【第45話:銀閃】

 その後、冒険者3人には御者の一人とメイドたち二人を連れて、荷馬車ごとテイトリアの街に引き返すように指示が出された。


 その際ギレイドさんも戻るように言われたのだが、ギレイドさんはこれを断固として拒否し、結局根負けしたダルド様が同行を許可したのには、何だか意外な一面を見たような気がした。


 一部の荷物を荷馬車から豪奢な馬車の方に積み替えると、ダルド様がその場でしたためた書簡を預かり、荷馬車はもと来た道を戻り始める。


「引き返す分にはそこまで危険はないと思うが……それでも気をつけろよ!」


「あぁ! テッドも気を付けていけよ!」


「怪我したらありがたく回復薬使わせてもらうから大丈夫だぜ!」


 さっきまで悲壮な表情を浮かべていた三人だったが、引き返すように指示されると、一気に顔色が良くなった。

 このまま強行軍に参加すれば、彼らの実力ではきっと命を落としていただろう。

 その不幸な未来を回避できたとオレも少しホッとしたのだが、こちらを振り向いてニヤニヤしている少女がいるから黙っておく。


「それじゃぁ強行軍に向けて食事をとったら、俺たちも出るぞ。しっかりと今のうちに食べておいてくれ」


 さっき休憩をしている間に、メイドの二人が手早くスープか何かを用意して残していってくれたようだ。

 だがダルド様自身は食事もとらずに馬車に歩き始め、しかし途中で立ち止まってこちらに振り向いた。


「あ~それと、悪いがテッドとリシル。食事が終わったら馬車まで来てくれ。少し話がある」


 そう言うと、こちらの返事も待たずにそのまま馬車に乗り込んでしまった。


「テッドが気付いたのバレたんじゃない? 嘘が相変わらずすっごく下手だし?」


 リシルがジト目でこちらを見た後、吹き出してクスクスと笑みを噛みころす。


「……もしかして顔に出てたか?」


 さっき『世界の揺るぎ』だと気付いた時、確かにちょっと動揺し、顔に出たかもしれない。

 リシルは可笑しそうにこちらに視線を向けると、こちらを上目づかいで見つめ、


「もしかしなくても、しっかり『また、奴らか!?』って顔に出てたわよ♪」


 今度は隠さず、楽しそうに笑いだしたのだった。

 この状況でこの余裕は、楽観主義のヒューと、どんな時でも落ち着いているルルーから、受け継いたんだろうなぁ……。


 ~


 メイドたちが用意してくれた、具だくさんなスープを堪能したオレ達は、言われた通りに馬車に向かうと、


「来たか。入ってくれ」


 ノックの前に中からそう声を掛けられた。


「失礼します」


 蔦が絡むような銀の細工が施された扉をあけて中に入ると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。


 まるで領主の執務室がそのまま持ち出したような内装に、立ち上がっても手が届かない天井。

 恐らくかなり大掛かりな空間拡張の魔法が施されているのだろう。

 その広さは、明らかに外から見た馬車の大きさよりも遥かに広かった。


「その辺にかけてくれ」


 ソファーに座るダルド様から声がかけられ、オレ達はその向かいのソファーに腰を下ろす。

 オリビアさんはダルド様の横に、ギレイドさんはその後ろに控えていた。


「テッド。リシル。あまり時間をかける事が出来ないので、単刀直入に尋ねよう」


 一息を置いてから続ける。


「お前たちは何者だ?」


 思った以上にストレートなその問いに、すぐに言葉が浮かんでこない。


「答えにくいか。では、先にこれを聞こう……『世界の揺らぎ』を知っているな?」


 こっちは予想通りの質問だった。


「この状況だと、隠しても仕方ないですね。はい。知っています。ですが、それはを指す言葉でしょうか?」


 オレの最後の言葉に、明らかにダルド様の雰囲気が変化した。


「ほう……もしやオリビアの言う通りなのか……やはり現象をさす言葉だけでなく、組織の存在も知っているのか」


 そしてダルド様の瞳に光が灯る。比喩ではなく文字通り光が。


「なるほど……私もこれはちょっと驚きました。ダルド様ですか……その発せられている魔力は……」


 そこで一旦腰の頼もしい存在を確かめてから、最後まで言葉を続ける。


「魔人のものが混ざっていますね?」


 その瞬間、5本の銀閃がオレに向かって振り下ろされた。

 まるで鉄と鉄がぶつかり合ったような音が、その室内に響き渡る。


「これを止めますか……やはりあなたは……」


 オレは座ったままの姿勢でレダタンアを掲げ、ギレイドさんが振るった5本の長く鋭い鉤爪を、その鞘で以て防いでいた。


 事前にリシルのアーキビストでギレイドさんの正体を知っていなければ、防げなかったかもしれない。

 それほどの鋭い一撃だった。


「……オリビアに聞いても半信半疑だった。だが、本物のようだな」


「だから私は、最初からずっとと言っているではありませんか」


「すまないな。俄かには信じられなかったのだ。子供の頃……その名を父から何度も聞かされている……『勇者テッド』の名をな」


 やはりオレの事をいるのか。

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