異界飼育日記

二川よひら

プロローグ

 玄関ドアを開けると、湿った風と共に、雨音が流れ込んでいた。

 いつの間にか降り出していたらしい。玄関に立つ配達員さんの服にも、点々と雨の跡がついてしまっていた。

 となると、荷物受け取りにこの時間を指定したのは、悪かったかもな。

 慌ててボールペンを取り出して、乱暴に受け取りサインをした。

 段ボールを渡した途端、挨拶もそこそこ足早に遠ざかる足音を見送り、戸を閉める。

 まあ仕方がない。この荷物だけは楽しみにしていて、自由時間のある今、確実に受け取りたかったんだ。

 段ボールについた水滴を撫でる。ざらりと表面に水の線が伸びた。

 よし、中までしみていない。

 安心して、部屋の中に運び込む。

 ミカン箱くらいの大きさ。ずっしりとした感触。通販の買い物にこれだけ浪漫を掻き立てられたのは久しぶりだ。

 用意していた机上のスペースに箱を置く。ひと思いに梱包を引っぺがして中を覗き込んだ。

 段ボールのほぼ中心に、緩衝材に包まれた筒状の透明容器。その周りに、ビニールに細々と小分けされた備品らしきものがみっしり詰まっていた。

 付属物が思った以上に多い。お手柔らかにお願いしたいんだけど。

 ちょっと引きながら、箱の隅に挟まるように押し込んであった紙片を引っこ抜いた。

 これが取り扱い説明書のようだ。質の悪い灰色の紙に、ぼけたプリントが手作り感ありありの表紙には、素っ気ない文字が張り付いていた。


 初心者向け異界飼育キットA〜ダンジョンセット〜


 そう、私はダンジョンを飼ってみることにしたんだ。

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