第27話 開戦

「あなたは誰?」

「シェヘラザードと名乗ったはずですよ。リコ」

「私の名前は把握済みってわけね」


 リコが仮面の男に問いかける。しかし仮面の男は上手くはぐらかす。この男は一体何者なのか。話を聞く限り。目的は私みたいだが……


「もちろん。ララをこちらに譲ってもらいますか?」

「嫌よ」|

「そうですか。ルナ。殺りなさい」


 その声と同時にルナさんが現れる。ルナさんは神速で、リコに近づいて、喉元にナイフを突き立てる。リコは海老反りになって回避して、そのままルナさんの顎を蹴る。その時のリコに余裕の表情はなかった。


「この身体能力の高さ。まさかXXダブルエックスを!!」

「ご名答。しかしXXダブルエックスを使った一撃を回避するとは流石の騎士団の第三部隊隊長というだけのとはありますね」

「あなた、XXダブルエックスがなにか分かってるの!!」

「ええ。脳の処理速度を上げて、人智を超えた力を得る。そして使ったあとは三日寝込む違法薬物ですよ」

「そんな甘いもんじゃないわよ!! これは悪魔の薬よ! これを使い続けると人格が崩壊するのよ!!」

「存じております。しかしホームズは構わんと言いましたので」

「……ホームズ。まさかこの事件の黒幕ってホームズ・モリアーティだというの!」


 その時、リコは怒りに震えていた。リコは迷うことなくルナさんを蹴り飛ばして、シェヘラザードに近づく。しかしすぐにルナさんが起き上がり、シェヘラザードに一撃を叩き込む前に吹き飛ばされる。


「リコさん。ホームズ・モリアーティって……」

「悪魔よ。反乱軍を煽り、武器を流して国家転覆をしようとしたと言えばヤバさが分かるかしら? そして適当な言葉で人を悪の道へと誘う。この国最悪の犯罪者の名よ! 彼は極悪過ぎて名前すら伏せられてるわ。騎士団でも知ってるのは隊長と副隊長クラスの人間だけよ」


 問いかけてきたリリアンにリコが怒鳴るように応える。まさか、ホームズ先生がそんな人間だったとは。もっともなんでもいいが。


「それじゃあ……!」

「ええ。ララはホームズの教え子の一人ですよ」

「なるほど……全ての辻褄が合ったわね」

「それより、リコ。随分と余裕そうにしてますが、相当ピンチではありませんか?」


 そう言われてリコの方を見る。リコはルナさんに苦戦を強いられていた。ルナさんを何度も蹴り飛ばすが、ゾンビのように起き上がって襲い掛かってくる。それに段々と動きも見切られてきたのか、蹴りが当たらなくなってきている。


「……完全にイってるわね! この女。身体能力が上がってるだけじゃない。 間違いなく痛覚も遮断されてるわね」

「そうですよ。彼女を止めるには殺すしかないんですよ。あなたに人が殺せますか?」


 その時、リコの腕に赤い一本の線が走る。どうやらルナさんのナイフが腕に掠ったようだ。それに少しだけ表情を歪めるが、次の攻撃は見極め、綺麗な回し蹴りを叩き込む。


「痛いのは嫌いなのよ。私には痛覚があるから」

「それなら彼女を殺して、この戦いに勝利したらどうですか?」

「それはもっと嫌よ!」


 そんな話をしながら仮面の男が私の元にやってくる。この男についていっても良いのだろうか。一応ホームズ先生の知り合いみたいだが……


「ララ。行くよ」

「どこに?」

「決まってるだろ。復讐の続きをするんだよ」


 今のやり取りで分かった。彼はシェヘラザードなんて名乗ってるが、私の知ってる人だ。彼はガブリエルだ。でも、違う名前を名乗っているということはそれなりの事情があるのだろう。だから敢えて、その名では呼ばないでおこう。


「目的は達成された。さらばだリコ!」

「待ちなさい!」


 そうしてシェヘラザードは私を抱き抱えて、リコの家を後にした。リコは追跡しようとするがルナさんに足止めを食らっていて、思うように動けない。私を邪魔するものはなにもなかった。


「ガブリエル。XXダブルエックスのこと……」

「ああ。知っているよ。ホームズ先生はそれを承知でルナさんに使わせた。ルナさんもそれを理解した上で受け入れた。もうルナさんは帰らぬ人となったんだよ」

「まだ一回目でしょ?」

「あれには依存性がある。一度でも手を出せば廃人は確定。薬だけを求める獣に成り果てる」

「そう……ルナさんはどうしてそんなものを……」

「分からん。しかし、ホームズ先生となんかのやり取りがあったのは事実だ」


 まぁホームズ先生が選択したことだ。間違ってるなんてことはないだろう。それにルナさんがどうなろうが私の知ったことではない。私はホームズ先生の駒として生きて、あいつらに復讐さえ出来ればいい。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……いっ」


 切られた傷が痛む。そして、あの殺し屋には完全に逃げられた。彼女はいつの日か戦った殺し屋なのは間違いない。動きからして幻の死神の通り名で知られているヤツなのも間違いない。しかし身体能力が明らかに高すぎる。これがXXダブルエックスの力か。


「リコさん。大丈夫ですか!?」

「えぇ……。切り傷が痛むだけよ」


 ララちゃんはあまり強くない。しかしXXダブルエックスを注入されたら話は別だ。剣を生成する能力、そしてXXダブルエックスで高められた身体能力。そんな相手に勝てるとは私でも言い切れない……


「リリアン。私の元から絶対に離れないで。ララはあなたを殺しにくるわよ」

「はい」


 それから鞄から携帯をだして連絡する。これは私の手には余る。ホームズ・モリアーティが絡んでる。それだけで彼を呼ぶには充分だ。


「……どうしたリコ」

「スックラ団長。ララの事件にホームズ・モリアーティが関わってることが判明しました。それと幻の死神がXXダブルエックスを使ったのを確認です」

「なんだと!? 無事か!」

「なんとか……それと報告した通り、ララは能力に目覚めています。剣を生成して飛ばす能力です」

「もしもXXダブルエックスをララに使われたら手が付けられなくなるな。俺もそっちに行こう」

「お願いします」


 そうして電話が切れる。スックラ団長。騎士団の総団長にして、剣聖と肩を並べてこの国最強という人間も少なくない。事実として私も彼には一度しか勝てたことはない。そのくらいの完璧超人……


「リコさん……」

「大丈夫よ。スックラ団長を呼んだから。彼ならどんな相手だろうが絶対に負けないわ」



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