第15話 鈴羽の実家へ行く金曜日
ポカポカ陽気の春が過ぎ、そろそろ夏の足音が聞こえてくるとある金曜日の夜。
「ねえ?皐月君、来週の三連休っておやすみだよね?」
「うん、丁度水曜があるから僕は四連休になるかな?どうかしたの?」
「お父さんがね、皐月君うちに来ないか?って」
「お義父さんが?」
「ええ、毎年このくらいの時期にお父さんの実家に顔を出してるんだけど皐月君も来ないかって」
「僕が行ってもいいのかな?」
「ふふっ、皐月君はもう息子みたいなものだって言ってたわよ」
脳裏には鈴羽の実家に行った時のことが浮かぶ。あの日、別れ際に伝えた言葉を思い出して少し照れくさくもあるが、何より息子みたいなものだって言ってくれることに胸が熱くなる。
「じゃあ折角だしお邪魔させてもらおうかな」
「うふふっ、きっとおばあちゃんも喜ぶわね」
「あ、そっか、鈴羽のおばあちゃんの家に行くんだものね。えっと……どんな人なの?」
「そうね……多分皐月君と話が合うと思うわよ」
そう言って鈴羽は悪戯っぽく笑い詳しくは教えてくれなかった。
う〜ん、なんだろう?気になるなぁ。
こうして連休中に鈴羽の実家に行くことになりバイト先に休みをだしたり大学の課題をしたりと忙しなくその日を迎えた。
一応前日から来てもいいとのことだったので今は鈴羽の運転で向かっている最中だ。
相変わらずアルファを運転している鈴羽はご機嫌さんでラジオから流れる歌を口ずさんでいる。
僕も車を運転するようになればこんな風になるんだろうか?なんて思ったりもする。
高速を降りてしばらくすると閑静な住宅街に入り鈴羽の家が見えてくる。
まだ夕方だったこともありお義父さんは帰ってきていないみたいで車がなかった。
ひょいひょいと慣れた手付きでアルファを車庫に入れて玄関先へと向かう。
「ただいま〜」
「お、お邪魔します」
久しぶりに来たのでついつい緊張してしまう僕を見てクスッと笑う鈴羽。
「ふふっ緊張する?」
「うん、まぁやっぱりね」
「いらっしゃい、皐月君。おかえり鈴羽」
「ご無沙汰しています」
「ただいま、お母さん」
玄関で出迎えてくれたのは鈴羽のお母さん九条美鈴さん、僕にとっては義理の母になる人だ。
僕をリビングに案内して鈴羽と並んで話をしている姿は仲のいい姉妹のように見えるくらいに若く見える。
しかし本当にこうして見ると姉妹にしか見えないや。
「お父さんは?」
「仕事が立て込んでるって言ってたから少し遅くなるんですって」
「早く来すぎましたかね」
「ふふふ、そんなに改まらなくてもいいわよ、皐月君」
そう言って僕に笑いかけてくれるお義母さん。
いくら僕でも緊張はするもので……以前に来た時は鈴羽と付き合っているって報告と将来のことを話そうと決めていたから会話が何とか続いたけど、さて、どうしようかな。
「鈴羽のお祖母さんのところに行くんですよね?」
「ええ、毎年このくらいの時期に行ってるんだけど、鈴羽にいい人が出来たって言ったら連れて来いって」
「おばあちゃんらしいわね」
「ほんと、いくつになっても子供なんだから。参っちゃうわ」
「楽しそうな人ですね」
話を聞いている限りではなんだか楽しそうな人のように思う。僕と気が合いそうって鈴羽が言っていたけど、それって僕も子供っぽいってことなのかな?
ひとしきりそんな話に花を咲かせ、お義母さんと鈴羽が夕食の準備にキッチンに行ってしまい僕はリビングで手持ち無沙汰にテレビを眺めていた。
寛いでいてね、と言われても自分の部屋にいるときみたいにする訳にもいかないし。
何気なしにチャンネルを変えてみると、画面の中に我が母の姿が。
どうやらバラエティ番組のゲストで出ているみたいだけど……コメントが辛辣すぎて見ていられないよ。
観客席と司会者さんは爆笑しているけど、あれって多分本気で言ってるんだよね。
あの人には、笑いを取るとかまずないだろうしテレビ用の笑みを浮かべてはいるものの……
僕は、頭を振り母の幻影を振り払いチャンネルを変えた。
うん、今日のところは忘れよう。
そうしていると玄関の開く音が聞こえてきた。
「ただいま」
「おかえりなさい、早かったのね」
「そりゃ、まぁ……早く帰ってくるだろ?」
「ふふっ、そうね」
こうして僕は久しぶりにお義父さんと再会し4人で食卓を囲むことになった。
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