①中学2年生 特別教室

 中学生は多感な時期だ。身体の発育、性格、思想が面白いほど変わる。私はそんな多感な時期という流れに乗り切れなかった人達が集うのが「特別教室」ではないのかと思っている。



 生活指導に連れられて特別教室に入ると、そこには小学校から仲が良く同じ吹奏楽部員でもあるYちゃんがいた。私はYちゃんが特別教室に通っていることを知らなかった。クラスが違ったし、特別教室に通っているような素振りもなかったのだ。

 でも私には思い当たる節はあった。

 Yちゃんはリストカットを繰り返していた。理由は分からない。

 成績優秀でしっかり者の性格だったが少々病弱な子であった。何が彼女を追いつめていたのか、今も私は知る由もない。

 でも親しい子が特別教室にいたことで緊張が和らいだのは事実だ。泣きながら階段を上がっていた私は、彼女を見た時は涙が自然とおさまり不思議と前が向けた。用意された椅子に座り、生活指導が担任に報告してくる等々を聞いていた気がする。

 特別教室1日目は快適だった。勉強は基本的に自主学習、勉強が面倒になったらノートに絵を描いてとにかく自分の過ごしたいように過ごした。生徒がサボり目当てにならないように、教師達が交代で授業時間に訪れていたが、理解のある若手の先生達が中心になっていたので程々に自分の時間を楽しみながら勉強をした。

 中学に入学して以来、心身ともにのんびりできたのはこの日が始めてだったのではないだろうか。もちろんその日は部活も休んだ。


 それから、私の特別教室通学は始まった。

 特別教室通学は何かと特殊だった。

 普通の登校時間に行くと色んな生徒に出会うので、わざと生徒を避けるために通常よりも10分遅れて校門に入る。決められた時間までに登校すれば遅刻扱いにはならなかった。

 そして特別教室は内側に鍵がついていた。隣は美術室だったので、時折移動中の生徒の声が聞こえていた。特別教室に行った経緯はともかく、今はクラスメートとも顔が合わせられない精神状態なのだ。鍵を閉めることで特別教室という城は守られる。

 ここでどのような学校生活を送っていたかは項目別に分けたい。(時系列で書くとかなり面倒になるため)


【勉強】

 時々教師が来て今指導中の授業の範囲を教科書で教えてくれたが、正直追いつけなかった。基本自主学習なので自力で勉強するにも限界がある。私は塾には通っていなかったので、成績は後ろから数えた方が早くなっていた。


【友人】

 休憩時間や昼食時間を使ってたわいもないお喋りをした。友人は、私が早く教室に戻ってもらいたいための善意だったと思う。だけども、私は正直友人が来ることに軽く圧力を感じていたのは否めない。


【カウンセラー】

 週に1回ほど、スクールカウンセラーとカウンセリングを行う時間が設けられていた。小さなカウンセリング室でカウンセラーとふたりで喋っていた。話していた内容は思い出せない。覚えていることはカウンセリング室に銃を持った兵士のゴム製のフィギュアが20個ほど、砂の入った箱に入ってあり、カウンセラーが所用で部屋を出て待っている間そのフィギュアを並べて遊んでいたことだけだ。


【部活】

 私が学校に行けなくなったきっかけなので、もちろん顔は出さなかった。出せなかった。部活が怖かった。

 部員の存在は非常に厄介だった。

 たまに部員達が私の家にやってきて激励みたいなことを言ってきたが、要は「仮病使ってないで学校に来い、部活に来い」と私を責めに来たのだ。責める、と言っては部員達の善意に申し訳ないが、私にはプレッシャーしか感じなかった。

 仮病だと言われても、身体は常に不調気味だし、毎日誰かに操られていたような日々。先輩に厳しいことを言われた次の日も歯を食いしばりながら部活動に参加していた地獄の毎日から、特別教室通学によって解放されてからの方がよっぽど伸び伸びとできた。


 自己診断だが、この頃私は適応障害だったのかもしれない。


 やがて2年生に進学し、クラス替えによって気持ちを新たにまた通常学級に戻り部活動も参加するようになったが、クラスメートに馴染めず、あれほど部活に戻るように懇願した部員達は私を空気のように扱い、結局2学期にはまた特別教室への通学を再開し、部活動も一切参加しなくなった。

 おそらくこの結果が証明している。

 今の私が適応障害と診断されたように。


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