俺の弟の小説が面白いわけがない

不二本キヨナリ

俺の弟の小説が面白いわけがない

 ある日、クソったれの弟が紙の束を差しだしながらこういってきた。

「兄ちゃん、小説を書いたから読んでくれよ」

 こいつはなにをいっているんだ? おまえには、小説を書くまえに書くべきものがたくさんあるだろう。履歴書とか、ちかぢか取得するとうそぶいていた資格の試験の申込書とか、「去年の11月に借りた10万円、年内に返済するという約束でしたが、もう少し待ってもらえませんか?」というLINEとかよ。もう3月だぞ。金を貸してからこっち、一度も連絡をよこしてねえじゃねえか。

 まあ、いい。書いた小説を誰かに読んでもらって、感想をもらいたいという気持ちはよくわかる。面白いわけがねえが、読んでやるか……

 ……

 …………

 ………………

 な、なんてこった。

 面白えじゃねえか!? 俺の小説より面白いのでは!?

 ばかな! こんなことがあっていいはずがない!

 弟は子どものころからいまに至るまで文学や芸術とは無縁であったはず! いまだかつて、創作したこととてないはずだ! もしこの男がいままでに創ったものがあるとしたら、それは隠し子くらいのものだろう。高校生のころ、「屋上につづく階段の踊り場でヤっていたら、先生にバレそうになって危なかった」とか抜かしていたようなやつだからな。まるでエロ漫画……

 ……そうか、フィクションのような経験をしているから、面白いフィクションを書くことができたのか?

 そういえば、こいつはパチンコにハマり、借金を作って両親に泣きついたことがあった。それも一度ではない(しかも二度目は、借金があることを隠していた――というか、両親に対し「借金はない」と嘘を吐いていた)。こういうクズは、小説や漫画でしばしば見かける。つまり、弟はフィクション……?

 だが、この小説はファンタジーだ。官能小説でもギャンブル小説でもない。

 では何故、こんなにも面白い!? 合理的理由を見いだせない! こじつけることさえできない! 自分を納得させられない! 

 う、嘘だ……俺の弟の小説が面白いわけがない! 俺の小説より面白いわけが……!


 そこで目が覚めた。

 すべては夢だったのだ。

 よかった……兄よりすぐれた弟なぞ存在しなかったんだ……

 ……待てよ?

 夢だったということは、弟が書いたあのクソ面白い小説は、実際俺の小説なのでは?

 こうしちゃいられねえ! さっそくプロットに起こさなくては!

 ……

 …………

 ………………

 お、思いだせない………………

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