10.やむなく『大輝』は嘘をつく

 ちゅんちゅんと、小鳥のさえずりが聞こえ、暗闇の世界から、光が無尽蔵に広がる。汗ばむ首筋を触り、クーラーが消えていることに気が付く。


 ゆっくり目を開けて、携帯に目を向ける。現在11時30分。今日も良く寝た。


 ふと、昨日のことが少しだけ頭に過る。


「私は私が私だったころより、今の方が楽しいですよ」


 と、貞子が笑いながら言っていた場面を想像し、なんだか恥ずかしくなる。ぶんぶん。と顔を横に振り、その良くわからない感覚をどこかに飛ばす。


「どうしたんですか。涼さん」


 ばっと、急に貞子の顔が視界に入る。通常ならそれにドギマギする展開。なはずだ。でも、正しくは、貞子の髪が俺の顔全体に覆いかぶさり、少しのくすぐったさと共に、視界はまた暗くなった。


 ババっと髪の毛をかき分け、貞子の顔が見えたところで、おはよ。と声をかけた。相も変わらず青白い顔、表情も変えず貞子は挨拶を返す。


 手で貞子の顔をどかしてから、ゆっくり起き上がり、一度大きな伸びをした。


 貞子とメリーが来て、5日がたった。6日目にもなると慣れたもので、彼女達がいてももう動じない。ジッと貞子のことを見ると、昨日の最後、二人が透けた光景がフラッシュバックする。


 ん?と、貞子が視線に気が付いて、首をかしげる。慌てて目線を外し、昨日のことは気のせいだと割り切ると、ふと、メリーがいないことに気が付いた。


「貞子、メリーは?」


 ボーっと夏休みにやっている良くわからない旅番組を見ている彼女は、ああ、とこちらを向いて、こういった。


「公園に行きましたよ」


 公園?と思わず俺は聞き返す。ええ。と貞子は真顔でそう返した。


 近くに公園なんてあったかと、周囲の環境を思い出す。


 だめだ、全く思い浮かばない。確か100m以上離れることは出来ないと二人が言っていたから、思い出す。そう離れた場所ではないかと思うんだが……。


「……私が案内しましょうか?」


 うーん。と頭を捻らせていた俺に、貞子はため息をついてそういった。


「場所わかるのか?」


「夜良く二人で遊びに行ってましたからね」


 驚愕の事実だった。どうやら、幽霊は眠らないらしい。というより、寝る必要がないらしい。だから二人は、夜俺が寝る時間になるとこそこそと家を抜け出し、近くの公園でブランコしたり滑り台したりして遊んでいるらしい。そのうち深夜になると勝手に揺れるブランコで話題になりそう。


「じゃあ頼むよ」


 わかりました。と、貞子は玄関の方に向かう。スウェットとTシャツだけれど、どうやら着替える時間をくれることはなさそうだ。


「待てよ!」


 こちらに見向きもせず向かった貞子を、俺は慌てて追いかけていった。


 外に出ると、相変わらずの日差しと、暑さでやや立ち眩みがおこる。やはり寝起きすぐにこの気候はつらいものがある。


 先に外に出ていた貞子は、あついですね……。とボソッと呟き、手に持っていた麦わら帽子を被ってこちらを振り向いた。


「相変わらず、夏というのはこの暑さと日差しがきついですね。まあでも、それでも夏は楽しいですけど」


 ふふっと笑い、彼女はまた前を向く。なんだか、最近貞子は良く笑うようになった気がする。髪も少し意識しているのかわからないが、その顔が良く見えるようになった。まあでも、その青白い顔はどうにかしてほしいところではあるが。それでも、彼女は良く笑うようになった。それだけで、なんだか嬉しくなった。


 それから徒歩2分もしないうちに、小さな公園についた。俺んちからくねくねと道を曲がりに曲がったところに公園があったため、そりゃわからないわな……。と、心の中でつぶやいた。


