第17話 ピンク色

入った先のダンジョンは、小奇麗な石畳が続く回廊だった。

今回は初めてまともな目標がある。

ダンジョンボス討伐である。


さあ、いくぞーと軽い気持ちで歩き出す。

安い革鎧で腰にはエロンの日本刀もどきの反りのある片刃を差している。

後ろから付いてくる二人は、ダンジョンに入った途端、気配が変わり、普段のピンク色の気配がなくなった。

お仕事モードである。


(この二人どれぐらい強いんかしら)

疑問ではあるが、そのうち戦うところを見ることもあるだろう。


回廊は大きな口の字型で、内側にいくつものドアがあった。

開けてみるが、どの部屋もがらんとしていて何もない。

このフロアはモンスターが少ないようで、なかなか出会わないのだ。


二回ほど角を右に曲がったところで、下に降りる階段がある。

後ろを見ると、パウロとマラコイはうなずいている。


(何のうなずきやねん)

まあ下行こうぜってことだろうと、敵に合わないまま下に降りた。


回廊が続いている。

ドアを開けると筋肉でパンパンのゴブリンがいた。

人差し指を向けて脳内に炎を出す。


ちょうど鎧を着ようとしていたところだったが、目があったまま白目を剥いて倒れる。

首を落としてから、解剖してみることにした。

着ていた途中の鎧を脱がせ、胸部から腹部まで剣でざっくりと斬る。


(前回に筋肉ダルマ戦は殺すだけだったからなあ)

胸部や腹部に手を入れて確認すると、内蔵は人間と同じような構造だった。


心臓の下に魔石がくっついていたので取ってみる。

大きなビー玉ほどの小さな魔石だった。


(一人倒すたびに解体してたら割に合わねーぞこれは)

ゴブリンの魔石は放置することにした。


部屋から出るとドアの外で待っていた二人がぎょっとした顔をする。

「血まみれじゃねえか、怪我はないか?」

「大丈夫だよ、敵の血だから。解体したけどゴブリンの魔石って小さいくて割に合わんよなあ」


パウロが驚いた顔で「いやいや、十分金になるぞ。いらないなら俺たちにくれよ」というので好きにしてくれと嬉しそうな顔をしていた。

笑うと可愛い顔してるじゃないか、パウロ。


その後、俺が部屋に入ってゴブリンを殺し終わると、二人が入ってきてゴブリンを解体している。

この階では一部屋に一人のゴブリンがいて、この階だけで20人ぐらいのゴブリンを殺したのだった。


次の階段を見つけ、降りる前に休憩を入れている。

「アーサー、強いなお前」

マラコイが血まみれの顔を拭きながら言う。

ゴブリンを解体しすぎて全身血を浴びている。


一方のパウロは汚れがまったくなくキレイなものであった。

ちなみに二人はまだ一回も戦っていない。


ゴブリン相手に無双している俺は褒められて気分が良かった。

軽く干し肉を噛って水を飲む。

二人も用意していたものを食べている。


まだ全然余裕がある。

俺はご機嫌で下の階段に踏み出したのだった。


次の階も同じ回廊型で、ドアが並んでいる。

ガチャリと開けると、裸のゴブリンの尻が見える。

ん???


ちょうど交尾中に突入してしまったようである。

驚くゴブリンに後背位で犯されているのは、恐ろしく整った顔の肉付きのいい女だった。


驚く仕草のゴブリンに対して、女は無表情の能面で、顔だけこちらに動かした。目は焦点が合っていない。

整った顔だが表情がなく背筋がぞわりとする。


(狂ってしまった女だろうか?)

ゴブリンは脳を火魔法で焼くと床に倒れ落ちる。

残された女は床に座り込んだ。


(こいつは何だ?人間か?)

わからない。

「パウロ!こいつはモンスターか見てくれ!」

外の二人にヘルプ要請である。


部屋の中を覗き込んだパウロだが、裸の女を見て嫌そうな顔をする。

「そいつは淫魔だ!早く殺したほうが良いぞ!」

すかさず俺は人差し指を向けて脳内を焼く。


女は何事もない様子で座ったまま手をこちらに向けると魔法を発動した。

ピンク色の玉がしゅーっと飛んでくる。

バックステップをして部屋から飛び出して転がる。


部屋を覗き込んでいたパウロも慌てて逃げている。

マラコイは何が起きているのか分からず戦斧を構えたところに、飛んできたピンクの玉が直撃する。

全身が一瞬だけピンクに光りすぐに収まった。


俺は自分に【加速】の魔法をかける。

走りながら剣の柄を握り、間合いに入った瞬間に鞘から抜きながら斬りつけた。

居合抜きのようなものである。

切られた女は身体を真っ二つになると床に落ちた死体が溶け始める。

後には小さめの魔石だけが残った。


魔石を拾って部屋をでる。

「マラコフ、大丈夫か?」

何の魔法かわからないが、当たったのは間違いない。

「大丈夫だ・・・。うぅ。ハアハアハア」


マラコフの息が荒い。

頬が赤くなり、目が潤んでいる。

角刈りのおっさんが、である。


「えっ!!?」

「マ、マラコイ!?ちょ、ちょっとこっちおいで」


驚く俺と、マラコイの手を引いて部屋に入りドアを閉めるパウロ。


「ア、アーサーくん先に進んでてくれない?ゴブリン解体していくからさ。ちょっ、ちょっマラコイ、待って。そこ駄目…あっ」


俺は走ってその場から逃げた。

全身に冷や汗が出る。

淫魔の魔法を受けたマラコイは発情していた。

パウロにだけでなく、俺を見る目もおかしかったのだ。


危険だ。あの魔法は危険すぎる。

絶対にあの魔法をくらうわけにいかないぞ。


次の部屋のドアを開ける。

またゴブリンと淫魔が交尾している。

【加速】を自分に当て、ゴブリンの脳を焼くのと同時に淫魔を斬り殺す。


次のドアも、その次のドアも同じ光景である。

嫌になったのでドアを開けず、回廊を足早に歩いて下に降りる階段についた。


ここはゴブリンの風俗だったのか?

どいつもこいつも、である。


無防備な体勢なので反撃が来ないのが救いであった。

まだあのピンクの魔法を一度も受けずにここまで来れたのだから。


パウロたちを少し待つが来ない。

何をしてるのか、想像は難しくない。

気まずいので先に行くことにして俺は下に続く階段を降り始めるのだった。

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