第14話:エリカの初登校。

HOOPのスタバで真琴たちと別れた飛鳥は、父・雅輝が運転する車が来るのを、近鉄前で待っていた。

すると、3分ほどで、谷九方面から、ププー、と言う、いつも聞きなれたクラクションの音がして、

その黒塗りの高級外車が飛鳥の目の前で止まり、飛鳥は、後部座席のドアを開け、後続の車に支障が出ないよう、サッと車に乗り込んだ。

そして車は、すぐに動き出した。で、その車内。


「あ、藤坂さん。」

「やぁ、飛鳥ちゃん。」

「どうでした?父の会社。」

「うん、素敵なところだったよ。」

「働けそうですか?」

「まぁ、まだどんな役の仕事になるか分からないけどね。」

「君にはオペレーターを担当してもらおうと思ってるよ。」

「お、オペレーターって、どんな仕事するんですか?」

「あぁ、主に、コールセンターでの、会員からの受信の受け答えの仕事かな?」

「そうですか、大丈夫かな。」

「大丈夫大丈夫。」

「センター長にも君の事はちゃんと話しておくから。」

「は、はい。ありがとうございます。」


そこで、後部座席に置かれた、真新しい制服と学生鞄など、飛鳥の通う鈴ヶ丘の備品一式に気付いた飛鳥が…、


「ねぇ、お父様?」

「この後ろの席に置いてある制服って、もしかして?」

「あぁ、それは、エリカちゃんがこれから着る鈴ヶ丘の制服などだよ。」

「わーい。もう出来たんや!で、転入はいつから?」

「あぁ、明日からだよ。」

「明日?」

「うん。」

「じゃあ、明日の朝からエリカさんと一緒に登校出来るの?」

「いや、明日はとりあえず私が車で鈴ヶ丘まで送って行くよ。学院長との話しもまだあるしね。」

「私は?」

「そうだね、飛鳥はどうしたい?」

「んー…、一緒に行きたいっ!」

「そうか、ではそうしなさい。」

「はーい。」


そうこう会話している間に車は飛鳥の家に着き、雅輝は、車の駐車場の自動シャッターのリモコンを押し、シャッターが上がると、車を車庫に入れ、

飛鳥と藤坂を車から降ろし、雅輝は、エリカの制服一式を大切に抱えて、3人で家に入って行く。


「ただいまー。」

「お帰りなさいませ、だんな様・お嬢様・歩様。」

「ただいま、翠さん。」

「ただいまです。」

「歩様、だんな様の会社はどうでしたか?」

「えぇ、雰囲気の良い会社だったから、働けそうでしたよ。」

「そうですか、それは良かったです。」

「翠さん?」

「はい、だんな様。」

「エリカちゃんは居るかい?」

「はい、お部屋に居られると思いますが。」

「そうか、ありがとう。じゃあ2人とも、私と一緒に部屋に行こうか。」

「はい。」


そう言うと3人はエリカの待つ部屋へと向かい、雅輝が部屋のドアをノックした。


「はぁい。今、出まーす。」


エリカが部屋から出て来た。


「あ、おじ様、そして藤坂さんと飛鳥ちゃん。」

「やぁ、ただいま。」

「お帰りなさい、皆さん。」

「ただいまー。」

「ただいま。」


「エリカちゃん?」

「はい。」

「これを。」

「これって?」

「鈴ヶ丘の制服と学生鞄、教科書など一式だよ。」

「うわー!あ、ありがとうございます!おじ様っ!」

「わー、飛鳥ちゃんたちと同じ制服だっ!」

「そりゃそうですよ。これから同じ学校に通うんですから!」

「一度、制服着てみたら?」

「あ、は、はい。」

「飛鳥、手伝ってあげなさい。」

「はーい。」

「着替え終わるまで、私と歩君は廊下で待ってるから。」

「はい。」


そして雅輝は部屋のドアを閉め、藤坂と2人で廊下で待っていた。

待つこと約5分。

部屋のドアが開いた。


