第12話 復讐

 家に着くと、ルナさんが手招いていた。私達はルナさんに招かれるがままに地下室へと移動する。すると地下室には私がよく見知った顔が縄で縛られ、目隠しをされて投げられていた。そして隣には知らない男もいる。


「……ファニー」

「私はルナは見てるだけでなにもしないよ。二人の好きにするといい」


 私を虐めた女。私から全て奪った女はガクガクと震わせていた。私は彼女の0目隠しを外して、怯え切った表情を見る。


「……ラ……ラ?」

「普通はそういう反応よね。ガブリエルがおかしかったのよ」

「僕がおかしいとは心外だな」

「なんのつまり! こんなことしていいと思ってるの!」


 こんな小物に虐められて、全て奪われたのか。

 私は不思議とそう思った。そして今までの怒りがすっと消えていく。こんな奴を殺すほどの価値があるのか? 私の初めてがこんな雑魚でいいのか。


「……なによ?」


 私は腹を蹴り飛ばす。それもかなり全力の蹴りだ。私は力のある方ではないし、スポーツ経験があるわけでもない。それでも小娘を泣かせる蹴りくらいなら朝飯前だ。


「……ゴホッ!」


それから何度も何度も無言で腹を蹴り続ける。こいつは殺す価値もない。しかし悪であるのは間違いない。人から奪うという行為は悪だ。私胃から全てを奪ったこの女。彼女には罪を理解させる必要だ。

 それにこの生意気な態度がイラつく。


「痛い……やめて!」

「あなたは私が止めてって言って止めた? それが答えよ。子供が作れなくなるまでお腹を蹴ってあげる。子宮って簡単に破裂するのよ?」


 こいつは殺す価値も無い。だから私は殺さないことに決めた。改めて私という存在は優しくて、天使のような存在だと思う。いじめをした相手を半殺しで許してあげるのだから、とんでもなく優しいだろう。私は再び、蹴ろうとした。


「待てよ。ララ」


 しかし、それはガブリエルに止められる。ウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザい。私は早くこの女を泣かせたい。壊したい。


「別にそれが悪いとは言わない。でも蹴りなんてつまらない。やるなら金属バットで殴ろうぜ?」


 私の足元に金属バットが投げられる。私はそれを拾って観察する。金属バットに移った私の顔は過去最高に美しい。それは良いことをしてるからだろう。そしてそこそこの重さはある金属バット。これでお腹を叩いたら、どのくらい良い声で鳴くだろうか? それを考えるとワクワクが止まらない。


「や……めて……それはやめて!」


 ファニーは泣きながら私に懇願する。それは私の渇きを潤す。私の中でナニカが満たされていく。気持ちいい。とても気持ちいい。過去最高に良い気分だ。私は再びバッドに映った自分の顔を見た。明らかに先程よりも可愛くなっている。良いことをすれば人は可愛くなるのか。覚えておこう。


「……そーれ!!!」


 私は思いっきり、振りかぶって金属バットで腹を殴った。バキバキと骨の砕ける音。大量に吐きだす血。これは間違いなく子宮が破裂した! 破裂したわ! 手に伝わる感覚は最高に気持ちいい! やはり良いことをするのは最高だ!!

 ホームズ先生に従ってここまで来て良かった! 私はこの瞬間のために生まれてきたんだ! もっと! もっとこの感覚を味わいたい! 再び私は笑顔で金属バットを振り上げる。しかし、それは再びガブリエルに止められる。


「邪魔しないで!」

「これ以上はこの女が死ぬ」

「殺すのよ! 殺したらどんなに気持ちいいかしら!!!」


 ガブリエルが私の邪魔をする? それなら殺さなきゃ。善い行いを邪魔するのは紛れも無く悪だ。私は善いことをしてるのだ。自分の欲を満たすという、この上なく善いこと! それを邪魔するなんて許さない!


