第3話 リボルト#18 ようこそ新世界へ Part1 新たなスタート

【アバン】


秀和「よーし、ついにやってきたぜエンタジア大陸! 俺たちの新しい冒険が始まるぜ!」

哲也「うん、なかなかいい風景だね。まるで抽象画のようにキレイだ」

菜摘「それより、秀和くん」

秀和「うん? どうした菜摘」

菜摘「私たち、なんか落ちてない?」

秀和「し……しまったぁーー!!! すっかりその大事なことを忘れてたぜー!!! 誰か助けてくれー!!!」

聡「おいおい、大丈夫かよ、リーダー? これから新しい冒険が始まるというのによ!」

秀和「う、うるせえー! 俺は高所恐怖症なんだよー!!!」

広多「はぁ……見ていられないな」

名雪「あんたさっきから随分と楽しそうね、直己」

直己「あたりまえじゃん! これからキレイな姫様に会えるんだ、これは喜ばずにいられるか!」

名雪「はぁ……そうだと思ってたわ」


正人「どんな強いヤツに出会えるか、考えるだけでワクワクしそうだぜ!」

拓磨「止めておけ。また無茶をして体を壊せば、元も子もないぞ」

雅美「黙っらっしゃい、拓磨さん! まあ、今日もダーリンが格好いいですわ~!」


秀和(ったく、これから先はどうなるか、全然分からねえな……けどまあ、だからこそ旅は楽しい……か)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

リボルト#18 ようこそ新世界へ

Welcome to the new world


「うわああああああー!!!」

 真下から吹き荒ぶ風が、俺の身体を容赦なく打っている。そして全身にも及ぶ無重力感は、俺を襲いかかる。

 そう言えば、最初にサバイバルバトルに参加した時もこんな感じだった。なのに俺は完全に勢いに任せて、渦巻きの中に飛び込めば落下する仕組みをすっかり忘れてしまった。

 極度の高所恐怖症である俺にとって、これはかなりキツい状況だ。先ほどの格好いいところを見せようとする思いが一気になくなって、ただひたすら情けない悲鳴を上げることしかできなくなる。

 何重層もの雲を潜り抜けて、ついに地面らしき景色が見えてくる。この高さから落ちれば、一溜まりもないだろう。まさか、まだ冒険が始まってもいないのに、俺たちはここで死ぬのか……?


「秀和君、私の手を取って!」

 突然、側から聞き覚えのある声が。場所が広いため声がよく聞こえないが、俺の直感からすればこの声の持ち主は千恵子に違いないはずだ。

 声がした方向を見ると、やはりそこには千恵子がいる。俺は藁にも縋る思いで、迷わず手を伸ばす。すると千恵子も手を差し出して、俺の手を握り締める。

 ……何という暖かさだ。その温もりがやがて手のひらから全身に染み渡り、俺に勇気を付けてくれる。

 そして千恵子のそのまっすぐな眼差しと優しい微笑みが、俺の心の中に宿る恐怖を追い払ってくれた。

 しかしながら、俺たちが急降下している事実に変わりはない。何か手を打たないと、確実に大ダメージを喰らってしまうだろう。

 だが、この状況を千恵子もよく知っているはず。彼女はすかさず片方の手のひらを開き、何やら資質を発動するようだ。


「花鳥風月・三の舞、泡沫うたかた!」

 すると、彼女の手のひらから無数の泡が生み出され、俺たちの体を包む。

 なるほど、確かにこれならある程度ダメージを軽減できる……うわっ!?

 俺の体が大きな衝撃を受けて、思わぬ方向へと飛んでしまう。どうやら地面に落ちる時のショックが強すぎて、たとえ泡のバリアでもそれを完全に緩和できなかったようだ。

 その結果俺は地面に落ちてしまい、体に痛みが走る。だがその痛みも例の自動回復資質カリスマによって、少しずつ和らいでいく。

 そして手を繋いでいるからか、千恵子は俺の体に乗りかかっている。彼女が下敷きにならずに済んだのはよかったものの、この体勢はさすがに恥ずかしい。

 互いの顔も近すぎて、今にもキスしそうな距離だ。でも他のみんなは地面に落ちたことによって大混乱に陥って、こっちには気付いていない。

 よし、それなら……!


 俺はかろうじて体を起こして、素早く千恵子にキスをした。

「えっ……!?」

 もちろん千恵子はこうなることを予知できるはずもなく、手を頬に当てて慌てる。そして俺は何事もなかったかのように、千恵子から離れるとさっさと立ち上がり、体勢を整える。


「うひゃー、ビックリしたぜ! 死ぬかと思った~」

 聡は先ほどの緊張感に浸りながら、自分の腕を動かしている。腕の骨が折れていないかチェックしているのか?

