仮面をかぶった少年

田中貴美

仮面をかぶった少年

 色の白い端整な顔だちの少年と大振りの少しにきびのできた少年がふざけあって部屋の中で遊んでいた。部屋の中に置かれていたクローゼットの隙間から新しい学生服が見える。どうやら二人の少年の身体たちと新しい学生服から高校に入ったばかりのようだ。二人とも長い間部屋の中で笑い、馬鹿話をしてはしゃぎまわる。ためぐちを叩きあい、仲のいいところを見ると二人の少年たちは親友らしい。大振りの少年はベットの下に隠していた裸体の女の写真集をもう一人の少年にどうだ凄いだろといって自慢げに見せる。二人の少年はそれをじっと見ていいなと言って笑う。


 時間が過ぎてすぎ、色の白い少年は部屋に置かれていた目覚まし時計を見て家に帰らなきゃと言う。おい待てよと大振りの少年は言う。大降りの少年は、あそこじゃ美味しい飯を食えなかっただろと言う。自分の母親が少年たち二人のために腕によりをかけて美味しいものを作ったのだ。食べていけよと言う。色の白い寂しい顔をして首を振って少年は断り、大振りの少年は勧める。なんどか同じやりとりが続き、やがて色の白い少年が部屋を出るためにドアのノブに手をかける。


 そのとき、大振りの少年が怒ったようにある一つ単語を言った。ある単語を聞いて、色の白い少年は能面のように凍りついた。そして色の白い少年は振り向き、大振りの少年の方に顔を向ける。大振りの少年は、色の白い少年の顔を見た。色の白い少年はさっきまであった笑顔や寂しい仮面のような顔はすべて消え去り、なんとも言えないような悲痛に満ちた仮面のような顔になっていた。君は酷いこというね。ぼくはこの言葉が一番傷つくよと言った。確かに君の言うとおりなのかもしれないね。でも、心はまだ人間なのだよ。


 君の知っているとおりぼくは事故にあった。学校の部活で帰るのが遅くなり辺りは暗くなっていた。帰るのが遅くなってかあさんが心配しているからと思って急いで横断歩道のない道を通ったよ。あれがぼくの最大の過ちだったと思っている。悔やんでも悔やみきれない。あれさえなければこんなことにはならなかったはずだからね。ぼくはそれからの記憶はまったくなくなっている。


 どうやらぼくは車に轢かれたらしい。ぼくを轢いた車の持ち主は急いで救急車を呼んだのだけど、しばらくして救急車が到着したらしい。ぼくは全身血まみれでずたずただったらしい。救急隊員はぼくを担架で運びながら可哀そうにもうこの少年はもう助からないなと思ったらしい。ぼくはその時本当にに死にかけていた。それでも少しの望みがあればぼくを生き返らそうと、ぼくの心臓に何度も電気ショックを与えた結果、なんとか心臓は動きだした。一緒にかすかだけど息もしたらしい。だけども油断はならない出血はまずまず激しくなる。ぼくは救急車の中でいつ心臓がとまっても同じくない状態だった。緊急隊員は善意のある人で慌てた。まだ若い将来性のある少年を助けようと思ったのだろうね。いろんな病院に掛けても次から次に病院に断られた。最後の病院である特殊な施設に行けば、もしかしたら助かるかも知れないと言われたらしい。そこで緊急隊員は指定された場所に行き、ぼくは救急車から降ろされた。ぼくはヘリコプターの中に入れられて、息もたえだえのぼくをなんとか死なさないために一気に冷却保存されて、運ばれた上にぼくは特殊な施設に入れられたらしい。


 特殊な施設の研究員がぼくの家に来て、家族にぼくが助けられるすべが見つかるかもしれないといろいろ説明されて、いきなり何枚かの用紙が渡させたらしい。ぼくの家族は内容もほとんど確認せず、ぼくを助けたい一心ですべてのものにレを入れ、印鑑を押して、用紙を研究員に渡したらしい。

 家族は小さな字で書かれた条件までもよく見ておくべきだった。ぼくが自ら死を選んだら、ぼくを助けた費用が全額家族に払わせる仕組みになっていた。研究員は悪魔同様の巧妙な手口で家族を騙し、ぼくが死なせないように追い込んだ。これでとりあえず悪魔のような研究員とぼくの家族との間は契約成立した。


 その後、特殊な施設の中で冷却保存されて死体同然になったぼくを、悪魔が喜ぶような人体実験は始められた。ぼくは研究員があらゆる装置を使ってくまなく冷淡に判断して条件にあうものか徹底的に調べ上げたらしい。

 ぼくは、最初にある中に入れる条件にあうか身長や体重や体型を調査させられた。それはすぐ適応することができた。その後も徐々に深く調査させられた。身体の表面から見える身体の損傷具合など調査させられた。それに髪の色とか太さまでも調査させられた。目の網膜の色や大きさなども調査させられた。

 

