第15話:ある日の平日。そして、エリカの歓迎会。

エリカが鈴ヶ丘に転入してから早くも2~3日が過ぎたいつもの朝。今日は金曜日。

ここは、飛鳥の部屋。

飛鳥はまだ眠っている。と、そこへ、飛鳥のLINEに電話の着信音が鳴り響く。


「う、う~ん…だぁれ?こんな朝早ように…。」


と、寝ぼけ眼で電話を取ると、響香からの電話だった。


「やほー、あっすか!おっはー!」

「おっはー、て響香ちゃんかぁ…。今、何時よぉ~?」

「もう7時前やで?」

「えぇ?!」


そこに、飛鳥の部屋のドアをノックする音が聞こえたので、飛鳥が、「どうぞ~。」

と言って、外に居た者を部屋に招き入れると、エリカだった。


「え?エリカ、さん?!」

「おはよー、飛鳥ちゃん。」

「あ、お、おはようございます。」


「あすか~~ぁ?」


「お~~い?」


「あ、エリカさん、ちょっと待ってて下さいね。」

「あ、もしもし?響香ちゃん?ゴメン、私も今からガッコ行く準備するから、

その時響香ちゃんに、

エリカさん、改めて紹介するわ。電停行く前にウチのピンポン鳴らしてぇな。」

「あ、う、うん。」

「ほななー。」

「うん。」


そう言って飛鳥は無理矢理電話を切った。


「あ、エリカさん、準備早いんですね。」

「だってまだ転入したてだもん。毎日があっと言う間よ。」

「そっか、それは良かったです。って、私も早く準備しなきゃ。」

「何をそんなに急いでいるの?」

「えと、さっき電話してた相手がもうすぐ呼びに来るんで。」


と、飛鳥は、エリカと会話しながらパジャマから制服に着替えていた。


「エリカさん、響香ちゃんって覚えてます?」

「あぁ、あのカラオケの時に居た、藤坂さんファンの女の子?」

「えぇ。」

「あの子がどうかしたの?」

「その子、ここから家近いんです。で、今は高校は違いますが、小学校からの同級生で、一番の幼馴染なんです。」

「そうなんだ。飛鳥さんの一番のお友だちは真琴さんかと思ってたけど。」

「あ、もちろん、まこちゃんもですよ。

まこちゃんは、中学からの、ですから、付き合いの長さでは、響香ちゃんのが長いです。」

「で、いずれお2人が家で生活してることが分かるんで、この前の放課後、響香ちゃんに、お2人が家で生活してる、って伝えておいたんです。

もちろん、兄妹設定も外して、カップル、って言うこともちゃんと伝えました。」

「そしたら?」

「めっちゃ驚いてました。」

「そうでしょうね。」


と、そこへ、また飛鳥の部屋のドアをノックする音が。


「はぁい。」

「お嬢様、響香様が来られましたが。」

「えぇー、もう来たの?!早過ぎやって!!」

「いかがいたしましょうか?」

「んー、玄関に入れてあげて、もちっと待っててもらって?」

「かしこまりました。」


それから約10分。ようやく飛鳥の準備が整い、飛鳥とエリカの2人が階段から降りて来る姿が見えると、響香が一言。


「飛鳥っ!おっそ~い!」

「ごめんごめん、響香ちゃん!ってか、響香ちゃんが早過ぎるんよ!」

「そっかぁ?って、この人が例の?」

「あ、あぁ、うん、ご紹介するね、

今、家で一緒に生活してる、私らより1コ上の先輩、青島エリカさん。」

「ども、初めまして~!藍原響香と申します~。一応こいつの幼馴染させてもらってます。」

「一応、ってなんやねん。」

「あ、ご丁寧にありがとうございます、静岡県掛川市から飛鳥ちゃんたちと同じ、鈴ヶ丘学院に転入して来た、青島エリカと申します。

カラオケ以来ですね。改めてこれから、よろしくお願いしますね。」

「お、覚えててくれたんですか?!」

「はい!もちろん。」

「ほな響香ちゃん・エリカさん、ガッコ行こか。」

「そうね。」

「そやな。」

「じゃあ翠さん、行って来ます。」

「行ってらっしゃいませ。」


そう言って3人は家を出て、いつもの姫松駅の停留所までゆっくり歩いて行った。


「飛鳥さん、藤坂さんとお付き合いされてたんですってね!こないだ、飛鳥から聞いてビックリでした。」

「隠しててごめんね。あの時はまさか私が、大阪で、飛鳥さんたちの家で一緒に生活するだなんて、これっぽっちも思ってなかったから。」

「そうでしょうねー。」


などと話しているうちに3人は電停に到着した。すると既に真琴が待っていた。


「あ、来た来た。みんな、遅いでー。」

「あ、まこちゃん、おはー。」

「おはー、ちゃうわ。こっちは朝のように響香から叩き起こされてやで?