 二度目とはいえ、このようなスリリングなスカイダイビングはなかなか体験できないものだ。うん、その気持ちは理解できるぜ。

「ふんっ、その程度の高さで怖じ気付いたのか。何なら今寮に戻ってもいいんだぞ?」

 相変わらずそんな聡を、広多はからかう。この高さで落ちても冷静でいられるなんて、さすがは広多と言ったところか。

「おまえ、またそんなこと言って……!」

 そして聡もいつも通りに広多の言葉に怒りを覚えて、拳を突き出す。

 あまりにも慣れた光景なので、俺はあえてこの二人を無視して、他の仲間に話しかけることにした。


「哲也、菜摘、二人とも大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。そっちも無事そうで何よりだな」

「それよりこれを見てよ! すごい大きな魔法陣が!」

 地面に描かれている大きな円陣を見て、菜摘は興奮した表情を見せている。彼女の声に釣られて、俺たちも視線を地面に集中する。

「なるほど、僕たちはこれに導かれてここに来たってわけか」

「そうみたいだな。それにしても、本物の魔法陣は初めて見たな……こいつは驚いたぜ」

「本当に素晴らしい出来ですね。よく見ると、魔法陣の中にある文字が動いていますし」

「すごいすごい! 早く写真を撮らなきゃ!」

 撮影好きな菜摘はすかさずデジカメを取り出し、パシャパシャと写真を撮りまくる。俺たちもこの光景に見とれて、思わず携帯を出して写真を撮る。

 その時、近くから騒がしい声が聞こえてくる。


「どこだどこだどこだぁー!!!」

 直己は大声を発しながら、キョロキョロと周りを見ている。まあ、あいつのことだから、きっとまた美女を探しているに違いないだろう。

「騒ぐなよ、直己。美女は逃げたりし……」

 いや、逃げるのか。もしこの世界の女性が直己に会えば、間違いなく悲鳴を上げながら去っていくだろう。

「だってさ、この国のお姫さんは凄い美人なんだぜ? 落ち着いていられるか! ああそうか、既に彼女持ちのおまえには分かりやしないのさ、このおれの苦痛をなっ!」

 直己はそう言うと、手を振りながらまた別の場所を見渡す。

「ったく、また勝手なことを言いやがって……ん?」

 俺は直己の心ない言葉に少し苛立ち、そう呟いた。そして目の前には、二人の少女がたたずんでいる。

 彼女たちの近くには、鎧を付けている人が大勢いる。行儀よく何列も並び、その手には槍のような武器を持っている。その格好からすれば、彼らは兵士に違いないだろう。


「キングダム・グロリーへようこそ、異世界の旅人トラベラーたちよ。我が王国を救うために、いえ、この大陸を救うために、あなた方の協力は必要です。どうかお力を!」

 背が高い方の少女は、突然大きな声で話しかけてくる。その発言からすると、どうやら俺たちがここに来ることを最初から知っているようだった。となると、さっきの魔法陣を設置したのも彼女なのか?

 それにしても、王国を救う、か……これはまたベタな設定だな。敵は大魔王か何かかな? まあ、それは後で聞くことにしよう。それに、大魔王より厄介なあいつが……


「ああああー!!! やっと姫さんのおでましだぁー!!! おれと付き合ってくれー!!!」

 姫の声に気付いた直己は、ナンパモードを全開にし、チーターより速いスピードで姫に向かって走っていく。

 まずい、相手は姫だぞ! いきなり身分の高い人間の前でこんな無礼な姿を曝け出すなんて、非常識にも程があるぜ!

