河童ポチ

八ツ波ウミエラ

緑色の目

 2016年3月26日土曜日。ふたりは出会った。


 小学六年生の雪緒は家でアニメを見ながらポテトチップスを食べていた。のり塩味のポテトチップスは最高だ。アニメの中では赤毛の主人公が同じく赤毛の姉に怒鳴られている。それを見て雪緒は友達の向日葵の言葉を思い出した。


「お姉ちゃんってね、何でもしてくれるんだよ」

「何でも?」


 向日葵は青い目をきらきらさせながら続ける。


「うん、お風呂掃除も花壇の水やりも磁石で砂鉄集めるのも、頼んだら何でもしてくれるの。あとね、弟も何でもしてくれるんだよ」

「向日葵の、魔法で出来たみたいな青い目で見つめられたら、誰でも言うこと聞いちゃうんじゃないの?」


 向日葵はきょとんとした顔をする。


「またそれぇ?わたし、青い目じゃないよ。雪緒ちゃんと同じ茶色の目だよ」


(おれも茶色の目じゃないよ)


「あはは」

「あ!雪緒ちゃんすぐに笑ってごまかす!」


 雪緒の目は特別製だった。でも心は普通の女の子だったので、お姉ちゃんと弟がいるのいいなぁと思った。


「ただいま~」

「母さんおかえり。遅かったね。スーパー混んでたの?あとおれ、お姉ちゃんか弟が欲しい!!」

「雪緒、あんたそのいっぺんに言う癖やめなさいよ。スーパーは別に混んでなかったわ。兄弟は、もうすでにお兄ちゃんがいるんだからそれで我慢しなさい。お母さん、河童さんを拾ったから遅くなっちゃったのよ」


 河童……?雪緒の脳みそがハテナマークでいっぱいになる。



 次の日、雪緒は家に遊びに来た向日葵にこう言った。


「河童ってね、何でもしてくれるんだよ」

「河童?」


 雪緒は、人には茶色に見えるけれど自分には緑色に見える目をきらきらさせながら言った。


「うん、お風呂掃除もポテトチップスの袋を開けるのも磁石で砂鉄集めるのも、頼んだら何でもしてくれるの。でもね、お兄ちゃんは磁石で砂鉄集めるのしかやってくれなかった!」

「河童?」


 向日葵はもうずっときょとんとした顔をしている。


「名前はポチって言うんだって。体は緑色でね、頭のお皿はクリーム色なの」

「あはは、もう笑うしかないや」

「あ!向日葵!何で笑うんだよぉ」


 雪緒の母がドアをノックして部屋に入る。


「カルピス持ってきたわよ~」

「わぁ!ありがとうございます!」

「母さん、向日葵にポチのこと話したら笑われた~」

「あらあら、死んだ人のことを笑っちゃいけませんよ」

「ええっ。ポチちゃんはこの家に来てお風呂掃除したりポテトチップスの袋を開けたり磁石で砂鉄を集めたりしてたんじゃないの?!」


 のり塩味のポテトチップスは最高だ。でも河童には食べさせちゃいけなかったみたい。


「河童さん、ポテトチップス食べたら死んじゃったのよねぇ……」


 悲しみで部屋が静かになる。可哀想なポチ。


「でもポチの霊はおれの隣にいるから寂しくはないな~」


 雪緒がポツリと言った。その時、向日葵は雪緒の目が緑色に光ったような気がした。雪緒の母はカルピスの入ったコップを三つ机に置いてリビングに戻って行った。



 それから三年の月日が経った。


 今日は2019年3月26日。ポチと雪緒が出会って3周年の記念日。


「3周年記念のチーズケーキ♪」

「雪緒ちゃん、ご機嫌だねぇ」

「だって明日もケーキ食べれるから!」

「えぇっ。な、何で?」

「だって明日はポチと向日葵が出会って3周年じゃん」


(わたし、ポチちゃんと会ったことないよ)


 明日は2019年3月27日。ポチと向日葵が出会って3周年の記念日。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

河童ポチ 八ツ波ウミエラ @oiwai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

宇宙の蚤の市

★5 SF 完結済 1話