それで準備して待ってたんやから。」

「ごめんごめん。今度スタバでも奢るわ。」

「それならよぉっし。」

「あはははは。」

「ん?どうしたんですか?エリカさん。」

「い、いえ、やっぱ飛鳥さんと真琴さんの会話聞いてたら面白いな、って。」

「そうですか?あ、電車来たで?」


そして4人は、満員の電車に乗っていき、乗客が全員乗り終わったらドアが閉まり、天王寺駅前に向かって発車して行った。


その車内…。


「なぁなぁ、飛鳥?」

「んー?なに?響香ちゃん。」

「こないだ、真琴から聞いたけどな、千春先輩とのデート、あさっての日曜やて?」

「うん、そや?」

「どうや?デート前の心境は。」

「めちゃドキドキしてるわ。」

「そうやろうなー。あんたにしたら、完全に2人っきりのデートって、人生初やもんなー。」

「ねね、響香さん?」

「なんでしょう?エリカさん?」

「飛鳥さん、デートするんですか?」

「えぇ、あさっての日曜に。」

「あぁ、だから神戸のガイドブック持ってたんだぁ~。」

「そ、そうですー。」

「なな、今日の放課後さ、エリカさん歓迎会を兼ねてな、いつものスタバで茶ぁせえへん?」

「あ、それええなぁ。」

「え?いいんですの?」

「はい!全然!」


と、そこへ、「次は、阿倍野・阿倍野」と言う、自動アナウンスが流れ、電車は阿倍野駅に着いた。


「ほなあとでまた、飛鳥か真琴にLINEするわな、ほなねー。」

「ほなー。」


そう言って響香は電車を降りて行き、3人を乗せた電車は、終点・天王寺駅前に向かう。

そして、駅に着いた電車から降りた3人は、いつもの通学路を歩き、学校へ向かう。


「エリカさん。」

「はい?」

「特進クラスの授業って難しいですか?」

「そうね、思ったより追い付いてくのが大変ね。」

「そっかー。」


などと話している間にも3人は学校へ到着し、それぞれの靴箱に行き、昇降口で、「じゃあ私は2年の方へ行くから。」

と言って、エリカは、飛鳥たちと別れた。


ここは、2-F。エリカのクラス。


「あ、青島さん、おはー!」

「皆さん、おはようございます。」

「なぁなぁ、青島さん?!」

「は、はい。」

「さっきな、ちん電でな、あなたの姿、見かけてん。」

「ち、ちん電って?」

「あぁ、上町線な。」

「あぁー…。」

「何か、違うガッコの女子1人と、ウチの1年の女の子2人と一緒やったやろ?」

「あら、見られてたのね…。」


と言って来たのは、先日、転入初日に学食へ一緒に行ったうちの一人、追川文香だった。


「えと、追川さんも上町線通学ですの?」

「はい、そうですよ。」

「そうなんだ…。」

「で、あの子たちとの関係は?」

「えーと、実は私、あの中の1人の子のお家に住まわせて頂いてるんです。」

「えぇ?!そ、そうなの?」

「はい。」

「親戚かなんか?」

「んー…知り合いなの。」

「そうなんだ。だから姫松から乗って来たのね。」

「えぇ。」


と、そこへ、ホームルームが始まる予鈴が鳴り、2-Fの担任、尾之上が入って来た。


「はーいみんなー、席着いてぇ~。」


その声に生徒たちはみな自分の席に着いた。


「今日は、もうすぐ行われる春の文化祭のお知らせです。」


と、尾之上が言うと、室内がざわめき始めた。


「そう、もうそんな季節なんやなー。」

「なぁなぁ、模擬店、何したい?」


「ちょちょっとみんな、静かにっ!」


「はーい。」


「今日は金曜なので、5時限目はロングホームルームですので、その時に、うちのクラスの出し物を決めたいと思います。」

「出し物なぁ~…。」

「それまでに皆さんそれぞれ、何をしたいか考えておくように。」

「はぁい。」

「じゃあこれで朝のHRは終わりです。」


その頃、飛鳥のクラスでもHRが終わり、文化祭の出し物のことでクラス中がざわついていた。


「なぁなぁ、まこちゃん。文化祭やて。」

「そやなー。」