 それらの条件に完全にあったぼくなのさ。条件にあわなかったぼくの他のたくさんの見殺しにされた少年たちの遺族は可哀想だな。自分たちの息子の顔に白い布をかぶせられて見せられた後、研究員から最善の対策をうちましたが、駄目でしたまことにすみませんでしたと言われたら悲しみの涙を大量に流すだろうね。それでもぼくにはちょっとうらやましいかな。ぼくは変に悩まず死んだほうがましだったし、少年たちの遺族にはぼくには持っていないものがあるからね。

 

 すべての条件にあったぼくは研究員から特殊な処置をさせられた。ぼくの身体から脳だけが取り出され、ある中に入れられた。

 その後ぼくは起きたとき覚えているのは灰色の部屋にぽつんとともった蛍光灯だけだった。鏡も洗面台もなかったね。その時にはぼくには必要のないものだったのだろうね。ぼくは鉄のベットに布団も何もかけてられていない状態だった。そしてなにげなく自分の手を見たよ。ぼくの手は信じられないような異様なものに変貌していた。ぼくはおののき狼狽したよ。しばらくして身体中を観察したよ。手だけではなく全身が異様なものに変貌していたのだよ。そのときのぼくの恐怖が君にはわかるのかな?おそらくわからないだろうね。

 しばらくして、研究員は入ってきて、恐怖で戸惑うぼくに笑顔で実験は成功としたよと神の祝福のような言葉を投げかけてくれた。


 その後ぼくは生かされるために研究員の指導の元毎日規則正しい栄養を摂取させられた。その後ぼくは、研究員はぼくの恐怖に満ちた心の状態を知らないまま、冷静にぼくの脳の状態と身体が不適合を起こさないかをいろいろ調査して、今後の参考のために念入りにデーター入力をして、その後の経過を観察され続けた。

 幾日がたちぼくは表面だけは人間らしい姿になった。何せ脳は計画的にできてすぐに取り出せたもの、脳がなくなりぼくの死んだ身体から表面の皮を剥ぎとり、有機物の人間の皮と無機物のものと接続可能なのかいろいろな特殊加工をするのにも時間がかかるからね。

 その後、ぼくはみんなの前に晒されて、人類の希望とたたえられ発表された。世界中の人は感動してぼくを見てくれた。ぼくは研究員から指示されたように最大の笑顔の仮面をかぶり、手を盛んに振ったよ。でもぼくは笑顔とは反対にいつも心は泣いていた。

 そして君の知っている結果がこれなのさ。

 

 でもね。世間では公にされていないことがあるのだよ。

 ぼくの身体にはいろいろな秘密がある。それからぼくの顔すべすべして綺麗だろう。それにうぶ毛もちゃんとついている。これも偶然に顔に一つも損傷部分がなかったからなんだよ。もし一番目立つ顔に損傷部分があれば、ぼくの身体から取った細胞の培養に時間がかかりすぎるし、同じ条件下で同じ皮膚の状態が作れることは滅多にないからなんだよ。もし君が望むのなら服を脱いで裸になってあげようか。そしたら身体についた損傷箇所が色や感触が微妙に違っているはずだからわかると思うよ。


 基本的には脳は人間のものだし、人間だった頃の皮は一応特殊加工されたもののまだ人間らしいものを残している。それ以外はすべて人工のものなんだ。髪や眼球や歯や爪の先まですべて完璧に人間に似せた人工の物なんだよ。

 ぼくは視覚、聴覚はかなり感度が高い。視覚は昼も夜も見えることはできるし、細胞の一つ一つのものまで見えることもできるし、遠くは人間では見えない月のクレータまで見分けることができる。研究者たち最高の傑作品を作るために全人類の技術を使いすぎて、やりすぎたのだろうね。でもぼくは人間の脳だから休めなきゃならないし、夜は見えるが眠ることがなんどか努力してできるよ。

 それも聴覚も異常だな。ぼくのこの話を聞いている研究員関係の人は今のところ10km市内いないから大丈夫だ。

 だけど反対に嗅覚や味覚や触覚はまったく消去されている。そういうものは必要ないと判断したらしい。

 脳だけは人間だから栄養を摂取しなければいけないから、人とは違って特殊な流動食とペースト状の間の状態のものを食べないといけないし、まったく味を感じないし、食べている気がまったく起こらないし、生きるために仕方がないから食べている。契約書にしばられたぼくは家族のために死ねないから生き続けないといけない。 それにどこからでも栄養を摂取できるはずだけど脳に一番近い開閉口がたまたま口だからそこから脳に与える栄養を効率よく短いチューブを通して送り込めるように設計したらしい。ぼくは人間が食べるようなものができないから、ぼくが食事を断ったわけがわかっただろう。

 ぼくが家で女の裸の写真を見て脳が興奮して、ある部分をこすっても何も感じないし、ただ物理的に伸びるだけさ。微妙な人間らしい膨張などもいっさいないし、それに胸や腹とかも同じことを規則的に膨らんだり凹んだりしているだけなのさ。でも外見は普通の少年の日常の一定の生活のものだからさほど異常な事をしない限り、わからないと思うよ。


