第3話

僕らは、1日掛けて荷物を纏めた。

ペットボトル飲料と米に味噌や砂糖の調味料を僕のリュックに。

レトルト食品とスナック菓子は、優奈のリュックに詰めると、それを背負う。

リュックの大きさからして、僕の方が1,5倍位は大きいけど、こんなもんだろ。

他にも見付けてあった金属バットにゴルフクラブ、草を焼く為の火炎放射器、包丁の数本とエアガンも装備した。

アパートを探って、まぁまぁ見付かった方だろう。

過剰装備な気もするけど、備えあれば憂いなしと言うやつだ。


「よしっ、行こう。」

荷物のチェックをしながら、優奈に言う。


『でも、どこに?』

優奈は、地獄の中をここまで来たんだ。外が、どうなってるか位は分かってるはず。安全な場所なんてない事が分かっているから言ってるんだろうね。

ここも出入口を潰したり、階段にバリケードを作って、まぁまぁ安全に過ごせる様にしてあるのを知ってるから、余計なんだろう。


「まずは、定番のショッピングセンターとホームセンター。

そこで、物資の調達。

その後で、裏山の病院に行く。あそこを拠点にするつもりだよ。」

学校の裏は山になっていて、山頂は大きめの病院が建っていた。

リゾート計画で建てられた病院は、長期療養や人間ドックを中心としたリゾート型の病院となっていた。

言い換えると金持ちの為の病院だね。


『あの廃屋?』

優奈が言う通りで、その金持ち病院は、あっという間に潰れた。

原因は、医院長と議員の癒着。土地の買収に強引な手法を使い、何だかんだと理由を付けて税金を使い込んだらしい。

まぁ、潰れるわな。


「あそこは、潰れて1年経ってない。施設は使える筈だし、頑丈なフェンスで囲われているし、道も一本。上からは、見通しがきく。守るにも攻めるにも好都合な場所だからだよ。」

長期戦になるのを想定すると、あの施設はかなりのアドバンテージを得る事が出来る。


「さぁ、行くよ。早いに越したことはない。」

カバンに紐を繋ぐとベランダから下ろす。

滑車はないけど、手摺を支点として下ろせば一気に大量の荷物を下ろせるからね。


下まで荷物を下ろすと近くに停まっていた車に積み込む。

まだ薄暗いとは言え、どこで誰に見られているか分からない。手早く準備して出発する事にした。


『運転出来るの?』

当然の様に助手席に座った優奈が不安げな表情を向けてくる。

当然ながら、免許はない。が、運転出来るかと言えば


「出来るよ。アクセル踏めば進むし、ブレーキ踏めば停まる。それだけだ。」

でエンジンを掛けると車を走らせた。


『どうなっちゃうんだろ。』

窓の外を眺めながら、呟く様に優奈は言っているが、そんなの誰にも答えられる訳がない。

こんなクソみたいな世界なんて、誰が予想していたって言うんだ。


「あんまり顔出さないで。狙われるから。」

窓に額をくっ付けていた優奈に言って、座席に潜り込ませた。

女の子は、男にとってはと美味しいだろうからね。真っ先に狙われる。


「ゾンビドラマより、たちが悪いよ。

ゾンビに知能はないけど、僕らの相手は人間だから。

組織だたて、騙し、奪い、襲ってくるはずだよ。」

僕は、そう思っている。

ゾンビなら、愚直に喰らう事だけを目的に襲ってくるんだから、守りも攻めも単調で済むけど、人間相手では、そうはいかない。

騙されたり、奪われたりしない様に気を付けないと。


車は順調に進んでいく。

それもそうだろう。秩序も法律もムチャクチャになった世界でも、何も出来ずに生活しか送れない人たちも多いのだから。

死ぬのは怖い。でも犠牲を出す覚悟を持てない人が、大多数だ。

でも、それもあと数日だろう。

発病する人が一気に増えるはず。


一方では、今までと変わらない様な日常。そのすぐ横では地獄の様相を見せている。

隣で行われている事が、さも当たり前で普通な事の様に信号を待ち、横断歩道を渡っていく人たちを横目で見ながら、目的地へ辿り着いた。


普通に営業しているショッピングセンターを見ると、地面に拡がっているがウソの様に感じられる。


一応の護身用として、僕はバット。優奈はゴルフクラブを装備して、店内へと入る。

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無茶苦茶になった世界の中で @koooum

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