と、そこへ、クラスメイトの一人が、2人に話しかけて来た。


「なぁなぁ、楠木さん?」

「はーい。」

「あなた、文化祭でトークショーするんやろ?」

「え、えぇ、そうゆうことになってるみたいで。」

「そっかー、私、楽しみにしてるわねー。」

「あ、俺も!」

「私も!」

「ウチもっ!」


などと、クラスの中が一斉に楠木コールで沸いた。


その日の昼休み…。ここは、生徒会室。

そして、生徒会会長以下、役員たち8名が、お昼を食べながら、緊急ミーティングをしていた。


「はーい、みんなー。聞いてくれるかしら?」


と、切り出したのは、生徒会長であり、吹奏楽部部長の、新田朱里にったじゅりだった。


「みんな、今日のホームルームで、各担任から文化祭のことは既に聞いてるわね?」

「はーい。」

「で、私の任期ももうすぐ終わりだし、任期中最後の文化祭になるから、盛大に盛り上げたいの。

でね、今年は何と言っても1年に、スーパーモデルの楠木真琴さんが居ることだし、

既にファンクラブではトークショーなんかも考えてるみたいだけど、それ以外にやりたいこと、何かない?」


と、役員たちに聞くと、男子生徒が、手を上げた。


「はいはい!会長っ!」

「なんでしょう?水川君みずかわくん。」

「今年こそはあれ、やりたいです!」

「あれ?」


と言われ、女子役員たちはみな書類チェックなどをしていた動きを止めて、ビクっとなった。

で、水川が言い出したのは…。


「もちろん、"ミス・鈴ヶ丘コンテスト"っ!!もち、水着審査ありでっ!」


「反対反対反対っ!ぜぇ~~~ったい反対っ!!」


と、女子役員全員から反対コールが起こった。


「なぁんでさー。楠木真琴さんがおるんやで?それにウチのガッコ、結構美人多いから、ぜーったい受ける思うんやけどなー。」


ちなみに生徒会役員8人の構成は、生徒会長が女性で、男性5人・女性2人で構成されている。

その為、男性役員が結託して全員手を挙げれば、多数決でコンテストは可決されてしまう。


「じゃ、じゃあ、一応多数決取るけど、水着審査付きミス・鈴ヶ丘コンテストをしたいと思っている人、手を挙げて?」


と、会長の新田が言うと、男性役員全員がもちろん手を挙げた。


「はーい、じゃあこの企画は可決されましたー。」

「かいちょぉ~!こんなん全然民主主義じゃないですやんかー。」

「何が?」

「男子役員のが多いの分かってるんですから、可決されるに決まってるやないですかー。」

「まぁそうやけど、この企画は昔からの文化祭でもいつも案が挙がってるけど、

何故かボツ企画になっちゃうのよね。一応、学院長先生に、各クラスの出し物やイベントが決まったら、私が書類を提出して、

院長のハンコをもらわないといけないから、まぁ、ミスコンは院長次第、ってトコね。」

「そっかー。」


ところ変わって飛鳥たちのクラスでは、クラス委員の藤谷真夜ふじたにまよが、クラスメイトたちに指揮を執っていた。


「はーい、みんなー。席着いてくださーい。」


と、一声掛けると、飛鳥たちを含めたクラスメイトたちは全員席に着いた。

窓辺に置かれている教員席には、毬茂の姿もあった。


「はーい。今、昼休みだけど、ロングホームルームの前に軽く文化祭の出し物、決めたいと思いまーす。」


黒板の方を向かって書記役をしているのはクラスメイトの館林イチカだった。


「みんな、今回の文化祭、私たちにとっても初めての文化祭になるから、みんなで協力して、良い出し物を作り上げましょう!」


「そうやねー。なんと言ってもウチのクラスには、真琴さんがおるんやし!」


「そ、そんな、私がるから、とか関係無いですやん。」と、恥ずかしそうにする真琴。


「みんな、何がしたいか手を挙げてくーださーい。」


そこに、男子クラスメイトの一人が、手を挙げた。


「はいはいはーい!」

「はいっ!堀川君っ!」

「はーい。僕、メイドカフェがいいとおもいまーす。」


