〘真約〙(Nooooo!!)ダメ×人×間×コン×テス×ト×V★2

gaction9969

第1章:ダメを継がされし者

#001:唐突かっ(あるいは、新たなるダメの夜明け)

 ……結局のところ、こんな選択かぁ。らしくないとか、思われたりするんだろーか。


 風すさぶ屋上で、薄曇りの夜空に巻かれながらひとり思う。


 ……て言うか、ね。なーんかもう、全部が全部やってらんね、って感じ。だから今が潮時。


 蒸し暑さに強風も相まって、髪はごわごわ、顔はパツンパツン。汗だくで多分においの方もキツくなってはいるんだろうけど。


 ……今から死ぬんだから、それは関係ない。


 よね? まあ死体に何を求めんのっつー話よ。


 辺りからは喧騒、というか酔っぱらい達のでかい話し声とかが、結構近くからも聞こえてきている。


 ふと左後方を見上げると、そこには暖色の光が溢れてくるビアガーデンのパラソルの連なりが目についたりするわけで、ああー、私ってば、幸せそうにビールをたらふく流し込んでいる奴らがいるとこよりも下から飛び降りて死ぬの? みたいな、何とも、もやもやとした思いに捉われて、しばらく柵を後ろ手に掴んだまま立ち尽くす。


「……」

 まあしょうがない。今日び、屋上に部外者が入れるビルなんてそうは無いわけで、ここだって何軒も巡ってようやく見つけた穴場なんだから。作りが古臭いとかの文句や、六階建てっていう、大丈夫だよね、高さ充分あるよね? みたいな不安を持ち出してみてもキリが無い。


 先月の末、仕事でちょっとしたミスにミスが重なってしまい、最終的に主力商品の自主回収という、いちばんやってはならない事をしでかした。チームで当たっていたものの、当該責任者として槍玉に上げられ、いきなり社史編纂室へと異動が言い渡された。


 プロポーズを待ってた一コ下の彼氏から、いきなり別れを告げられた。他に好きなヒトが出来たって、おいおい、じゃあこの三年の月日と実費を返せよ、とは言えなかった。すがるタイプじゃ勿論ないけど、そこまでドライに別れてもらえると思われていたことが意外だった。表面上はそう振る舞ってたかも知れないけど、待ってたのに。


 まあいいわ。もういい。


 会社やその元カレにゲドゲドの遺書でも残してやろうとかも考えたけど、それすらもう疲れた。とにかく諸々から解放されたい。それがこの一週間、考えて出した結論。もはや私の中に異議を唱えるものは、細胞ひとつすら無いわけで。


 死に方は……まあちょっと迷惑かけちゃうかもだけど、すっ、とこの世からおさらば出来るかのように思えた「これ」にした。


 よっしゃ、それじゃあ旅立ちますか。と、殊更何でもないかのように思ってみる。実際は恐怖でお腹の辺りまで震えが来てて、全然止められないくらいなんだけど。


 でももうここまで来たら、いくしかない。さよなら……


 と、柵から手を離そうとした、その瞬間だった。


「うおおおおおおおおぅっ!!?」


 いきなりの背後からの野太い声に、慌てて力いっぱい掴みなおす。何? 何なの?


「お、お、お前さん、どちらさん?」


 ぱっと見の不審者が、屋上へと通じる金属のドアを開けて、おまけにポカンと口も開けていた。


 まんまるな頭の上の短く刈った髪は、赤。それと対照的に青々と顔の下半分を覆う剃りあと。その間には驚愕の表情を浮かべる何とも言えない顔がある。


 でっぷりとした体に、黒いタンクトップ。明らかにフェイクフェザーの質感だけど、直で肌に接していて気持ち悪くないの? 両手にはこれも革っぽい感じの指先の空いた手袋をつけている。


「あ、いやその……夜風に当たりたくて」


 人に見られたからには、今日は無理か。内心ほっとしている自分がいることに少しの情けなさを感じつつも、愛想笑いを浮かべながら、そそくさと柵をよいしょと跨いでヒールを履き直す。


「なーんだよー、おりゃあ、てっきり管理人か、その手の野郎でも待ち伏せてたかと思って焦ったぜー。まま、こんな穴場を見つけなさるたぁ、おねえさんもお目が高い。どうです、 ここで一杯? ここで会ったのも何かの縁ってやつで、実はね? いい話もあったりするんでげすよ、げへへ」


 その全体的に丸い男は、矢継ぎ早に口調の定まらない感じで、ぐへりと相好を崩してそう誘ってくる。その手に下げられたコンビニらしきポリの袋には、500ml缶が数本入ってそうな膨らみが見て取れた。


 ああー、私の不審な行動はまるで意に介さないんだーと安堵するも、こんな所に長居するわけにはいかないわけで、おまけにこの丸男と一緒にとかは、あり得ないわけだし。


 ちょっとこのあと用事があってー、と、その丸男の脇をすり抜け、階段へと続く扉に手をやる。が、向こう側から押し開こうとする気配を感じたので、慌てて後ずさった。


「……ん? おいおい相棒。今回ばかりは俺の負けだ。こりゃまた逸材じゃねえかよ」


 そんな掠れた低い声を発しながら現れた人影は、またしてもぱっと見の不審者だったわけだけど。

 のそりとした立ち姿は、覇気は無いけど、うすらでかい。不潔そうな長髪がでろりと垂れ下がっていて不気味だけど。お仲間……? 


 今度こそ身の危険を感じた私は足早に、その長髪男の脇を通ろうと身を縮こませるものの、


「……ねえさん、あんた飛ぼうとしてたろ?」


 ぼそり、と囁かれた言葉に、体が硬直してしまう。え? 何で?


「……」


 思わずその長髪男の顔を直視してしまう私。変なテカりを帯びた髪の向こうからは、思ったより、何というか自然体な、どこか引き込まれる目が覗いていた。そして、


「死ぬのはいつでも出来る。だからよぉ、その前に、ちょっくら俺たちと……」


 長髪男がにやりとしながら言い放った言葉が全ての始まりだった。


「……日本一を目指さないか」


 私と、烏合のダメ人間たちの、壮絶な戦いの幕開けだったのであった。


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