「そう睨むなって……ララは想像力が足りない。それは補うのが俺の役目。もっと善いことしようぜ?」

「……分かった」


 私は渋々、金属バットをガブリエルに渡す。たしかに彼がいなければ金属バットで叩くなんて楽しいことは出来なかった。彼に従う価値はあるだろう。そうしてガブリエルはファニーに近づくと縄を解き。金属バットを渡す。


「立てるかい?」

「……む……り……です」


 そう言うとガブリエルは笑顔になった。そして激しい平手打ちをする。バチンと良い音が地下室に響いた。


「無理じゃない。やるんだよ。君は家畜だ。家畜如きがあるじの命令に背いでいいと思ってるの?」


 それからファニーはフラフラとしながら立ち上がる。そしてガブリエルはファニーを蹴り飛ばして、転倒させる。


「ごめんね。足が滑った」


 分かりやすい嘘に棒読み。それに思わず私は吹き出しそうになる。ルナに限って言えば、腹を抱えてゲラゲラと笑っている。


「でもフラフラしてる君が悪いんだよ。フラフラしてるから簡単に倒せちゃう。はら立てよ?」


 またファニーがフラフラしながら頑張って立とうとする。子宮が破裂した状態で、恐らく動くのも辛いだろう。しかし動かなければナニをされるか分からない。だから彼女は立ち上がる。それはとても見て私は、好きなアイドルのライブに行くのと同じくらい盛り上がっていた。やっぱり頑張ってる女の子というのは応援したくなるものだ。


「なるほど。ガブリエル君は上手いね」

「ホームズ先生。どういうことです?」

「簡単に倒すことで無意識化に反抗しても簡単に倒されると思わせることで、反抗出来ないようにしたのだよ」

「そんな意味が……」

「それに頑張って立ち上がり、倒されるというのは精神的なダメージも大きいだろうね。彼は悪魔だよ。一体どんな生活をしたら、こんな極悪非道なことを思いつくのだろうね?」


 立ち上がったところを蹴り飛ばす。そんな動作を数回繰り返すとガブリエルは飽きたのかm彼女に別の指示を出した。


「助けてほしい?」

「……はい!」


 その問いかけにファニーはキラキラした笑顔で答える。それに私はイラっとくる。まだ笑う余裕があるのか。悪が笑っていいわけがないだろ。


「そうかい。そういえば、あそこに君の彼氏がいるのは気付いたかな?」

「……え?」

「君の彼氏を金属バットで嬲り殺しておいで。そしたら助けてあげるよ。もちろん嫌と言ったら……」


 ガブリエルは笑顔でファニーの手に握り、ペンチを出す。そして彼女の中指の爪を剥がした。それに彼女は白眼を向いて発狂しかける。この世とは思えない叫び声が地下室に響き渡る。


「このようにお仕置きするからね」


 それからファニーは泣きながら彼氏を何度も何度も殴っていた。最初の一撃で痛みにより、彼氏が目覚めて命乞いを始める。しかしファニーはひたすらごめんなさいと言いながら金属バットで叩き続けた。


「人は悪事は出来ない。しかし大きな正義の前では悪事……自分の魂に背いた行動が出来る。彼女は痛みから逃れるという正義のために悪事を行ったわけか」


 その様子を眺めるのはとても心地よかった。彼女の泣き顔が最高だ。彼女の懺悔する声が、どんな楽器より心地よい音を奏でる。まるで一級品の音楽を特等席で世界最高の絵画を見ながら聴いているような感覚だ。これが幸せというものなのかと心の底から思った。


「ごめんなさい……ごめんなさい」

「なにに対して謝ってるのかな? 彼氏を殺したこと? それともララを虐めたこと。もしも後者だってら虐めなければ、こんなことにはならなかったって自覚があるんだから良いと思うよ。まぁもう遅いけどね」

「あの……助けてくれるんですよね?」


 彼氏が死に絶えて、ファニーはガブリエルに問いかける。それに対してガブリエルは笑顔で答える。


「え? まさか本気で信じたの? 馬鹿じゃね?」


 そうしてファニーは膝からガクリと崩れ落ちた。最高だ! これは最高だ! こんなにも良い気分になったのは初めてだ! この絶望したファニーの顔! それを眺めてるだけで心地よくなっていく。それから鼻歌交じりにガブリエルはファニーの彼氏の死体に近づき、二の腕の肉をナイフでスライスする。


「次の命令。これを食え」


 しかしファニーはナニも言葉を返さない。しいばらくしてガブリエルが舌打ちをした。どうやらなにかを察したみたいだ。


「ララ。ごめん。彼女の心が完全に壊れて、なにも感じなくなっちゃった」

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