と、堀川が言うと、女子たちが一斉に、「えぇ~~??!!」と、叫び、堀川の方を向いた。


「何言うとんねん!このヲタっ!!」

「そやそや、ウチらはアニメキャラちゃうんやで?!」

「そんなん言うてへんやんか!」

「そうやそうや!メイドカフェは男のロマンやっ!」


などと、男子チームと女子チームで言い合っている光景を見ていた担任の毬茂が、一言。


「良いわネェ~~…。1度しか無い15才の青春時代。」

「は?せんせ?どうしたんですか?」

「えぇえぇ!どうせ私は三十路女ですわよっ!異性と付き合ったこともございません!あなたたちみたいな未来もありませんからー!!えーん!!」

「ちょ、せ、せんせ??!!」


「あぁあ、まぁたまりもんのヒステリーが始まったよ。」


と、一人の男子生徒が言うと、そのワードに反応した毬茂が我に返り、


「そこっ!まりもん言うなっ!」と、その生徒目掛けて白チョークを投げ付け、それが額に命中し、クラス中に笑いが起こった。


「な、せんせ、何すんですか!!」

「あはは!!」


「で、どうするの?他に意見が無ければメイドカフェになっちゃうけど?」


「あ、えと…。」


「はいっ!悠生さん!」


「あの、お芝居なんてどうでしょうか?」


「お芝居?例えばどんな?」


「えと、男女逆転ロミジュリとか…。」


「だ、男女逆転??それって、男子がジュリエットをやって、女子がロミオをやる、ってこと?」


「は、はい。」


「あ、それ、おもろそうやなぁー。」

「ほんまやほんまや。」

「メイドカフェよりこっちのが受けるんちゃうんか?」

「そやなー。」


「それと、毬茂せんせにも出てもらいたいんですが。」


「は?え、えぇ?!わ、私??!!」


「はい。」


「な、何で私なの?」


「今、おもたんですが、せんせにロミオをしてもらって、まこちゃん…、あ、楠木さんにジュリエット…。とか、ってどうです?」

「は??!!っちょ、あ、あんた、何いきなり言い出すのんっ!!何でウチがせんせとジュリエットを??ってかそれ、男女逆転してへんやん。」

「そこはほら、まこちゃん、ボーイッシュな部分あるし、今をときめくスーパーモデルやし。」

「アカンアカンアカン!!ウチは反対反対反対っ!!ただでさえ、トークショーとかもあんのにっ!!」


「じゃ、じゃあ、多数決取りますー。」


「はーい。」


「悠生さんの、男女逆転ロミジュリがいい人、手ぇ挙げて~!!」


「はーい。」


と、藤谷が数を数える。当然、決定に決まっている。


「はぁい、じゃあ、ほぼ全員一致で、ウチらのクラスの出し物は、男女逆転ロミジュリに可決されました。」


「はぁ…。もうなんとでもして。」と、真琴は諦めた。


「まこちゃん、ゴメン、怒ってる?」

「あんたに怒ってなんかない。はぁ…。」


と、そこへ、昼休み終了を告げる予鈴が鳴って、5時限目は、ロングホームルーム。

その前に10分休憩があるので、それぞれ自由にくつろぎ、休憩時間が終わり、

各クラスでもロングホームルームが始まっていた。


もちろん、エリカのクラス、2-Fでも…。


「なぁなぁ、ウチらのクラス、何しよか?」

「そやなー?」

「なぁ、みんな?何か良い案って、無い?」


と、そこへ、会話に割って入ったのは、生徒会役員でもある、水川隼人だった。


「そや、みんなに言いそびれるトコやったけどな。」

「どうしたん?水川君。」

「さっきの昼休みに生徒会でな、あの、幻の企画がついに可決されたんや!」


と言うと、男子生徒がざわめき、女子生徒はビクっとなり、女子生徒の一人が反応した。


「それって、まさか、あの…。」


「そうっ!ミス・鈴ヶ丘コンテスト!!もちろん水着審査有りっ!!」


と、声高らかに水川が言うと、クラス中からどよめきが起こり、女子生徒たちからは、反対コールが巻き起こる中、エリカは呆然として、その光景を見ていた。そして、心の中で、こうも思っていた。


