第30話 恐怖の男

その日、俺たちは5つのダンジョンを攻略したのだった。

5つめのダンジョンコアを持って、ダンジョンから出てくると軍隊に囲まれていたのだ。


「貴様らか!!我が軍管轄のダンジョンを無断で荒らす盗賊は!!!」

ダンジョンの周りを囲む軍の中から、一人のダンディな大柄な鎧の男が現れた。


立派は黒いひげを伸ばし、オールバックに撫で付けた髪の男だった。

俺は黙って男に<階級>を意識して【鑑定】を当てる。


[陸軍大将]という結果が出る。大物じゃないか。

会話をしても平行線なのは話す前からわかっている。

ダンディな男は俺たちに向かって、ひたすら罵声を浴びせ続けてる。


そうだ、こんな時こそ、あの男のあの魔法が役に立つ。


ゆけ、マラコイ!ピンクの魔法を力の限り放つのだ!!


「おおう!任せろ!」

マラコイは勢いよく俺たちの前に飛び出した。

手を前にかざすとピンクの光が飛んでいく。

マラコイが放つ【発情】が陸軍大将に直撃する。

慌てて側近らしき男たちが大将を抱きかかえて後ろに下がろうとするが逃さない。


マラコイは超絶技巧でピンクの魔法を素早く的確に、大将の周りの男達に当て続けた。

おそろしい、マラコイは本当に恐ろしい魔法を手に入れたものだ。

後ろではミクリが手に入れたダンジョンコアの魔力を吸い取っている。


俺たちを、遠巻きに輪になって取り囲む軍の兵士たち。

その輪から飛び出た大将と側近たちだが、理性を失っている。

鎧を脱ぎ、全裸になると、人前にもかかわらず乱れたパーティーが始まったのだ。


軍の兵士たちは眉をしかめてその光景を眺めている。


「道を開けろ!どかないやつは同じ魔法をかけるからな!」

俺はそう叫ぶと取り囲む兵士たちに近づく。


どよめきと共に、目の前の人波はきれいに分かれていく。

裸で絡み合う大将たちを横目に俺たちは、軍の兵の包囲網を抜けたのだった。ちなみに、マラコイとパウロの二人は、大将の横を通り過ぎるときに少しだけ羨ましそうな顔をしていた。


包囲網を抜けた俺たちはその足で次のダンジョンに向かっていた。

少し疲れてきたが、ここからは時間との勝負である。


ミクリは軍の兵士なんて皆殺しにすればいい、というがそういう訳にもいかないのだ。

ひとつに、パウロとマラコイにとって彼らは元同僚である。やはり人情というものがある。

同じ釜の飯を食った仲間をできるだけ殺したくないと二人は言う。そりゃあそうだろう。


だが俺も軍と戦争をして無傷で終われるか自信はない。

たぶん何かすごい魔法とかあるだろうし、なにより人数の差を舐めてはいけないのだ。


だって5000人の兵士である。

なんか炎の竜巻とかどーんと出せばなんとかなる気もしないではないが5000人ってめっちゃ多いぞ。そしてその兵士たちにも家族がいるのだ。適当に焼き殺すとか後味が悪すぎる。


邪魔をするやつはマラコイの【発情】で無力化しながらダンジョンをすべて攻略してやる。


2つ、3つ、とダンジョンをさらに潰してまわる。

時間が経つほどに、俺たちの邪魔をするやつは出てこなくなった。

大将たちの身に降り掛かった、恐怖の出来事が知れ渡っていったのである。


怯えた目をする兵士たちは、俺たちが近づくと悲鳴をあげながら後ずさりをするのだった。


圧倒的な恐怖を軍に与えることに俺たちは成功したのだ。

軍は何度も俺たちを包囲しようとするが、遠くから命令を出す上官の指示に従う剛の者はほぼいなかった。

俺たちもそんな軍の兵士が反抗しやすいよう、上官を狙い撃ちでピンク魔法をたまに撃っている。


優位な状況を作ることができ、俺たちは一日に数件のダンジョンを攻略し、疲れたら俺のダンジョンに戻って休息を取った。

そして5日目には、残り1つまで来たのである。


森の中央にある巨木のウロにあるダンジョンが最後の一つだった。


幸いなことに軍の兵士たちを一人も殺すことなく、俺たちはここまで辿り着くことができた。

いや、心が死んでいるものはいるようだったが、身体は無事である。

いや、身体も無事とは言い難いのだが。

まあ生きてりゃいいのである。


兵士たちは残された最後のダンジョンを全員で取り囲んでいる。

その顔は上官たちは怒りに満ちているものが多く、階級の低い兵士ほどやる気がなかった。

そりゃ上官の痴態を目の前で見れば、軍の規律など吹っ飛んでしまうだろう。


俺たち四人が近づくと、かなり遠くからパラパラと火魔法や水魔法の玉が飛んでくる。

相当に遠い距離から放ったようで、まったく勢いがなく簡単に撃ち落とすことができた。


やられたらやり返さないと舐められるのだ。


ゆけ、マラコイよ!

俺とミクリはマラコイの背中に手を当て、自分の魔力をマラコイに流し込む。

マラコイはぴくっと身体を震わせ、俺をミクリを見て大きくうなずく。


「マラコイ、全力でいってくれ!!」

俺は叫ぶ。

マラコイは魔力を練り始めると全身がピンク色に光りだした。

それを見た兵士たちに動揺が走る。


「いま俺たちを攻撃したやつらはどこにいる!?教えないと全員巻き込むぞ!」

そう叫ぶと、兵士たちは一斉にひとつの方角を指差し、その方向から全力で逃げ出した。


ピンクの光はマラコイを包み込んでいる。

よく見ると、この男、微かに宙に浮いている。

まさかこんなエロ魔法で人が宙に浮けるとは。

【発情】魔法は可能性に満ちているじゃないか。


そんなことを考えているうちに、マラコイは兵士に教えてもらった方角に全力で【発情】を撃ち込んでいた。

逃げ惑う兵士たちの間を縫って、俺たちはゆうゆうと最後のダンジョンに足を入れる。

ここさえクリアすれば、軍は撤退するだろう。

石炭がでなくなった炭鉱町が廃れていくように。


ミクリはお腹を愛おしそうに擦りながら、パウロは嫉妬の表情で、マラコイは満足げな顔をしている。

そして俺は、ようやく面倒なことが終わりそうだと、ため息をつくのだった。

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