「あっ、あのバカ! ちょっと、あんたね……!」

 そんな直己を見て、名雪はいつもの反射神経を働かせて彼を追いかけるが、いかんせん今回の直己は普段以上の超スピードなので、なかなか追いつけない。

「な、なんて速さなの……!」

 直己の超スピードに驚かされた名雪は、目を見開く。

 しかし直己がああなったのも無理もない。何しろあの姫は、噂通りの美人なのだから。

 黄金のように輝く長い髪に、ラピスラズリを彷彿とさせる青い瞳、そして白銀の鎧。これらの要素が全て重なり、いかにも姫らしいオーラを放っている。

 どう見ても、俺たちとは別の世界に住んでいる人間にしか見えない。


「カモン、ベイビー! おれと一緒に、恋のランデブーでもしようぜ~!」

 その魅力にすっかり夢中になった直己は、両手を広げて姫を抱き付こうとする。

 もちろんこんなふざけた部外者を、王族の人間が受け入れるはずがない。姫の側にいる背の低い少女はギロリと直己を睨みつけると、右手を握り締める。

「勝手に姫様に触るんじゃないわよ、この下衆げすがぁぁぁー!!!」


 鉄の籠手ガントレットを装備しているその腕が、勢いよく直己の体に向かって前進する。そしてその周りから、風が空を切る音が聞こえてくる。

「な、なんて風圧だ……!」

 それを見た正人は、思わず賛嘆の言葉を漏らす。

 確かにその通りだ。体が小さいにもかかわらず、このような強い力を持っているとは思わなかった。もしあの一撃を直己が喰らったら……

「危ねえ直己! 早く止まれ!」

 事態の深刻さに気付いた俺は直己に注意するが、時は既に遅い。あいつの体は、少女の拳とは目と鼻の先だ。避けるのは至難の業だろう。

 だがこういう時に限って、直己の潜在能力が覚醒する。


「へっ、甘いぜ!」

 直己は少女の肩を掴むと、足に力を入れる。するとどうだろう。なんとあいつは宙返りをして、少女の後ろに回った!

「えっ、ウソでしょう!?」

 自分の攻撃が避けられるのを見て、少女は驚きを隠せない。

 だが直己はそれに気付くはずもなく、地面に落ちるとすぐさま俊敏な動きでUターンして姫のいるところに戻ってくる。

「さあ、今度こそおれと……うぎゃっ!」

 後頭部を打たれた直己はよろめき、地面に倒れる。

「もう、目を離すとすぐこれなんだから……!」

 ハリセンを持っている名雪は、白い目で直己を見下ろす。

「な、なんでだぁ……なんで名雪の攻撃だけは、避けれないんだ……がくっ!」

 そう言うと、さっきまでピンピンしていた直己は地面に伏せて、気絶する。

 直己の質問、確かに気になるな。あれだけすごい技を避けられるのなら、名雪の地味なハリセン攻撃を避けるのもそう難しくはないはず。一体何故だ……

 まあ、そんなことは置いておこう。それより姫に謝っておかないと。


「す、すみません……うちの者が、あんな無礼なことを……」

「ああっ、気にしないでください。とても個性的な方ですね」

 幸いなことに、姫は度量が広い人間で、直己の異常な行動に不満を示さなかったようだ。

 しかし、先ほどの少女はそう思わなかったようだ。

「姫様、この人たちは本当に大丈夫なのでしょうか……?」

 不信の念を抱く少女は白い目でこっちをチラ見しながら、姫に耳打ちする。まあ、初対面の人に対して、そう考えるのも自然だよな。

「大丈夫、私が保証するわ」

「何なんですか、その根拠のない自信は……」

 姫は腕を組み、得意げに少女の疑問に答える。それでも少女は不安そうに姫を見据える。


「あっ、申し遅れました。私はジェイミー・グロリー、どうぞよろしくお願いします」

 自己紹介を終えた姫は、こっちに手を差し出す。俺も手を伸ばして、姫の手を握る。

「狛幸秀和です。こちらこそよろしくお願いします」

「ミスター・ヒデカズですね、いい響きです! あっ、そういえばスクルドって子は一緒にいますか?」

「スクルドって、誰のことですか?」

 聞き覚えのない名前に、俺は思わず不思議に思う。真相を知るべく俺はジェイミー姫に質問を投げるが、突然事態は思わぬ方向へと展開する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【雑談タイム】


???「ハッハッハッー! ついに来たか、伝説の救世主メサイアたちよ! その強さがどれほどのものか、確かめさせてもらうぞ!」

秀和「うん? 誰だこいつは? まさか敵なのか!?」

ジェイミー「いいえ、違いますよ。彼は……」

秀和「おっと、これ以上話してはいけませんよ、ジェイミー姫」

ジェイミー「えっ、どういうことですか?」

秀和「あなたは新入りだから分からないでしょうけど、まだ本編で明かされていないことをここで言うのがネタバレになりますよ」

ジェイミー「ネタ……バレ? そちらの世界の言葉ですか?」

秀和「ええ、まあいわゆる『ルール違反』って奴です」

ジェイミー「へー、そちらの世界にはそんなルールが……それは知りませんでしたね」


碧「あの、失礼ですが先輩」

秀和「うん? どうした碧?」

碧「先輩は以前、ここでめちゃくちゃネタバレをした気がするんですけど」

秀和「だからって、そのルールを知らない新入りが勝手に破っていいわけがないだろう」

碧「でも先輩って、ルールに縛られるのが嫌いなのでは?」

秀和「まあ、それもそうだけど……一応作者に釘を刺されたんだよな」

碧「また大人の事情ですか……色々大変そうですね」

秀和「他人事みたいに言うなよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る