第33話 出産

巨木のウロに入り、ミクリの元へ急ぐ。

少し落ち着いたようで、ミクリは仰向けになり足を大の字に広げお腹を手で擦りながら寝転がっていた。

額に汗で濡れた髪が張り付いているので、汗をぬぐってやる。


「とりあえず大丈夫そうなのか?」

そう尋ねると自信満々に頷いた。でもね、とミクリが続ける。

「産まれてくるまで、しばらく時間がかかりそう」

まあ、元気に産まれてくるなら良いじゃないか。なあ、ミクリ。

頑張ってくれてありがとう。

二人とも無事で俺は心底嬉しかった。


さて、その日から20年が経った。例の子供はまだ産まれていない。

なんでやねん、である。


この20年で様々なことがあった。さあ、どこから話そうか。

まず一番変わったところからいこう。俺のダンジョンだ。ガラガラだった俺のダンジョンは今や満室だった。いや、満室どころでなく、部屋の奪い合いが起きていた。


俺の導入したエルフたちの女系家督制度は大成功を収めた。性的に奔放な淫魔の血が入っていたことも成功の要因だろう。女たちは毎年一人は子供を産み続けた。魔族の血は老化のスピードが人とは異なるようで、20年経ってもエルフの女たちは美しいままの姿だった。


人工が爆発的に増えたとはいえ子供ばかりで、それだけではとても俺のダンジョンの部屋すべてが埋まるわけがなかった。次に起きた変化はピルトダウンである。やつは首都に戻ると俺があげたアダマンタイトのインゴットを政府に差し出した上で、辺境開発の権利をもぎ取ってきた。開発した辺境地区はピルトダウンの領土となるらしい。


俺のダンジョンまで来たピルトダウンは、あの約束まだ生きてるよね?と囁いた。国を作る話である。お前が蹴った話だろ、と喧嘩になったが、用意周到にすでに移民を送り込んできており、毎日ちょろちょろと現れる移民に対して対策をせざるを得なかった。ピルトダウンは流石に策士である。


集まった移民たちは、俺のダンジョンの周りに家を作り始める。

どこの馬の骨ともわからない移民たち全員を俺のダンジョンに入れることはできなかった。


ピルトダウンと共に、俺のダンジョンを中心とした開発計画を立てた。居住・商業・工業・農業の4区分である。細かい区割りはピルトダウンにお任せである。金が無いとうるさいので俺が持っていた金塊など全部くれてやった。まあ都市開発の元手にはなっただろう。


気がつけば俺のダンジョンの周りは切り開かれ、幾つもの村が誕生していた。領主はもちろんピルトダウンである。その間も移住者は増え続けて村は町になった。そして10年ほど経ったときに大転換期が来たのだ。ピルトダウンが仕えていた国である、上帝サッリ国が滅亡したのだった。この大陸でも有数の力を持つ国だったそうだが、隣国からの電撃侵略を受け、首都が陥落したのだった。戦火を逃れた人々が向かったのはピルトダウンのところだったのだ。


最初はピルトダウンが人口を増やす好機が来た、と小躍りしながら行くところがないならうちに来いと勧誘していたのが口コミで広がり、数十万規模の難民が押し寄せてきた。予想以上に増えすぎた人口のせいで食糧危機が起こりかけたが、俺のダンジョンで畑を増やし無理やり対応した。また、元からいる住民の中で信用がおけるものから俺のダンジョンに住まわせて、空いた家を難民たちに提供していったのだ。


結果として、俺のダンジョンは人で溢れ、ダンジョンの周りの町も人口が爆発的に増えたのだった。

ピルトダウンの要望に沿って、俺のダンジョンではミクリが人口増に対応するための食料を初め生活用品や工業機器などを量産した。人々はダンジョンから提供される機械を使って産業を立ち上げ、経済が周りだし、商農工のサイクルが動き出したのだった。


俺のダンジョンでの住居権はピルトダウンにより管理され、選ばれし住民にだけ与えられる特権となった。優良な住民は俺のダンジョンに住むことができ、ダンジョン内で問題を起こした住人はダンジョンから追放された。ダンジョンでの生活は快適で、一度手に入れて住民は権利を失わないようまっとうに生活している。元々の住人であるエルフたちも、この頃には外の住民との交流を持ち初め、特に女のエルフは見境なくいい男をみかけるとつまみ食いをするのだった。


そんな感じで俺のダンジョンは今や『バラド・アジャナ』という名で呼ばれだした。エルフの国という意味らしい。ピルトダウンは国名を布告し『アジャナ』という国家が誕生した。俺のダンジョンを取り囲む巨大な都市は『ハウル・アジャナ』と呼ばれている。人口は1000万人近くなり、ダンジョンを取り囲んでいた森はすっかりと無くなってしまった。ピルトダウンを頂点とした行政府と軍も抱え、立派な国家として運用されているのだ。なんかピルトダウンに任せきりだったが、凄い男である。


次にダンジョンコアに吸い込まれた、パウロとマラコイであったが、彼らはコアのエネルギーの中で肉体を失いながらも生存していた。ミクリは彼らと対話ができるらしく生きていることが判明したのだ。ミクリは早く二人を放り出したかったようだが、体内の赤子が生まれるまでは彼らの肉体を作ることが難しく、誕生を待つうちに20年が経過してしまっている。かといってエネルギー体となった彼らは時間の経過が気にならないようで、20年かけて新しい肉体を作る時の要望をまとめ続けている。俺も少しだけ聞いたが、パウロが女に生まれたがっていると聞かされたところで、もういい、と止めたのだった。


そして俺とミクリだったが、二人ともまったく老けなかった。ミクリはダンジョンのエネルギーを肉体に転換した生物なので人間ではないので老化しないのも納得だったが、俺は人間である。自分に【鑑定】を何度もかけてわかったのは、昔飲んだ神酒ウルのせいだった。不老の効果があるという酒を大量に飲んだおかげで未だに見た目は20歳の頃と変わらない。子供が一向に産まれてこないこの状況ではただただありがたかったが。


そんな長い妊娠期間を経て、ようやくミクリが出産に入ったのが今日であった。

「そろそろ産んでも大丈夫そうだから、ちょっと産んでくる」そう軽くミクリは言うと自分の部屋にこもった。そしてソワソワと待つこと一日。俺の前には3人の赤ん坊が並んでいたのだった。

え?3人も???


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