 その公園にはブランコが2つと、古びた黄色い滑り台が一つ。後は横長のベンチが一つと、小さな砂場があるだけだった。


きょろきょろと遊んでいるメリーの姿を探すが、どこにもない。そもそも、学生は夏休みではあるが、さすがに週のど真ん中であるだけあって、子供もおらず、ベンチに座っている金髪ロングの少女と、ちょっと明るい茶色の短髪の少年が一人いるだけだった。


 ここにはいないか……と、ため息を一つついたところで、バッと座っている二人の男女に目がいった。


 紛れもなく、メリーとひろの姿が、そこにはあった。


 「いやなんで二人が……!」


 と、ベンチの距離を詰めようとしたところで、ぐっと貞子に口を塞がれる。んんっ!?と、貞子の方を見ようとするが、完全に後ろに回りこまれてしまって、姿が見えない。ていうか息が出来ない。ていうか苦しい。


 んんーっ!と貞子の腕をタップして、限界であることを伝える。


 あっ。と貞子は慌てて手を離し、はーっはーっと酸素を急いで取り込む俺に、つい癖で……と、困ったように謝った。


 そんな癖あってたまるか。


「ちょっと様子を見ましょう。しばらくしたら私が出ますので、涼さんはどこかに隠れてください」


「えっ、俺の出番なし?」


「なしです」


 なしだった。


 俺たちはベンチの後ろにある、大きな木の後ろに隠れた。周りの音が小さいだけあって、少量ではあるが、確かに、二人の会話が耳に入る。


「……俺ってほら、友達多いだろ?いや知らないか……多いんだよ。涼や夏葉のほかにも、大学にも高校にもたくさんいる」


「自慢?」


 はははと、メリーの笑い声が聞こえる。いやいや違うって!とひろ、もとい佐々木大輝は、そう否定した。


 佐々木大輝は友人が多い。夏も何回遊びに言っていたことだろう。大輝が所属しているバドミントンサークルの飲み会にも何度か行った。というか、強制的に連れていかれたことがあるが、彼は先輩後輩、もちろん同学年からも慕われているのがもの凄く伝わった。


 それに、彼は自分のサークル以外の飲み会や、お花見等も参加していることが、SNSでも良くわかる。


 彼は友人が多いのだ。仲が良い人たちも多い。だからこそ、この後、彼が言った言葉を、理解するのに時間がかかった。


「でも、俺に本当の友達はいないんじゃないかな……と、思うときがあるんだ」


 なにを贅沢なことを言ってるんだ?という思いが強かった。何度も言うが、彼は友人が多いのだ。自分の意見をしっかり言えて、協調性も高い、提案なんかも俺たちが思いつかない突発的なことをいきなり言うときもあるけれど、それを嫌がる人はいない。自分の意思もしっかりとあり、嫌なことにはノーと言える日本人だった。


 そんな彼から、本当の友達がいない。なんて言葉が出るのだから。確かな疑問と呆れが、俺の頭をかけめぐる。


 しばらく返答に困っていたのか、黙っていたメリーが、口を開く。


「涼から聞いたけど、ひろって友達が多いんでしょ?良く遊びに行くし行ってることも多いって聞いたけど」


 まっとうな疑問だった。まるで俺の代弁をしてくれるようだ。そんなメリーと俺の疑問に、ひろはははっ。確かにそう見えるかもな。と、小さく笑った。


「……例えばさ、大人数が集まる遊びに誘われることはあっても、3、4人の集まりでは呼ばれない。無論、二人で遊ぶなんて呼ばれたことがない。そんな人間が大勢いる俺は、友達が多いって言えるのかなーって……ははっ」


 少し照れくさそうに、彼は笑った。


 確かに、彼が誰かと二人で遊ぶなんて俺以外聞かない。しかも、いつも彼からしつこく誘われてしぶしぶついて行っている。俺から誘ったことは一度もない。だけど、ひろといる時間が、つまらないと思ったことは一度もなかった。


「まあ、悩みって言う程大きなことじゃないけどさ、それでも、ふと思うときがあるんだ。一人の家にいて、グループのラインが動く度に、なんだか寂しくなる時があるってだけ!」


