【第27話:模擬戦】

「お兄さん、面白いねぇ! そんな馬鹿と勝負するぐらいなら僕と勝負しない?」


 だから今度は僕って誰だよ!?


「……えっと……嫌だけど?」


 そう言ってその『僕』も無視して冒険者ギルドに向かおうとしたのだが、


「テッド!?」


 そのリシルの声の前に振り向いたオレは、鞘ごと引き抜いた聖魔剣レダタンアで『僕』の放った練習用の鉄剣を受け止める。


「おいおい……いくら模擬戦用の刃を潰した鉄剣っていっても、喰らったら大怪我するんだぞ? ?」


 しかしその『僕』は、ニヤッと笑うと、


「ひゃ~! やぁ~ぱり思った通り凄い腕じゃん! 僕と勝負しようよ?」


 そう言って歪んだ笑みを顔に浮かべる。

 身体は華奢と言う程ではないが、大きくもなく、平均的な冒険者の体格だが、その身から発する覇気は中々のものだった。


「くっ!? お前か!! そいつに声をかけたのは俺様だぞ!!」


 そしてそこへ今度は『俺様』が話に入ってくる。

 いい加減二人とも名前を名乗れよ……。


 ~


 今オレは鍛錬場で二人の男と対峙していた。


「なんでこうなった……」


 先ほど、『俺様』と『僕』の二人が喧嘩に発展しそうになった時、ここのサブギルドマスターの『ドグラン』だと名乗る男が現れ「とりあえず見ておいてやるから、やるなら鍛錬場でやれ!」と、鍛錬場に引っ張られ、何故か気がつけば模擬戦をする事になってしまっていた……。


「ふふふっ。テッド頑張ってね~♪」


 リシルは意外と楽しんでいるようで、何故かご機嫌な様子だ。


「お前なぁ……あぁぁもう! わかった!! どうなっても知らないからな! ちょっとオレも色々溜まってたしお前らで憂さ晴らしさせてもらうぞ!」


 最初は呆れかえっていたが、もうこうなったら錆びた腕の練習相手になって貰おうと気持ちを切り替える。


「そうこなくっちゃなぁ! B級冒険者とC級冒険者がどれぐれぇ実力に差があるか思い知らせてやる!」


 ちなみに『俺様』こと『デリー』はかなり苦労してB級になったようで、それを証明したくて仕方ないようだ。


「それを言うなら馬鹿は僕には勝てないって事なるけど?」


 それより問題は『僕』こと『ゾイル・フォン・アルデム』の方だ。

 名前でわかる通り貴族様なのだが、アルデム男爵家の三男のようで、継承権も放棄していて数年前からもう普通に冒険者をやっているらしいので、そこは問題ではない。

 では何が問題かと言うと、このゾイルはまさかのA級冒険者だったのだ。


「うるせぇ! だいたいお前は関係ねぇだろ!?」


 そこからまた罵り合いが始まる……。


「あぁ、うるせぇな!! さっさと戦う順番を決めろや!!」


 サブギルドマスターのドグランが間に入って、ようやく模擬戦を始めることになった。


 ~


「じゃぁ、まずはC級冒険者のテッドと、そこのB級馬鹿じゃねぇや、B級冒険者のデリーの勝負だな」


 何気にデリーの扱いが酷いな……先日の貴族と言い、ちょっと同情してきたぞ。

 まぁ馬鹿なんだろうけど……。


「ん? テッドとか言ったな。お前、武器それで良いのか? 鞘が壊れちまうぞ?」


 オレが聖魔剣レダタンアを鞘ごと抜いて構えたのを見て、ドグランがそう尋ねてくる。


「あぁ。気にしないでくれ。オレはこの武器と『対の契り』を結んでるから他の武器は扱えないんだ。それに鞘ごとアダマンタートルの甲羅殴っても傷一つ入らなかったから大丈夫だ」


 オレのその返答に、今までオレを見下していたデリーやほかの者たちが息を飲むのがわかった。

 アダマンタートルと言えば体高2mを超える大きな陸亀のような魔獣で、その甲羅の硬さは聖剣を弾いたという逸話が残るほどだ。


「ほぅ。その剣は『対の契り』が結べるような業物わざものなのか」


 それにそれだけではない。武器と契約を結ぶ事で真の力を扱えるようになる『対の契り』だが、どんな武器でも結べるわけではないからだ。

 それこそ聖剣のような秘めたる力のある武器だけが『対の契り』を結べるため、冒険者や強さにこだわる者にとっては憧れの武器であると言っていい。


「な、なぁおい……ちょ、ちょっとだけで良いからよ。後で少しその剣見せてくれよ。な? 良いだろ?」


「人に喧嘩吹っかけといてよく言うぜ……まぁボコボコにした後でいいなら、少しぐらいなら見せてやるよ」


 そう言って軽く挑発してやったのだが……。


「おぉぉ! 良いのか! 約束だぞ!?」


 思ったのだが、デリーは馬鹿は馬鹿でも結構愛される馬鹿かもしれないな……。


「はぁ……なんか気が抜けるな……。じゃぁもう始めるか?」


 オレのため息と共に吐き出したその言葉をキッカケに、


「そうだぜ。もう始めるぞ。 では……はじめ!!」


 ドグランが開始の声をあげるのだった。

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