、あ、はい。そうですけど……」
「うわぁ!やっぱり!『品格のススメ』見ました!うわぁ!きゃあっ!本人だ!」
「あ……ありがとうございます?」
ああ、それかぁ……
あの番組以降こうして声をかけられることがしばしばある。
そんなに映ってなかったと思ってたんだけど、改めて見返してみると意外な程に映ってたのに驚いた。
うわぁとかきゃあとかはしゃいだ後、僕と握手をして写真を一緒に撮って嬉しそうに帰っていく女性を見送り、ため息をつく。
いや、ほんと、勘弁してよ……
一躍有名人じゃないけど、僕としてはそんなことに興味はないわけで。
あ、達也がこっち見てる……
海に向かって走っていっちゃった……
「海のバカヤロー!!」
あははは、何やってんだか。
ん?あれ?どうしたんだろ?
海に向かって叫んでた達也が急に海に飛び込んで泳ぎ出した。それもすごいスピードで沖に向かっている。
さっきの僕を見て拗ねたとかじゃなく……あれは何かあったに違いない!
僕は急いで達也が泳いでいった海の方に駆け出す。
「何かあったみたいなんです!救急かライフセイバーの人をお願いします!」
「分かった!」
海の家の人に救急を頼んで海辺まで走り達也を探す。
沖合いの方で動く人影が僅かに見えるような気がするけどそれが達也なのかは分からない。
ライフセイバーの人達が駆けつけてボートで沖合いに出て行く。
そしてしばらくするとボートが帰ってきた。
達也と……高校生くらいの女の子を乗せて。
担架に乗せられて女の子が救護室に運ばれていくのを見ていると達也が隣に来た。
「達也!」
「おう!皐月!」
「大丈夫?何があったの?」
「ああ、あのな……」
達也が言うには僕を見て海に飛び込んだあと、沖合いに流された小さなゴムボートを見つけたらしい。
それでそのゴムボートが転覆したのを見て慌てて泳いでいったそうだ。
幸い達也の到着が早かったのでそれほど水は飲んでいないみたいだけど……大丈夫だろうか?
「いやぁほんまびっくりしたで!高校んときに水泳部で良かったわ」
「達也って水泳部だったんだ?道理でスイスイと泳いでいくなと思ったよ」
一緒に救護室に向かいながらちょっと驚きの事実を聞かされる。
今の達也から運動系の部活をしていたイメージが湧かないからね。
救護室につくとライフセイバーの人達が達也に事情を聞くために部屋へと僕も一緒に通してくれた。
女の子はすでに意識を取り戻していて念のためこの後病院に搬送されることになっている。
部屋には当の女の子とその友達であろう少女にライフセイバーの人がいた。
「あ!ありがとうございました!おかげでこの子もなんともなくて!本当にありがとうございました!」
「あ、あの……ありがとうございます」
「ええよええよ、かまへんて。無事で良かったわ」
ガバッと頭を下げて達也に感謝しているのは付き添っていた少女で中学生か高校生くらいだろうか?小柄で目の大きな可愛い子だった。
溺れた本人はまだやっぱりしんどいのか顔色も悪く俯き加減で小さな声でお礼を言っていた。
「じゃあちょっと事情だけ聞いてもいいかな?」
「は、はい……」
「ええで、何でも聞いてや」
何となく僕はいるところがない感じがしたので部屋から出ることにする。
すると付き添っていた女の子も同じだったみたいで一緒に表へと出てきた。
「ちょっと目を離したらいなくなっちゃって、びっくりしたんです」
「僕も丁度達也を見てたら急に沖に泳いでいったから驚いたよ」
「……達也さんていうんですね、あの方」
「うん、僕と同じ大学の友達でね」
「大学生ですか?あ、私、
「僕は立花皐月、達也は真砂達也。真に砂って書いて真砂って読むんだって」
夕菜さんに希良梨さんか……キラキラネームってやつだね。
この後、変に面倒見のいい達也は彼女達に付き添って病院までついて行くことにしたので僕はここで別れることになった。
鈴羽の仕事が終わる時間に待ち合わせをしていたので、時間的に無理があったためだ。
別れ際に達也と話していると夕菜さんが熱ぽい視線を達也に向けているのが非常に気になった。
これはもしかしてもしかするんじゃない?
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