第39話:アリスの幸福

 アース王国で起きた出来事は、風の噂となり人々の「笑いの種」として伝わって行く。


 ヴァカス王子が魅了の魔法に操られ魔法師として優秀なアリスフィーヌ嬢を断罪したが、実際は何も罪を犯しておらず、罪作りな事をして居たのはヴァカス。


 大まかな事柄だけが吟遊詩人たちによって伝えられて居た。


「はぁ・・・どうしてヴァカスは、そこまで脳みそが無い状態におちいってしまったのだろうな」


 暴走してしまった事を猛省した王が職務復帰して、後処理に追われて溜息を吐き出す。


「・・・ご自分の事を棚に上げますの?」


「うっ」


 見張り・・・と言う訳では無いが、1度は暴走してしまった王。


 その監視を王妃が行って居る様は「残念」過ぎる。


 レンシルは次期王としての学びに拍車を掛け、猛勉強の真っ最中だ。


 彼の勉強量はすさまじく、他国のたちに引けを取らないくらいにまで学ぶつもりなのだ。


「アリスフィーヌ嬢が無事に助け出されたと聞いては居ても、無事な姿を見たいですわね」


 無理な願いでは有る。


 アイザックから婚約式や結婚式には呼ばないと断言され、彼女の姿を見る事すら難しい状態になって居る。


 それもこれもヴァカスが「やらかし」王が「やらかした」からでは有る。


【アース国の王妃よ。そなた個人ならば向かえるのではないかな?】


 そう言いながら姿を現したのは風の精霊王。


 風色の衣を纏い空に溶け込みそうな髪色をなびかせ、契約者以外に姿を見せる事が無い王が王妃に助言する。


「わたくし個人・・・ですか?風の精霊王様」


【国として向かう事は叶わぬだろうが、個人までは禁じておらぬで有ろう?我がの無事は保障できるが姿を確認したい、と望むならば個人で向かえば良い】


 確かに国としては招待しないと断言されてしまって居るが、メイフィスが来る事拒まれて居ない。


 「個人で向かいたいと思いますわ。精霊王様、ご指摘、感謝いたしますわ」


 嬉しそうに自室へと戻り始める王妃。


 監視されて居たで有ろう王ギルヴィアは、呆気に取られ暫くは動けなかった。



 * * * *


 獣人国と人族の国境。マシューの邸宅には女性陣が集まりアリスを着飾って居た。


「やはりアリスフィーヌ様は桜色が似合いますわ!」


「ええ!とっても美しく愛らしいですものね。これでしたらウィル様が惚れ直してしまいますわ」


 マギーとアメリアがアリスのドレス姿を見て嬉しそうにはしゃぐ。


 侍女でも無い彼女たちが、こぞってアリスの髪飾りや髪型を整えて行くものだから、雇われた侍女は手を出したくても出せない状態で、途方に暮れて居る。


「これこれ、マギー様にアメリア様、侍女たちの仕事を取らんでくれるかね?」


 マシューが扉の外から声を掛け、ようやく着せ替え人形のようにされて居たアリスが解放された。


「「ごめんなさいねアリスフィーヌ様」」


「マギー様、アメリア様、お二方の気持ちは嬉しいですわ。でもお爺様が言う通り、侍女の仕事を取っては駄目ですわ」


 やんわりとダメ出しをするアリスは、本当に幸せそうだ。


 彼女が辛い目に合って居た頃と比べられぬ程の幸福・・・ドレスを整えられ髪を整えられ全てが整うと扉が開かれマシューとルーカスの目にも美しく着飾ったアリスを目にする事となる

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