「同じ学校内に男子が居るだけで、今まで居た粟生野とは、こんなにも変わるんだなー…。」

と、思っていた。


そして、男子生徒からは、喝采の拍手が巻き起こっていた。


「んで水川よぉ!」

「んー?」

「ウチのクラスからも女子、選ぶんやろ?」

「誰を推薦するんや?もう決まってんか?」


「それはやなー…デュルルルルルルル…発表します!青島エリカさんを、ウチのクラスのミスコンに出てもらいたいと思っています!!」


と、水川が言い出すと、クラス中が更にざわめいた。

エリカはまだ状況を把握出来ていないようで、頭の中が、「???」になっていた。


そして、教員席に座っていた担任の尾之上が、こう切り出した。


「えーと、青島さん?」

「は、はいっ!!」

「おめでとう!!」

「え?え?」

「あなたがこのクラスのミスコン出場者よ?!」

「って、えぇ~~~~~??!!わ、私で、ですかぁ~~~~~??!!な、なんで私なんですかぁ??!!」

「はいっ!水川君、説明よろっ!」と、尾之上は、水川に説明を振った。


「えーと、青島さんは、転入して来たばかりで、まだまだこのガッコに戸惑ってることも多いと思います。」

「は、はい。」

「それに、青島さんは、めちゃ可愛いし、帝塚山のお嬢様やし、絶対ミスコンでも上位に食い込むこと間違いないと思ったので、僕の独断で選びました。」

「えぇ~~!!」


と、隣の席の千春が、エリカに声を掛けた。


「良かったね、青島さん。学院のクィーンになれるチャンスだよ。」

「そ、そんなぁ…。」


「で、でもなぁ?」と、ある女子が切り出した。


「はい、何でしょう?岡宮さん。」


「今年、このガッコにはな、あのスーパーモデル・楠木真琴さんが1年にるんやで?」

「そや?それがどないしたん?」

「いくら、青島さんがめちゃ可愛い、て言うても、楠木さんのクラスには絶対敵わんのちゃうやろか?」

「まぁ、そこはしゃーないやん。ほな、岡宮さん出るか?」

「う、ウチ??!!ウチは無理やっ!!無理無理っ!!青島さんの方が絶対可愛いもんっ!!」


などと言うやり取りの最中、エリカは自分の席で、ちじこまっていた。


「はーい。水川君の意見は分かりましたー。」

と言い出したのは、2-Fのクラス委員、藤原美優だった。


「ミスコン出場者は青島さん、と言う事で決定でいいですか?」


「いいでーす。」


と、全員一致で可決され、次は出し物の案件に入った。


「ほな、ウチらのクラスの出し物は何にするか、今から決めまーす。何かしたい案があったら手ぇ挙げて発言してくださーい。」


と、一人の男子生徒が手を挙げた。


「はーい。」


「はい、宮内君。」


「僕、千春のサイン会がええ思います。」


と言う発言に、晴喜が思わず、「は?」と言った。


「な、なんなん?それっ!!」

「だってお前が書いてるラノベ、今度本になるやんか。」

「そ、そらそうやけど。せやからて、サイン会なんかにせんでも…。それに僕の作品、まだ書籍化されてへんねんやで?」

「何でや?お前のラノベが学校中に知れ渡るいい機会やねんで?お前としても売れて欲しいやろ?」

「そ、そやけど…。せんせー、何とか言うて下さい!」


「んー、ええんちゃうか?!鷹梨先生サイン会。書籍化されてへんねんやったら、同人でもええやんか。将来、プレミア付くでぇ~。」


「って、えぇ~~??!!せ、せんせ、何そんなに乗り気になってますのん?!」

「だって、宮内の言うことはもっともやんか。」

「そ、そやけど…。はぁ~…。こんなこと悠生さんに気付かれたら、何て言おう…。」

と、誰にも聞こえないボリュームで独り言を言ったが、それをエリカは聞き逃さなかった。

「ねぇねぇ、鷹梨さん?」

「は、はい?」

「悠生さんって、1-Aの悠生飛鳥さん?」

「え?あ、う、うん。同じ吹奏楽部の後輩なんだ。」

「そ、そう。」

「ってか青島さん、何で悠生さんのこと知ってるん?」


と、聞くと、エリカは、ノートを小さくちぎり、走り書きして、

「授業終わったら屋上まで来て下さい。」と言うメモ書きを、千春に渡し、千春と目配せした。


2人がそうゆうやり取りをしている間のクラス内では。


「はーい、他に案が無いなら、鷹梨先生サイン会に決定しまーす。」

「え?あ、ちょ、ちょ、まっ、!!!!!」

「何か?鷹梨君。」

「せんせ?」

「はい。」

「せんせ、さっき、"同人でもええやんか"って言うたやないですか?あれってどーゆう?」

「その言葉の通りや?」

「文化祭には、各クラスごとに割り当てられる費用が毎年出るの、お前も知ってるやろ?」

「は、はい。」

「せやからな、文化祭費を使ってやな、お前の書いてるラノベを、とりあえず同人化して無料提供するんや。」

「は、はい??」

「アカンか?編集部に許可取らな無理か?」

「や、ま、まぁ、一学校内の文化祭内で無料配布されるくらいなら全然問題ない思いますが…。」

