第17話チャリティーイベント①

そして、チャリティーイベント当日。

前日に用意して並べていたテーブルには、使用人、メイド達が荷物を抱え、本や衣服、平民がリメイクするのに使える木材、金属部品などを並べている。

普段の庭ではない、イベント用に準備された庭を、サミュエルとカインは当主の部屋から眺めていた。

「結構要らない物が置いてあったんだな、うちの屋敷にも」

現当主のサミュエルは、巻きタバコを吹かしながら、庭を見ていた。

カインもその言葉に同意し、「そうですね。結構な数だ」と頷いた。

これだけの物があれば、市民が大勢来ても売っている物全てが売り切れることはないだろう。それに、結構安い値段で販売するのだから、街の貧困層の人々にも手に届きやすいはず。それを考えると、チャリティーの準備に奔走したかいがあった。

「ところで、叔父さん。話って何ですか?執事まで席を外させて話したいこととは?」

「ああ、それなんだがな。お前、以前宮殿で王族たちとお茶しただろう?」

「ええ。」

あの時は流石のカインもジャポニズムの話を気兼ねなく話せたり、オーギュスト殿下と語り合うのが楽しくて、セレナとの交換日記に、王宮であったことを長々と書いた。

「またお見合いの件がきたぞ」

「またその話ですか。俺は仕事に専念したいんだ。お断りしますと、言いましたよ」

「今度のは貴族じゃない。王族だ。お前を、オーギュスト殿下の御妹君とお見合いを、向こうは薦めてきたんだ。正式な手紙もきている。私自身としても、この話は願ってもない事だと思ってるしな」

「叔父さんは、俺にとって本当に良い話だと思ってるんですか?」

「お前も、もう二十歳。周りは結婚、子供もいるだろう。いい加減、彼女を持たなければいけない年齢だ。それに、シュバイツア家の跡取りとしてもな」

「それは知っています。ですが、俺は自分で決めるつもりですから」

「だが、今回は俺の顔を立てて、一度でも見合いに参加しろ。これもいい経験になるはずだ。いいか、これは養父として言ってるんだ」

サミュエルは時折真面目に話しをすることがあった。

今回の見合いの件は本気だ。

そう感じ取れた。

「会う日にちは、チャリティーイベントが終わってからだ」

片メガネのアンクルからは、鋭くこちらを見つめるサミュエルの瞳があった。




―――サミュエルの部屋を出たあと、カインの優雅に歩く足は別人の様に大きく急いでいた。

(今回ばかりはどう言いつくろっても、相手は王族だ。何とかして逃げないと)

お見合いと言う名の、お茶会なんて行きたいとも思わない。

限られた人でしか会うことを許されない、深窓の王女を見てみたい気もするが、それとこれとは話は別だ。

(これだから、複雑な貴族社会は嫌なんだ)

カインは片手に一冊のノートを持って歩いていく。

今朝、いらない本をメイド達が自分の部屋から持って行くので、英語で書かれた自分のノートをメイド達に見られない為、隠すためだった。

そして、友人四人がこの屋敷に到着したことをメイドから知らされ、すぐに裏庭へと向かっていた。

急な縁談話、そしてチャリティー、どちらも平穏に終わらせておきたいとカインは願っていた。





この日は少しひんやりした秋風が吹いていたが、雲から顔を出す太陽の光を受けて、外に出るには良い天気日和だった。

シュバイツア家の門の前には人が大勢詰めかけてきていた。

屋敷の使用人達は、開門から来る民衆に対応すべく、庭では人員の配置やお金の集計方法など最終確認を行う。

セレナは、他の場所で設営の準備をしていると、隣から声が聞こえてきた。

「よお!セレナ!」

声のする方へ見ると、そこには何やら大きな荷物を抱えたカインと、街の4組の姿だった。

カインが事前に、友人四人を屋敷の裏口を使ってもいいように叔父のサミュエルに相談して、手配していたのは知っていたのだが、その彼らの服装が普段見慣れた格好ではないことに驚きの声をあげた。

「ど、どうしたの、その衣装!」

それは、この五人が貴族が宮殿に着ていくような、服装をしていたからだった。

雪のように白い色を基調にした服装で、更には腰にサッシュベルトをしている。襟袖と袖口には金色の刺繍が施され、見事な模様を編み出し、そして、特徴的なのが、それぞれ5人には色違いのサッシュを肩から掛けており、サッシュの色に応じた造花を付けていた。

遠眼からみると、余計に王子様の様な服装にも見える。

「皆、けっこうさまになってるだろう?カインに頼んで準備してもらった生地を、俺たちみんなで作ったんだ」

「カイン、そんな恥ずかしそうな表情するなよ。お前が一番似合ってるんだから、堂々としてろよ」

ジョンが言う通り、四人の友人たちの後ろで酷く沈んだ表情で立っていたカインは金色の髪とその碧い瞳から王子様みたいに似合っていた。

だが、声をかけられ、セレナと眼が合うと、プイッと顔を朱くしながら別の方向を向く。

(・・・・見られたくない感じね。もしかしてこれかしら?カイン様たちが最近頑張ってきたことって)

そうだとしたらずいぶん時間がかかったことだろう。

いくら貧困層の仕事として服飾を取り扱うことが多いとはいえ、これだけの衣装を手作りで作ったというなら凄いことだ。

「開門前にセレナに準備してたもの、持ってきたよ」

「はい、これな」と言って手渡してきた物、それは金色の長い髪でできたカツラと、眼鏡。

「これで、庭で騒がれることなくできるね」

「あ、準備できたのね!ありがとう」

実はセレナがチャリティーに出れないのは可哀そうだという、この四人の批判を受けて、カインがサミュエルに交渉しライナーに依頼していた物だった。

「セレナ、被ってみろよ」

そう言われて、セレナはライナーの手さばきによって、カツラをつけさせてもらった。

自毛の髪の毛を一つに結び、その上から金色のカツラをピンなどで留める。

「うん、やっぱり似合うよ、ね、皆もそう思うだろ?」

「おー、やっぱ似合うぜセレナ。これで、瞳の色に気づかれなきゃ、誰も日本人だってわかんねーだろう」

「カインも、黙ってないで、言ってやれよ。似合ってるって」

トーマスが茶化すが、カインは目線をすぐにそらして「ああ」と言うだけだった。

そんなご主人、カインの素っ気ないときの行動には慣れていた。

照れ隠ししているカイン様は、わかりやすい。

(何か話題、変えたほうが良いかしら・・・)

「ところで、皆は、そのわきに抱えた大きな袋はどうしたの?」

と聞いた。

すると、サッと表情を曇らせたカインを除く四名は、『よくぞ聞いてくれました!』といった表情で、ニヤッと笑っていた。



            ♢




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