「お父様、藤坂さん、お待たせしました。」

「どうだい?」

「じゃーん。」


と、飛鳥の後ろに隠れていたエリカが、2人の前に出た。


「おぉ、可愛いじゃないか!」

「ホントだ、エリカ、良く似合ってるよ!前の学校の制服も可愛かったけど、こっちのがいいね。」

「そ、そうですか?」

「あぁ、とても良く似合ってるよ。」

「ありがとうございます、おじ様。」

「とりあえず明日は、私と一緒に車で学校まで送るまらね。」

「あ、はい。その制服を着て、鞄や教科書やノートなどを持って、普通に登校してもらうよ。」

「はい。」

「そして、最初に、先日行った学院長室へ行って、正式な転入手続きをしたら、君の担任を紹介しよう。」

「はい。」

「で、私の役目はそこまでだから。あとの、学校での過ごし方は君次第だからね。」

「はい、分かりました。」

「エリカさん!」

「はい。」

「吹奏楽部に入ってもらえるんですよね?」

「えぇ、そのつもりだけど。」

「前の学校で使ってたフルートは、荷物の中に入ってました?」

「あ、う、うん。入ってたわ。」

「見せて見せて!」


そしてエリカは、棚からフルートのケースを取り出し、ふたを開けて、エリカたちに見せた。


「これよ。」

「わー、すごーい。私のクラより高そう…。それに、大切に使われてる感じが出てますね。」

「ありがとう。」


そこに雅輝が、2人の会話に割って入った。


「じゃあ私はもう一度会社に戻るからね。」

「え?お父様、今日のお仕事、もう終わりじゃないの?」

「あぁ、まだ幹部会議が残ってるからね。」

「エリカちゃんの制服を届けに来たのと、歩君を家まで送って来ただけだよ。」

「そうだったんだ。」

「じゃあエリカちゃん?」

「はい。」

「明日は私と一緒に学校まで行こうね。」

「はい、おじ様。」

「じゃあみんな、私は一旦会社へ戻るから。」

「はーい。」


そう言って雅輝は階段を下り、玄関へ行って、翠に見送られ、ドアを開けて、外に出て、再び車で会社へと戻って行った。


「あ、とりあえず私、自分の部屋に戻って部屋着に着替えて来ますね。」

「あ、うん。僕も、スーツから着替えるよ。」

「はーい。じゃああとでまたこちらに来ますから。」

「はーい、待ってるね。」


飛鳥は自分の部屋に戻り、学生鞄を机の上に置いて、スカートをするすると脱ぎ、上着も脱いで、

ネクタイも外し、ブラウスも脱いで、下着姿になり、いつもの部屋着に着替え、カーディガンを羽織って、再びエリカたちの部屋に戻り、部屋のドアをノックした。


「はーい、どうぞ。」

「おじゃましまーす。あれ?」

「どうかしました?」

「エリカさん、まだ制服着てる。」

「えぇ、何だか気に入ってしまって…。」

「まぁ、新しい制服ですからね。」

「今、何時やろ?」


と、飛鳥がエリカの部屋の壁時計を見ると、時間はもう夜の8時を回っていた。

そこに、部屋のドアをノックする音が聞こえたので、飛鳥が出ると、翠が立っていた。


「お嬢様方、ご夕食の支度が整いましたが…。」

「あ、うん、ありがとう。すぐに行くから。」

「かしこまりました。」


「エリカさん、ご飯の汁とか付いたらキレイな制服が台無しだから、部屋着に着替えたら?」

「そうね。」

「私と藤坂さんは先に下に行ってるから。

「はぁい。」


そう言うと飛鳥と藤坂の2人は、エリカを残し、先に下に行って、食卓に座ろうとしたとき、飛鳥が部屋を見回した。


「ねぇ、翠さん?」

「はい、なんでしょう、お嬢様。」

「今日、直兄は?」

「直輝様でしたら、今日は彼女様と外泊だそうです。」

「そっか。直兄、居ないんや。」

