第13話 ゆっくりと流れる土曜日
楽しい時間は過ぎるのが早いと言うけど緋莉が来てからあっという間に帰る日になり僕の家に是蔵さんが迎えに来ていた。
「皐月様、九条様、お嬢様をありがとうございました」
「お姉ちゃん!お兄ちゃん!バイバイなの!」
「ふふっ緋莉ちゃん、また遊びに来てね」
「うんっ!」
「ちゃんといい子にしてるんだぞ」
「お兄ちゃん、緋莉は小さい子じゃないの!」
「ははは、それもそうだね」
ハイツの下でそんな話をしていると、バタバタと階段を駆け下りてくる音がする。
「バイバイやで〜緋莉ちゃん!」
「まこっちゃん!」
階段を下りたまこっちゃんにぴょんと飛びつく緋莉。
「まこっちゃんにはお世話になったの!また絶対遊びに来るの!」
「うんうん、僕も楽しみ待っとくさかいな」
「まこっちゃん!」
「緋莉ちゃん!」
えっと?新喜劇的な感じがするのは僕だけなんだろうか?
隣では鈴羽が笑いを噛み殺しているし、是蔵さんですら半笑いで眺めていた。
「それでは、また何かございましたらご連絡くださいませ」
「バイバイなの〜!」
是蔵さんの車に乗って帰っていく緋莉を僕たちは見えなくなるまで見送っていた。
「はあ、なんや寂しくなったなぁ」
「ふふっ誠くんは緋莉ちゃんと仲良くなったものね」
「僕より兄らしいかもね」
「はは、おおきにな。ホンマにおもろい子やったなぁ」
「そうだね、よく僕の家であんな感じに育ったと思うよ」
父さんも母さんも騒がしい人じゃないし、僕もそんなタイプでもない。
小さい頃によく遊びに来ていた崇史さんの影響も少なからずあるんだと思う。
名残惜しそうに部屋に入っていくまこっちゃんと分かれて僕達も部屋に戻る。
「なんだか広く感じるね」
「そうね、少しだけだったけど賑やかだったから」
何となくガランとした感じの部屋を見てそんな風に感じてしまう。
「また夏休みとかにも来るだろうから」
「ふふふ、そうね。楽しみにしときましょう」
緋莉が使っていたコップを食器棚にしまいながら次に来たときはどこに遊びに連れて行ってやろうかと考えて自然と笑みがこぼれる。
「鈴羽は明日は仕事なんだっけ?」
「ええ、明日と明々後日が一応仕事ね」
GW中も全部休むと流石に会社が大変らしく仕事に行くと聞いていた。
鈴羽が言うには門崎会長は休みなく働いているそうなので秘書課の人が変わりばんこに出勤しているそうだ。
「杏奈ちゃんと梓ちゃんもお休みあげないとね」
「それもそうだね、リョータの面倒も見ないとだしね」
「ふふっ、面倒って」
ここ最近はリョータの方も忙しいらしくゆっくりと話をする時間もない。
リョータはリョータで本気で色々と考えているみたいだし。
「さて、じゃあ晩御飯の支度でもしようかな」
宜しくお願いしますと笑う鈴羽に軽くキスをしてキッチンに立つ。
さてと、今日は何を作ろうか?
冷蔵庫の中身は先日買い物に行ったのでそれなりに充実している。
適当にある材料で手早くできそうな料理を作る。
明日は鈴羽は仕事なのであまりお腹にたまりそうな料理は避けてあっさり目に味付けをする。
晩御飯が終わっていつものようにリビングのソファーで2人並んでコーヒーを飲みつつ寛ぐ。
「新入社員の人とかも仕事なの?」
「ええ、もちろんよ。ずっと休みだとGW明けに仕事に来なくなる子が結構いるのよね」
「五月病みたいな感じ?」
「丁度仕事にちょっと慣れてきてまとまった休みでしょ?何となく仕事に行きたくなくなるみたいなのよね」
「社会人も大変なんだね」
「皐月君もその内わかるんじゃないかな」
鈴羽にそう言われてもたぶん僕は実家の方を継ぐと思うから休みがそもそもないんじゃないだろうか。
「あ、皐月君は実家の方だから心配ないかな?」
鈴羽も思い出したみたいで、僕を見てクスリと笑う。
「そうなったら母さんのことだからそもそも休みなんてものがないような気がするね」
「たしかに・・・」
母さんの顔を思い浮かべたのか2人して苦笑する。
「ごちそう様」
「お風呂入ってるよ」
「皐月君といると至れり尽くせりね、女子力が目に見えて下がりそう」
「あはは、鈴羽はそのままで十分だよ」
「ふふっ、ありがとう」
そっとキスをしてからキッチンに洗い物をしにいく。
こうしていると本当に結婚してるみたいな錯覚を覚えることがしばしばある。
それは鈴羽も似たようなものみたいで、擬似結婚ねって笑っていた。
こんな些細なことでもお互いが同じようなことを考えていたり、それが分かり合えるって本当に嬉しく思う。
お風呂場から顔を出して手招きしている鈴羽を見てそんな風に思う。
「先に入ってるね」
「うん、洗い物だけしとくから」
乾燥機に食器を入れタイマーをかけて何気なく食器棚を眺める。
「ホントわからないものだよね」
並べられた食器は全部ペアで買ったものだ。
寄り添って並ぶ食器たちを見て笑みがこぼれる。
「皐月く〜ん」
「は〜い、ちょっと待ってね」
タオルで手を拭きつつ僕は鈴羽の待つお風呂へと向かっていった。
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