 黙っているメリーに対して、慌ててははっと笑いごまかす。


「……僕もね、時々思うんだ。僕には友達がいない。昔遊んでいた友達とは全く連絡を取ることがなくなったし」


 まあ殺したからな。


「だから、たとえ大人数の時でしか呼ばれなくても、それはしっかり友達なんだと思うよ」


 まあそうかな~。と、ひろは頭を悩ませる。


「しかも君には涼もいるじゃん!夏葉もいる!」


 きゃはは。と、メリーは無邪気に笑う。確実に思い出したかのように言ったろうお前。


「涼も結構無理やり誘ったりしてるからなあ、むしろ嫌われる感じもするし。夏葉に限ってはその……なんていうか……友達じゃないっていうか」


 え……?というメリーの声に、ひろは慌てて否定する。


「いや違うんだよ!そういう意味じゃなくて!その、なんていうか……好き……だから、さ」


「「え~!!」」


 という声が、メリーと、俺の後方から公園中に響いた。


 声が響いたと同時に、バッと、俺は木の陰に隠れる。


「その声……貞子?」


 メリーがこちらを向いて尋ねる。貞子ははあ、と静かにため息をついて、絶対に動くなよ。と、アイコンタクトを俺に取る。はいはい。と俺を両手を挙げて下を向いた。


「……こんにちは、ひろさん」


 少し気まずそうに、貞子は二人の前に姿を現した。

 えっえっ?聞いてた?どこから?えっ?と声を上げて困惑しているだろうひろに対して彼女は全部です。と、そう答えていた。


「え~~~~~~~~~~~~~~!」


 今度はひろの声が公園中に響き渡る。貞子が二人が俺の方を見ないよう、二人の前へと移動したのを横目に確認したところで、俺はゆっくりと身を乗り出した。

 メリーは何故だかきょろきょろと辺りを見渡した後、二人にちょっと……と一声置いてから、まっすぐ前に歩き出す。


「あれ?もうここから離れて大丈夫なの?」


「うん!もう貞子が来たからそのゲーム終了!」


 ふーん。と首を傾げるひろをよそに、20歩程進んだところで、彼女はピタリと止まり、またきょろきょろと辺りを見渡す。

 そのあと、彼女はにやりと笑って、ベンチまで戻ろうとしたところで、俺はまた木陰に隠れた。


「……それで、先ほどの話ですけど」


 と、貞子が話を進めようとしたときに、おそるおそる木から顔を出すと、しっかりとメリーと目が合った。


 やっちまった。


目が合うと、メリーはこちらを向いたまま、にやりと笑う。

 俺は慌てて木の陰に隠れて、ドキドキと脈打つ心臓を両手で押さえた。


「ひろさんは夏葉さんのことが好き。これに間違いはないですね?」


 はーはーと、メリーと目があったことに対する緊張感から逃れるために、ゆっくりと深呼吸をしている俺を他所に、貞子は話を進める。


「いや……まあ、そうだけど」


 ひろの照れているような声が聞こえる。俺がそのことを知ったのは、1年も前のことだった。

 当時、同じ講義を受けていた夏葉をひろに紹介したところで、彼は一目ぼれした……と呟いた。

 彼は人付き合いが上手く、すぐに夏葉とも仲良くなったが、それでも、彼女のことは好きで居続けている。

 そんな彼に、去年の冬頃、改めて夏葉が好きだと伝えられ、俺は正式にその事実を知った。

 去年のクリスマスは、色々なところから声が掛かっていたにも関わらず、彼はそれをすべて断り、夏葉にデートを申し込んだところまで行ったのだ。まあ、最後の最後でそのドキドキ感に負けてしまい、ひろは俺の家に上がり込み土下座でデートの付き添いをしてくれ!と頼んで来たのだが。

 最初は断ったが、あまりにもしつこいし、俺にも予定なんてなかったから、渋々オーケーした挙句、彼が用意したプレゼントは、二人からだと付け足され、良い友達関係として、去年は幕を閉じた。