「なぁに?飛鳥ちゃん、お兄様居ないと寂しい?」

「そ、そんなわけやないですけど。」


3人はいろいろ会話をしながら夕食を取り、食べ終わったあと、少し談笑してから、

それぞれの部屋に戻った。

飛鳥が自分の部屋に入る途中、廊下で。


「あ、エリカさん?」

「なぁに?」

「明日から学校、一緒に頑張りましょうね。」

「ああ、うん、ありがとう。頑張るね。」

「あ、そうや。吹奏楽部の顧問ね、私のクラスの担任だから、明日HR終わったら、せんせに伝えときますね。」

「ありがとう。」

「ほな、お2人、お休みなさい。」

「お休みなさい。」


そう言って飛鳥とエリカたちは、それぞれ自分の部屋に入って行った。


そして飛鳥は、勉強机に座り、今日の課題をこなし、真琴にLINEで、エリカが明日から学校に来る、と言う事を、メールで伝えた。するとすぐに電話が鳴った。


「はーい、もしもーし。」

「あ、飛鳥?ウチ。」

「うん。」

「なんやて?エリカさん、明日からウチらのガッコに来るんやて?」

「そや?今日、あのあとお父様の車に乗ったらな、学校の制服や鞄、靴、教科書類が整えられててん。」

「そうなんや、嬉しいなぁ。」

「そやろ?あんたは?明日は?」

「何が?」

「明日も早いん?」

「うん、お父様の車で、エリカさんと一緒に、学院長先生の部屋まで付いていくからな。」

「そっか。」

「なに?」

「いや、最近あんたと一緒に登校してへんな、っておもてな。」

「あぁ、そやな。」

「まぁ、あさってからは、エリカさんと3人で一緒に登校出来るやんか。」

「そうやな、それも楽しみや。あ、そや。」

「なに?」

「響香がな、今度改めてエリカさん紹介して、て言うてたで?」

「あぁ、もちろんええで?」

「ほな明日ガッコでな。」

「あ、うん。お休みー。」

「お休みー。」


そう言って2人は電話を切った。


…。そして、次の朝6時半。飛鳥とエリカの部屋の目覚ましがうるさく鳴り響く。

ここは、飛鳥の部屋。


「ふぁ…、もう朝か。よっこらせっと。」


と、まだ眠そうな顔をして、飛鳥はベッドから出て、洗面所に行き、顔を荒い、

髪をセットする。

洗面所を出ようとした時、エリカと会った。


「あ、エリカさん、おはよー。」

「おはよう、飛鳥さん。」

「いよいよ今日から鈴ヶ丘ですね。」

「はい!楽しみです。」


などと話しをしているところへ、雅輝が洗面所へやって来た。


「やぁ、2人ともおはよう。」

「あ、お父様、おはようございます。」

「おじ様、おはようございます。」

「エリカちゃん、今日からは鈴ヶ丘の生徒だね。」

「はい。」

「どうかな?今の心境は。」

「はい、ドキドキとワクワクがいっぱいで楽しみです!」

「そうか、楽しい高校生活になることを願っているよ。」

「ありがとうございます。」

「2人とも、朝ごはん食べて準備出来たら車で学校まで行くからね。」


「はーい。」

「はい。」


と言って、飛鳥とエリカは雅輝と別れ、食卓へと向かい、席に着いて、

翠の作った朝食を食べ、雅輝も会社へ行く準備が整ったので、2人を連れ、玄関で靴を履き、3人は翠に笑顔で、「行って来ます。」と挨拶をし、家から出て行き、

駐車場に止めてある車に乗り込み、家を出て、学校へと向かった。


その車内。


「エリカさん、緊張してます?」

「そ、そんなことは…。」

「だーいじょうぶですって!」

「何が?」

「エリカさんならすぐに良い友だちも作れますから。」

「そうかな。私、大阪弁とかも喋れないし…。」

「そんなん関係無いですって。」

