大きな「私」と小さな「彼」の物語

遊座

大きな「私」と小さな「彼」

 目を開くと、今まで見たことのない風景が広がっていた。


 地面が茶色や緑色じゃない。


 固そうな灰色が基調。


 その地面には小さな立方体が整然と並んでいる。


 どこまで広がっているのだろう、と顔を上げると、ようやく見慣れたものが見えた。


 緑色の山だ。


 随分遠くにありそうだが、「私」はとりあえずそこを目指して歩みだそうとして、足元でわめいているものを見つけた。


 大きさは「私」の指一本分くらい。


 「彼」は小さかった。


 「私」は驚いたが、そっとつまみ上げて観察する。


 姿は「私」とほとんど変わらない。


 ただ大きさと、性別が違っていたし、その容姿は「私」をうっとりとさせるに足るものだった。


 なんてカッコいいんだろう、と思わず口を寄せると、一際悲鳴が大きくなった。


 ひょっとしたら食べられると思ったのかもしれない。


「食べたりしない。大丈夫」。


 そう言うと、「彼」はホッとしたような顔になる。


 そして「私」に懇願しだした。


「……救世主様 ! どうか我らをお救い下さい ! 」。


 「彼」の話を纏めると、どうやら「私」はこことは違う世界から「彼」に儀式とやらで召喚されたらしい。


 そして彼らを滅ぼそうとしている悪の小人こびと達を逆に滅ぼして欲しいと言う。


 いつの間にか、小さな立方体から小人達がわらわらと出てきて、「私」から遠ざかろうと逃げ始めていた。


 「私」は一歩でその群れに追いついて、その中の一匹をつまみ上げて見る。


 大きさは「彼」の三分の一ほど。


 だけどなんだかつるつるとしていて、不気味だった。


 思わず放り投げると、灰色の固い地面に落ちてグシャリと潰れて、その中味をまき散らしていた。


 その時、「私」の頭になにかがぶつかって弾けた。


 衝撃はあっても痛みはない。


 だけどてのひらの上の「彼」には怖かったみたいで、うずくまって震えている。


 「私」は怒った。


 そして元居た場所でもやっていたように、その怒りを力に変えて、放出する。


 地面が、一面の火の海となる。




「……教授 ! これを見てください !! 」。


 母船から無数に飛ばしたドローンの内、地中をスキャンした画像をチェックしていた助手が大声をあげた。


「……これは……なんて巨大なんだ……」。


 渡されたタブレットを見た老年の教授が思わずうめいた。


 山の中全てがその化石と言ってもいい。


 大きな頭には恐ろしい牙が並び、二足歩行であったのか、やや短めの前脚とがっしりとした後脚の骨。


 バランスをとるための尻尾もある。


 規格外の巨大さを除けば、恐竜だった。


 そしてその脇にもう一体寄り添って眠るように、化石があった。


 それは異様な頭の大きさを除けば、恐竜だった。


 サイズは体長六メートルほど。


 横の化石の指一本分くらいの大きさ。


「……この星には我々人類によく似たヒューマノイド型生物の痕跡もありますし……。ひょっとして彼らはこいつに滅ぼされたんでしょうか ? 」。


「まさか……。いやしかし遺跡にあった大穴は足跡と考えれば……」。


 ブツブツと考え出す教授。


「この二体は親子なのか ? 」。


 助手の一人が誰に言うでもなく呟いた。


「いえ……違うと思います。……なんとなくですけれど」。


 女性の助手が、大きな前脚と小さな前脚を、まるで手をつなぐようにくっつけた二体の化石の画像を見て、自身なさげに言った。





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大きな「私」と小さな「彼」の物語 遊座 @yuza24

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