「ほなこの案、決定やな!」


と、尾之上が言うと、クラス中から拍手が沸き起こった。


そして、5時限目が終わるチャイムが鳴り、学校内のクラス全部のロングホームルームは終わった。


ここは、2-F。

千春は、先ほどHR中にエリカに渡された紙の言われたがままに、一人屋上へ行く。

するとしばらくして、エリカがやって来た。


「あ、青島さん、来てくれてありがとう。」

「いえ、呼び出したのは私ですから…。」

「で、話しって?」

「えと、この話し、2人だけの秘密にしてくれる、って、誓ってもらえます?」

「え?あ、う、うん。」

「私、藤坂エリカです。」


「は?」


「だから、ふ・じ・さ・か・え・り・か!で、す!」


「って、えー?!」

「しーっ!!大きな声出さないで。」

「じゃ、じゃあやっぱり僕の思い違いや無かったんや!」

「青島さん、あの時カラオケにモデルの藤坂さんと一緒に居た、あの、女の子やったんや??!」

「はい。」

「お、驚いた…。で、何で悠生さんのこと知ってるの?」

「実は今、藤坂さんと一緒に、悠生さんの家にお世話になってまして…。」

「そ、そうやったんやー…。」

「このことは、ぜぇったいにクラスの人や学校には内緒にしておいて下さいね。」

「あ、う、うん。分かったよ。」

「あ、あと、藤坂さんが恋人、ってこともお願いしますね。」

「う、うん。分かった。」

「じゃあ私、このあと、飛鳥ちゃんたちとお茶する予定があるから、これで失礼しますね。」

「じゃ、じゃあ、また。」

「はーい、文化祭楽しみだねっ!」と、エリカは爽やか過ぎる笑顔で屋上から消えて行った。


…ところ変わって1-Aでは。


「なぁ、まこちゃん?」

「はぁ…。」

「…ま!こ!ちゃ!ん!ってばっ!」

「は?はいっ!!って、飛鳥か。なんや?」

「"なんや?"ちゃうわ。放課後、エリカさん歓迎会のお茶会、HOOPのスタバでやるんやろ?」

「あ、そ、そやったな!」

「はよ帰りの準備せな、またダッシュせなアカンで?」

「あ、う、うん、分かった。」


そこへ、飛鳥のスマホのLINEに、エリカからメールが来た。


「ほら。」

「あれ?エリカさんや。」

「なんて?」

「もう昇降口で待ってます、やて。」

「ほら、先輩待たせたらアカンやん!はよ行くでっ!!」

「ちょ、飛鳥っ!待ってぇなっ!!」


そう言って2人は昇降口へと走って行って、エリカと合流し、3人はゆっくり歩いて、あべのHOOPへと向かった。


学校が終わった、飛鳥・エリカ・真琴の3人は、早歩きで響香の待つ、あべのHOOPへと向かった。

歩くこと約20分。

ようやくいつものスタバに着き、飛鳥が少し混み合ってる店内をキョロキョロし、響香を探していると、聞きなれた声がした。


「おーい、飛鳥っ!こっちこっち!」

「あ、響香ちゃん!ごめーん。遅なって。」

「ええって。また真琴の足の遅さか?」

「ちゃ、ちゃうわっ!!今日は予定通りやっ!!」

「で、なんやったん?」

「あぁ、うん、ウチらのガッコな…。」と、真琴が話しかけようとした時、響香が一言。

「とりあえず鞄置いて何かドリンク買ぉて来ぃな。」

「そ、そやな。行こ、飛鳥、エリカさん。」

「うん。」

「今日は何しよかなー。あ、エリカさんのドリンク代は、今日は私が払います。」

「え?い、いいの?」

「ええんですって!だって今日はエリカさん歓迎会ですからっ!!」

「そうですよ!!」

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えようかしら。」


そう言って3人はそれぞれにお気に入りのドリンクを注文し、響香の待つ席へと戻って来た。


「響香ちゃん、お待たせー。」

「ほいほい。」

「ほな、2人とも、行くで?えぇか?」

「うん、ええよ。」

「ウチも。」

「え?何?何?」


「せぇの!!」


「エリカさん、鈴ヶ丘転入、おめでとうっ!!いえぇーいっ!!」


と、飛鳥・真琴・響香の3人は、プラスチックのカップを高く上げて、笑顔でエリカを迎えた。


「み、みなさん、あ、ありがとう。こんな風にしてもらえるだなんて思ってませんでしたから。」

「いえいえ~。これくらいしか出来ませんか…。」

「あ、そや、響香ちゃん?」

「んー?なんや?飛鳥。」

「もうすぐな、私らのガッコな、春の文化祭やねん。」

「は?文化祭?」

「そや?」

「あんたらのガッコ、春に文化祭やるんかいな。」

「そうみたいやな。」

「でな、私らのクラスの出し物な、何する思う?」

「何する?って…そんなんいきなり言われても分からんに決まってるやんか。エリカさん知ってるんですか?」

「い、いえ、私は何も…。」


「あ、飛鳥、い、言わんといてーーーーー!!!!!」


「は?どしたん?まこ。いきなり大声出して。」


「私らのクラスな、お芝居すんねん。」

「し、芝居?どんな?」