「じゃあ告白しちゃいなよ!今!今すぐ!思い立ったら吉日って言うしね!」


 ひろの返答に対して、メリーはここぞとばかりにひろの背中を押す。まるで後ろを取ったお相撲さんの如く、的確に、そして大胆にメリーは彼の背中を押し続けた。

 それもそのはず、この張った惚れた物語は、ハッピーエンドでしか幕を閉じないからだ。それを、メリーも貞子も、そして俺も知っている。

 だから、背中を押すこと以外あり得ない。あんなに渋っていた夏葉も、流石に好きな相手から告白されたら、二つ返事でオーケーするに決まっているのだから。

 それでも、ひろの……彼の答えは、ノーだった。


 なんで!?とメリーは驚きの声を上げた。


「そりゃ告白って勇気がいるし……その……」


 もじもじと、ひろはメリーの問いに答える。こんなひろは見たことがない。いつもの彼は、元気で、自分の意見を曲げない、そんな性格であるのに対して、今はその辺のヘタレた男子大学生そのものであった。


 メリーはそんな彼を見て我慢の限界だったのか、夏葉も!と声を出したところで、貞子に制止される。


「一番の理由は、先ほどの友達に関係するのでしょうか」


 うっ、とひろは核心を突かれたような声を出して、ぽりぽりと頬を掻いた。


「……別にさ、誰かと二人で遊びに誘われないとか、そんなことは正直どうでも良かったんだ。それでもみんなで遊べるんだから、そいつらを友達と思いたい。でも……」


 彼は神妙な顔つきで、続ける。


「みんなは俺が明るくて元気でテンションの高い奴だと思ってる。多分涼も夏葉もそう思ってる。それは俺がそういうキャラでやってきたからなんだけど。でも、本当の俺は、こうやって友達がいるのかいないのか。夏葉のことが好きだけどびびって夏葉のことが好きじゃないふりをしちゃうような、肝っ玉の小さい、なよなよしい男なんだよ」


 だから俺は皆に嘘をついて、わざと明るいように、どんなことでも傷ついていない振りをしているんだ。それが皆が求めている俺だから。と、彼は寂しそうに、そう続けた。

 確かに。と俺はひろのことを思い出す。佐々木 大輝という人間は、コミュニケーション能力が人よりも何倍も高く、明るく、いじられても平気で笑いに変える。そんな男だった。

 常に自分は悩みなんてないような顔をして、彼は友人の悩みを聞いたときはそれを解決するわけでもなく、持ち前の明るさで、友人を笑わせてしまう。

 それに甘えて、友人は……俺たちは彼にそういう役割を強制させてしまっていたのかもしれない。


 だから、いつしか、俺たちの態度が、彼を噓へと導いた。

 だから、やむなく佐々木 大輝は嘘をつくのだ。


「そんな自分を変えたい。って思った時もあった。無理やりテンションを上げるんじゃなくて、いつものテンションで、大学一日過ごしたことがあったよ。大丈夫?なんかあったか?って10回以上色々な奴に聞かれて、思わず笑っちゃったよ。そこで俺は思い知った。俺に求められているキャラ付けをさ。だから……」


 そこから、彼は言葉を止めた。だから、嘘をついているのだと。彼は言いたかったのだろうか。それとも、だから、本当の友達ってやつがいないのだと、彼は言いたかったのだろうか。

 正解はわからない。でも、確かに、ひろは寂しそうに話していた。


 なんだか煮え切らなくなって、俺は木陰から飛び出そうとしたところで、メリーが目で俺を制し、直ぐに口を開く。


「だから本当の自分を見せて、がっかりされるのが怖いってこと?だから、夏葉に愛想をつかれてしまうのが怖いってこと?甘ったれ坊やかよ!!」


 やれやれ、と、メリーは呆れたように言葉をつづけた。


「じゃあなに?私たちと会った時や、涼と話していたとき、一緒に買いものに行ったとき、海に行ったとき。そのすべてに、ひろの本心がなかったてこと?その全てが、私たちや涼たちが求めていたキャラ付けだとでも思ってたの?」


