第15話 深夜のネコ 2

 貴紀がベッドを離れた事に気が付いたティアは、目を瞑ったまま気配だけで一連の流れを把握していた。


 貴紀は舐め過ぎていた。ネコの気配察知能力は、人間の遥か上の次元にあることを。

 完全な熟睡をする事は少ない、という事を正しく理解していなかった。


「ご主人……。ティアのこと嫌いなのかなぁ……」


 ティアの体が成長してから、貴紀はティアと共に床に就くことを避けるようになった。最初は何度も抵抗していたティアだったが、強引に引き離す貴紀を見て仕方なく諦めた。

 ティアは悲しくて、その晩は眠る事なく泣き明かしたのを覚えている。


「でも、ご主人はいつもティアに優しいから……」


 だから嫌われてはいない。それだけは何ら理由もなく断言できる。だからこそティアは、貴紀が離れていく理由が分からない。


「ティア……小さい方が良かった? ご主人は……もしかして小さいティアの方が好きだったのかなぁ」


 テレビで言っていた。小さい女の子が大好きな男がいる事を。それを人間は『ろりこん』と呼んでいた。


(ご主人も……ろりこん? なのかなぁ……)


 有らぬ疑いかけられた当の本人は、疲れていたのか完全に熟睡している。


「ひっく……こ、しゅ……ひんぅ……」


 避けられているようで悲しい。

 ティアよりも、何処かの知らない雌の方が大切なのか。──そんな風に考えてしまい、ティアは何度も啜り泣く。


「ごしゅ、じん……」


 怒られるかも知れない。

 そう思っても、ティアは静かに貴紀の布団に侵入する。その温もりを感じて、起きないように体を擦り付ける。


「ご主人……。ご主人はティアのなんだから……何処にも行っちゃイヤァ……」


 そうして貴紀を抱き締めて、ティアは瞼をゆっくりと閉じた。

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