「やめてーーー!!!」

「なんでこの子、こんないやがっとんねん。」

「なーんと、男女逆転の、ロミオとジュリエットをやるんですー。」

「はぁ?」

「あぁ、うてもぉた…。」


「あ!!分かった!!」


「は?」


「飛鳥っ!!」


「なんなん?」




「これ、こないだのいやがらせのつもりやろ?!」

「こないだ?なんのこと?」

「そ、そやから、やな、ウチが、その、寝言で、やな…。言えん、恥ずかし過ぎて言えん。」


「…あ、あぁ!!、あれか、ママぁっ!!」


「あぁ~~!!言うな、ちゅうに…。」

「なんやそれ?」

「響香ちゃん、聞いて聞いて?この前な、エリカさんたちがな、初めて家に来た最初の夜な、まこちゃん家泊まってん。」

「ほうほう。」

「ほんでな、久々に私と一緒にベッドで寝てん。」

「うんうん。」

「ほんならな、朝起きるの私のが早かってな、まこちゃん起こしにかかってん。」

「うん。」

「やめてー!!」

「エリカさんも覚えてますよね?」

「もちろん。」

「いやー!!」

「まこちゃん、私らがおらん時な、おば様のこと、"ママ"って言(ゆ)うてるらしいんやて。

私らが居る時は、"お母さま"やのになー。って、寝言で言うてたわ。」

「あぁ~~…。はぁ~~…。ぜぇ~んぶ言うんやもんなぁ~…。」

「あはははは、今をときめくスーパーモデルの真琴様でも自分の家で誰もおらん時はやっぱまだまだお子ちゃまやねんなー。」

「も、もう、響香、うっさい!!笑い過ぎやっ!!そこっ!!」

「あ、まこちゃん?」

「な、なんやねん。」

「ロミジュリの台本な、まりもんが、私に書いて来て、て言うてたわ。」

「はぁ??」

「まぁ期待しとって。おもろいの書いて来たるからな。」

「ま、まりもん何てこと飛鳥に頼むねんっ!!」

「なぁ、その、"まりもん"って誰や?」

「あぁ、響香ちゃんはガッコ違うから知らんか。私らの担任の岡本毬茂先生の愛称や。」

「へぇ~、あんたらのクラス、みんな仲えぇみたいやな。」

「うん、えぇで。」

「で、エリカさんのクラスはどんな出し物するんですか?」

と、響香が聞くと、ミスコンのことを思い出したエリカの顔が急に、お湯で沸騰したヤカンのように真っ赤になり、両手で顔を隠して、「聞かないで~~!!」と言い、うつむいてしまった。


「は?どしたんですか?エリカさん。」


と、そこへ、飛鳥のLINEに、晴喜から、日曜のデートのことと、エリカがクラスのミスコンに選ばれた、と言う内容のメールが来た。


「飛鳥、LINE、鳴ってんで?」

「え?あ、うん。」

「誰や?」

「あ、先輩や。」

「先輩って、千春先輩か?」

「うん。」

「なんやて?」

「えーと…?なになに?僕のクラスのミス・鈴ヶ丘、エリカさんに決まったよ?やて?は?え、エリカさん?これって、どーゆう?」


「いやー!!聞かないでぇー!!」


と、顔はまだ手で覆い隠したまま、首を左右に大きく振った。


「今度はエリカさんが壊れてもうた。」と、響香。

「あぁ、2-Fのミスコンはエリカさんなんですか。」

「いやぁ~~~!!!」

「いいことですやんか。」

「あ、飛鳥さんのクラスは?ミスコン、誰が出ますの?」

「え?決まってますやん。まこちゃんです。」

「ほ、ほら、やっぱり!!」

「は?」

「い、いえ、今日のロングホームルームでね、クラスの方が、1年に真琴さんが居るから絶対勝てない、って言ってたんです。」

「そ、そんなん…。私は、ただの読者モデルですから…。」

「"ただの"、やて。聞いたか?飛鳥。」

「うん、聞いた聞いた。」

「どの口が言うんやろな?この、超・スーパー売れっ子読モ様はよ。」

「ホンマやわ。」


…そして、4人はカップに残っていたドリンクを飲み干し、「ふぅ~…。」と、一息入れた。そして、飛鳥が話しを切り出した。


「なぁ、響香ちゃん?」

「んー?」

「響香ちゃん、文化祭来てくれるやろ?」

「そら行くわ、ウチら4人は親友やからな。」

「ありがとー。」

「4人って、私も、ですの?」

「何言ってますのん!当たり前ですやん!エリカさん!」

「ありがとう。」

「響香ちゃん?」

「なんや?」

「ぜひともまこちゃんのジュリエット、見たってな。エリカさんも。」

「もちろん!」

「喜んで!!」


「あ。」


「そう言えば、エリカさんのクラスの出し物はなんなんですか?」

「あぁー…えっと、鷹梨君のサイン会だそうよ?」


「は?」


「だから、飛鳥さんが日曜にデートする、千春さんのサ・イ・ンか・い。」

「って、何ですか?」

「飛鳥ちゃんは、鷹梨クンが本出すの、もちろん知ってるのよね?」

「え、えぇ、吹奏楽部で聞いてますから。」

「その本は、まだ書籍化されてないから、うちの担任が、クラスごとに割り当てられる文化祭費使って、鷹梨君の小説、同人化して無料配布した上で、それをもらってくれた人たちにサイン会をしよう、ってなったの。」