「いやそういうわけじゃ……」


「そういうことだよ!あれが全て演技だとしたら、貞子もびっくりの名俳優として世に知らしめたほうがいい!どうしてあれも自分、これも自分って考えられないのさ!」


 激高……というわけでもないが、メリーの怒りが、言葉に乗って俺に伝わる。それでも、彼女が夏葉と対峙したときと比べると、かなり言葉に気を使っているのが、感じ取れた。


「じゃあ私はなに!?どれが正解!?好きだった人に裏切られて絶望に明け暮れていた私が本物だとしたら、今の僕は偽物ってわけ!?」


 そんなに選んでないかもしれない……殆ど̪私念が混ざっている。何はともあれ、いつの間にか慰める側と慰められる側が変わっていた。ギャーギャーと喚ぎ一人称まで変わってしまったメリーと、それを宥めるひろ。そして傍観している貞子と俺。


「だから!いいじゃん元気な君も!今の君も!どっちも君なんだから!今の自分を見せて離れて行っちゃうような奴はいつか離れるに決まってる。そんな奴らのことを気にしてなんになるって言うんだよ!」


 メリーは止まらない。ひろが嘘だと言い続けているそのキャラ付けも、本来の自分だと言うその性格も、彼が佐々木大輝であることに、なんの変わりはないのだ。

 でも……と彼女は打って変わって沈黙を浮かべる。その言葉を掬うように、今度は貞子が口を開いた。


「涼さんや夏葉さんは、そんなひろさんのことを嫌だと言ったことはあるのでしょうか」

バッと、ひろは貞子の方を見つめた。


「そして、そんな貴方を、あの二人は認めてくれないだろうと。そう思っているのでしょうか」


 ひろは少し考えるそぶりを見せて、顔を横に振る。


「いや、あいつらはそんな奴らじゃない。そう、信じたい」


「あなたは勝手に友達が思っているだろうキャラを作り上げ、それを嘘の自分だと思い込んでいた」


「だからひろはやむなく嘘をついてたわけじゃないんだよ!一つ言わせてもらうけどね、勝手に被害者面すんな!」


 手厳しい発言だった。ひろも思わずええ……と声を出してしまっていた。完全にいい話で締めくくろうとしていた空気に対して、メリーの叱咤。貞子も言葉を取られた上に思ってもみないことを言われて目をきょとんとさせていた。


「全く!真面目に聞いて損した!ひろがやることはただ一つ!」


 ビシッと!彼女は人差し指を出し、ひろにこう告げた。


「夏葉をデートに誘うこと!今日の午後!」


「えええ!?」


 と、彼は突拍子のない発言に、驚きを隠せない。それでも、メリーはそれを無視して、ひろに携帯を出せと促し、夏葉へと電話を掛ける。

 暗証番号どうやって解いたの……?とひろが聞いていたが、それを無視し、呼び出し音が鳴ったところで、無理やりひろに携帯を持たせた。


「あっ、もしもし、夏葉?あの~なんていうか、その~……」


 あまりの唐突な出来事に、彼の言葉が止まる。ちらちらとメリーと貞子の顔を見ては、彼はあの~と言葉を濁らせていた。


 そして、彼はとうとう夏葉をデートに誘うことに成功したわけだ。


 彼は今まで嘘をついていた。そう、自分自身に思い込ませていた。

 やむなく彼は嘘をつく。でもそれは、嘘ではないと。テンションの高い自分も、なよなよして悩みの多い自分も、それはどっちも自分であるのだと。

 それを証明するために、そして、それを受けいれてくれる人だと信じて、夏葉と大輝は、デートするのだ。


 よっしゃ!と電話が切れたところで、彼女達と大輝は解散する。ひろの姿が見えなくなったところで、メリーは俺の元へ駆け寄り、


「盗み聞きなんてサイテー!」


 と、俺をけなした後に、よっし!午後のデートに向けて作戦会議だ!と意気込んで、家へと戻っていった。


 ついて行く気満々かよ。

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Time Fleeting Summer くろわ @yumemameta

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