 だけど表面から見える部分はすべて人間らしいものになっている。顔の表情も旨くできているだろう。頭の神経組織とある物と連動されて特殊加工された皮膚が微妙な表情を作らせることができるらしい。ぼくは喜怒哀楽すべてが人間らしい表情ができる。だけど一点だけ欠点がある。一番人間らしい感情ができないのさ。こんな顔をしているのに疑問に思ったことがあるだろう。

 ぼくが身体から脳が取り出されるときに一緒に脳の内部もほんの少しだけ変貌させられた。いや感情とかはごく普通のものだよ。

 その結果をぼくは試された。知能をあげる箇所を研究されて変貌させられたらしい。知能テストでぼくの年代の少年の平均よりも化け物じみた高い数値を出したらしい。予想以上の結果に研究員は満足したらしいな。今のぼくの頭の中は超天才だよ。 だからいろいろなことが読めるのだよ。ぼくが事故を起こしてから目覚めるまで一切の記憶もないのに、論理的に分析にして今までのことを言ったのだよ。

 大丈夫、ぼくはこの後も普通の少年の仮面をかぶる。一応学校に復学したら一生懸命勉強しているふりをする。そしてテストも最初はまごついて少しは高い数値を出すかもしれないが、そのうち慣れてテスト配分の点数を読んで試行錯誤で何枚も仮面を剥ぎ変えて最後は普通の少年の仮面をかぶれるようになれると思う。


 それからぼくは少しの先の未来が読める。ぼくはそのうち人類の種が衰えて、やがて培養液のタンクから配給されて、ガラスの容器の中で羊水みたいな液体に包まれた胎児がやがて大きくなり人間の赤ん坊の姿となったときガラスの容器から自動的に排出されてくる日もあるだろう。物心がついた子供たちは自分が人間の腹の中で育てられた子かガラスの容器の中で人工的に作られた子か悩むだろう。

 さらにぼくみたいに事故にあったものは脳を取りだされて移植されるのは日常的になってくるだろう。いや、自分からこの機能的な身体を望んで自らなろうとするものも現れるだろう。やがて脳もすべて人工のものになる日もくるだろう。すべてのものは改良に改良を加えて、視覚、聴覚、臭覚、味覚はもちろん触覚までも人間になる。例えば手を切れば血が出て、普通に痛みを感じるようになる。


 子供の頃から自分が誰かと疑って大人になっても自分が誰かと疑って、疑い続ける存在になる。やがてすべてのものが自分を何者かと疑問に思う日常に苦しみ続ける日も遠からずくるだろう。

 最終的には一つのことに問題を集約させることになる。すべての意識を持ったものはたった一つのことに悩みこむことになる。それは自分が何であるか。どういう道に進めばいいか。つまり、アイデンティティの問題さ。そしてぼくはその解決法も知っている。現在自分は考えている。つまり意識を持っている存在であると開き直ればすむことさ。

 

 ぼくは以前は小さな存在だった。だけど今はあらゆる技術を応用してぼくの身体は複雑なものに作りかえられた。君が言うようにぼくは人類の最新の技術で作られた最高傑作品のロボットの最上部に脳だけを組み込まれて大きすぎる存在に成り果てた。 こんなぼくを怖いと思うかい? いいよそう思われてもぼくにはまだ理解することができる。少し変貌させられたけど基本的には脳は人間のもの、皮は特殊加工させられた元はぼくの物だった。それ以外の身体は全部異様なものに変貌されている。どれもこれも中途半端な能力があるけど、基本的には人間の脳だけは持ってから人間らしい感情はまだ残っている。

 だけどぼくは中途半端な存在であるが故に、自分の眠り続けていた過去のことだけじゃなく、遠い昔の人間の過去の深刻な悩みもわかるし、遠い未来の人間の深刻な悩みも、その解決法もごくに簡単にわかってしまう。君から見れば人間の理解を超えた神か悪魔のような両面をそなえた仮面を持っているわけのわからない存在になってしまったからね。


 ぼくを恐れて君が離れていっても決して文句は言わない。でもね。ぼくは君と親友であり続けたいのだよ。ぼくはすべての仮面を剥ぎ取って君だけに心の叫びを言ったつもりなのだけどね。とにかく君がどう答えるかぼくは返事を待ち続けることにするよ。


 じゃあね。ぼくは帰るよ。

 色の白い端整な顔たちをした少年はそう言うと帰って行った。少年は泣き出しそうな表情を話し続けていても、人工の眼球からは一滴の涙を流せなかった。

 

 しかし人間の理解を存在になっても少年は知らないことが一つだけ残されていた。それは少年はまだ仮面をかぶったままだったのだ。

 仮面をかぶっているものは決して涙を流すことができない。

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