「って、えーーー??!先輩のサイン会ですかーー??!!日曜日デートした時に突っ込もうっと。」

「何かそれって凄い出し物ですね。」

「そう?って言うか、飛鳥ちゃんたちの、男女逆転ロミオとジュリエットのが面白そうじゃない?」

「そ、そうですか?」


現役JK4人のトークが延々終わらない。

学校が終わって待ち合わせたのは夕方4時。

で、ふと飛鳥がスマホの時計を見る。


「あ、もう7時や。」

「え?もうそんな時間か?」

「うん。」

「あんたとエリカさん、そろそろ帰らなアカンのちゃうのん?」

「そやな。ほなエリカさん、私ら、帰りましょか?」

「そうですね。」

「まこちゃんたちは?」

「あぁ、ウチとまこはもう少し駄弁ってから帰るわ。」

「ほなまたなー。」

「さようなら。」

「あ、あっすか!」

「なにー?」

「日曜日。先輩とのデート、頑張りやー!!」

「ありがとー。ほなー。」

「ほななー。」


そう言って飛鳥とエリカの2人は先にスタバを出て、上町線乗り場へと向かい、いつものようにホームに止まっている電車に乗り込んで、

2人で話しながら家路に着いた。


その頃、スタバに残った真琴と響香は…。


「なぁ、まこ?」

「ん?」

「あんた、ホンマにジュリエットやるん?」

「もーその話しは言わんといて!!」

「その反応はホンマみたいやな…。これは見物になるな。」

「もうー…。」

「だってやで?あんたがもし、近い将来な?ドラマとかで主演女優の役するようになってみぃ?」

「しゅ、主演女優?ど、ドラマで?ウチが??」

「そや?」

「あ、ありえへんありえへん、そんなん。」

「分からんやん。未来は誰にも分からんねんで?」

「それでや。藤坂さんなんかと競演してみぃや。」

「はぁ?」

「ほんならや、今度の、えーと、男女逆転ロミジュリのお芝居がや、恥ずかしの映像とかで流れるわけや。」

「い、いやー!!そんなんいややーー!!」

「あはっは、おもろいなー、あんたは。相変わらず変わらんわ。」

「う、うっさい!!」

「それよりな。」

「え?あ、う、うん。」

「日曜日のデートやけど。」

「あぁ、飛鳥の?」

「うん。」

「上手く行く思うか?」

「まぁ…さっきも先輩から普通にLINE来てたし?最近は少しずつでも部活で話し出来るようになって来てるみたいやからな、前回みたいなことにはならんやろ。ウチが思うに、やで?」

「そっかー…。小学校の頃からあの子のこと知ってるウチからしたらな、どうなるんやろかー…って、不安だらけやねんや、正直な。」

「まぁ、あんたらずっと一緒やからな。」

「うん。」

「まぁ、なるようになるやろ。」

「そやな。」

「なぁ、このあとどうする?」

「そやなー。ちょっと1時間ほどだけ裏のジャンカラ寄って2人で歌ってから帰ろっか。」

「そうしよそうしよ。」


そう言って真琴と響香の2人もスタバを出てジャンカラへ向かった。


ところ変わって、真琴たちが話し込んでいた頃。飛鳥たちは、ちょうど姫松の停留所に着き、電車から降りていた時だった。


「ねぇ、エリカさん?」

「なぁに?」

「あさっての先輩とのデート、どんな風にしたらいいと思います?」

「エリカさんと藤坂さんみたいに上手く出来るかどうか不安で…。」

「ま、まぁ、私も、一番最初のデートの時は、藤坂さんにお任せしましたし、あ、でも、藤坂さんは芸能人、って私、その頃は知らなかったから…。」

「そっか…。まぁでも、好きになった相手が年上、って言う点では同じですよね?」

「そ、そうね。」

「あ、そうそう。今日ね。」

「はい?」

「鷹梨君にね、ちゃんと言っておいたわ。」

「何をですか?」

「余計なおせっかいだったかもしれないけど、"初めての女の子、ちゃんとリードしてあげるのよ。"って。」

「わぁ、ありがとうございます。」


などと話しながら、電停から家までの細い路地を歩いていき、家の前に着いた2人は門を開け、「ただいまー。」と言って、2人で一緒に家の中に入って行った。

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