第18話 恋

次のフロアに降りた時、何か微かな違和感を感じた。

警戒するが特に何も現れない。

二人が追いつくのを待って、フロアを調べるが無人であった。


フロアの回廊を一周して戻って来た時、ようやく二人が階段を降りてきた。


マラコイは顔面蒼白で戦斧にもたれ掛かりながら歩いている。

股間を押さえ苦渋の表情を浮かべている。


もうひとり、パウロも顔面蒼白である。

こちらはお尻を気にしており、内股で足を引きずるように歩いていた。


階段を降りきった二人はやはり違和感を感じたようでキョロキョロしていたが、特に何も起きない。


俺は何も言わず二人が手で抑えている箇所に【治癒】をかける。


「どうする?俺はまだ行けるけど?」

辛そうな二人に聞くと、お前に任せる、と言う。

詳しく聞くと、俺が開けなかったドアもすべて開けたらしい。


淫魔のピンク魔法がなぜか、ことごとくマラコイに当たるらしく、その数すでに10を超えているらしい。

その10回、すべてどう処理したのは聞くまでもなかった。

恐ろしい。俺は心から戦慄を覚える。


ただ、魔石はそこまでして欲しいそうで、もう少し頑張れば一財産になるから頑張る、と言い出した。

マラコイが。


(嘘やろ、お前もう限界やんけ…)

まあ、本人がそう言うなら俺は異論もなく、さらにダンジョンに潜ることになった。


ただ、昼過ぎにスタートしたダンジョン攻略もそろそろ夜である。

晩飯と睡眠を取ることにした。


適当な無人の部屋に入り、三人で飯を食って順番に睡眠を取る。


晩飯の干芋と干し肉を噛りながら二人と雑談する。

二人で冒険者結社を立ち上げるのが夢なんだそうだ。

結社の立ち上げには登録や拠点確保が必要で、もうすぐその金が貯まるらしい。

次の回からは俺にも魔石を分けてくれと交渉し、この先で得た魔石は三人で平等に分けることになった。


順番に睡眠を取り、二人の顔色に血色が戻った。

これでダンジョン攻略を再開できそうである。


次に降りた階は部屋に一人づつオークがいた。

その次の階はオークと淫魔が交尾中である。

その下の会は無人で、またその下の階では部屋に一人ずつミノタウロスがいた。


淫魔のピンク魔法さえわかっていれば楽勝だった。

俺が突撃して殺し、二人が魔石を取るために解剖する。

チームとして機能し始め、効率よく魔石を回収できている。

血まみれのマラコイもにっこにこである。


初遭遇のミノタウロスだが、簡単に言うとマッチョな牛人間だった。

3メートル近くある長身に、リアルな牛の頭が乗っている。

身体は筋肉でパンパンにはちきれそうであった。


だが哺乳類系のモンスターならどれも火魔法で一撃である。

俺の得意な火魔法を脳内に出現させると攻撃してくる間もなく白目を剥いて床に崩れ落ちるのだった。


作業に慣れてきた二人も俺について一緒に部屋に入るようになっていた。

「すごいなその魔法、いったい何をやってるんだ?」

いくつかの魔法が使えるらしいパウロが聞いてくる。


「え?ただの火魔法だけど?」

「いやいやいや、おかしい。そんな火魔法なんて聞いたことないよ。そもそも火が見えないじゃないか」


脳内の脊髄と脳を接続してる辺りを焼くんだよ、と説明してやる。

パウロは、そもそもあんな離れた場所に魔法を出現させる時点でおかしいんだ、といっているが出来るんだから仕方ないじゃないか。


その少女が現れたのは、ミノタウロスと淫魔が交尾する階を全滅させて、降りた階でのことだった。

そのフロアは今までと違って変なゴブリンが出た。


ゴブリンにくせに、やたらと美しい顔をしてほっそりとした引き締まった身体をしているのだ。

「なあ、これってゴブリンと淫魔の子供だよな」

とりあえず脳を焼き、崩れ落ちているゴブリンの首を斬り落とす。


マラコイは解体しようと近づくと、ゴブリンの身体はドロっと溶け出して骨と魔石だけが残ったのだ。

「ゴブリンの配合種だな。魔に近いから死んだら肉が残らないんだろう」

そう言いながら魔石を拾う。


俺とパウロは二人で残った骨を調べ始め、マラコイは部屋を出て魔石を腰の袋に入れている。

部屋の外で強烈なピンクの光が炸裂した。


「アアアアアアアアアアアアーーーーーーン!!!!!」

マラコイの悲鳴が上がった。


部屋から外の様子を伺う。

床に倒れ、腰をガクガクさせているマラコイがいた。

そのマラコイに一人の全裸の少女が近づいていく。


思わず見惚れてしまった。

まだ幼さを残す女の身体は脂肪が少なく、美しく引き締まっている。

こぶりな乳房に、白く艶めく肌である。

細い首の上には、それはもう美しい顔があり、紫色の長い髪が歩くたびに揺れている。


だが額からL字型に牛の角が生えており、そのアンバランスさが俺をときめかせるのだった。

隣から覗くパウロも同じく見惚れている。


少女は何か鼻歌のようなものを歌っているのが微かに聞こえてきた。

耳を澄ますと「種馬~た~ね~、マッマのために~おとこの~たねうま~ゲットだぜ~」と頭の悪そうな歌である。


モンスターに合うのは初めてだった。

「おいパウロ、あいつ言葉を喋ってるぞ」

小声で話しかける。

「あれは奇形腫だろ。人間とのだ。言葉を喋る魔物は恐ろしく強いらしいぞ」


喋っている間に、少女は自分より遥かに大柄なマラコイを肩に担いでいた。

パウロが部屋を飛び出す。

「おい、待て!マラコイに何をする気だ!」


振り向いた少女は驚いたようで、キャッと声を上げて手を口元に持っていく。

ただその瞬間に魔法を撃ったようでパウロの身体がピンク色に輝いた。

パウロを引き戻そうと手を出していた俺は、慌てて手を引っ込める。


俺はピンク色になるわけにはいかない。

絶対にピンク魔法にかかりたくないのである。


少女と目が合う。

にっこりと俺に微笑んでくれた。


やばい、超かわいい。

すごい速さで去っていく彼女に、俺は恋をしていた。

そして俺は強烈に発情しているパウロと二人きりになり、回廊に呆然と佇んでいるのだった。

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