「あ、そや、私のクラスは、1-Aですから、一応教えておきますね。

まこちゃんも同じクラスですから。」

「ありがとう。」

「エリカさんは、2-Fでしたよね?」

「そうよ?」

「ん?2-F?んー…。」

「どうしたの?」

「や、これはまた、今日ガッコで話しします。」

「えぇ~?気になるじゃない。」


そこに、雅輝が2人の会話に割って入って来た。


「エリカちゃん?」

「はい、おじ様。」

「今日は初登校日で、学院長との話しもあるから車通学だけどね。」

「はい。」

「今日の帰りからは、飛鳥や真琴ちゃんたちと一緒に、上町線で通学するようにね。」

「あ、は、はい。」

「君は、飛鳥より学年も一つ上だから、日によっては登校時間が違う時もあるだろうし、駅から学校までの道順を早く覚えること。」

「はい。」

「それと、とりあえず半年分の定期券代を、あとで渡すから、帰りに、上町線の天王寺駅前の窓口で買っておきなさい。」

「はい。」

「あとね、飛鳥には、毎月2万円をお小遣いとして渡しているから、

エリカちゃんにも、同じように2万円、ひと月のお小遣いとして毎月1日に渡すから、計画的に使うようにしなさい。」

「そ、そんなに頂いていいんですか?」

「あぁ、構わないよ。君が家に来ることがきっかけになってね、青島貿易さんとの事業も出来るようになったし。」

「そ、そうなんですか。」

「あぁ。ありがたい話しだよ。」

「そう、ですか。」


そんな会話をしている間に車は学校に着き、来客用の駐車場に車を止め、3人は車から降りて、院内を歩いた。そこで、雅輝が、飛鳥にこう話しした。


「飛鳥?」

「はい。」

「今日はお前は直接教室へ行きなさい。」

「はい。」

「エリカちゃんは、私と一緒に学院長の部屋へ。」

「はい。」

「あ、そうだ。忘れないうちに、これを。」と言い、雅輝は、現金の入った封筒をエリカに手渡した。

「おじ様、これは?」

「あぁ、今日からの定期代と今月のお小遣いだよ。」

「ありがとうございます。」

「無くさないように、ちゃんと自分の財布に入れておくんだよ?」

「はい、分かりました。」

「じゃあお父様、エリカさん、私はここで。」

「うん、飛鳥も勉強頑張るんだよ。」

「はーい。じゃあ、行って来まぁす。」

「飛鳥ちゃん、帰りにLINEするね。」

「はーい。エリカさんも頑張ってね!」

「ありがとう。」


そう言い、飛鳥はいつものように昇降口へと向かい、雅輝とエリカは来客用玄関から入って行き、学院長室へと向かい、雅輝が、部屋のドアをノックした。

すると中から、「どうぞ。」と言う声がしたので、雅輝がドアを開け、エリカを連れて部屋へ入った。


「やぁ、悠生君、おはよう。」

「おはようございます、院長。」

「ほら、エリカちゃんも挨拶を。」

「お、おはようございます。今日からこちらでお世話になります。」

「あぁ、おはよう。制服、良く似合ってるじゃないか。」

「ありがとうございます。」

「おや?」

「どうしたかね?」

「こちらの先生は?」

「あぁ青島さんがこれから所属する、2年F組の担任教師、尾之上佑香先生おのうえゆうかせんせいだよ。」

「あなたが青島さんね?」

「は、はい、初めまして、先生。青島エリカ、です。」

「うん、院長から聞いてた通りの可愛らしい女の子ね。」

「そ、そんなこと…。」

「あなたなら、きっとすぐにうちのクラスに馴染めると思うわ?」

「そうですか、ありがとうございます。」


と、院長室でエリカたちが談笑していた頃、飛鳥は、自分のクラスに向かっていて、廊下を歩いていた。

すると、掲示板に目が行った。


「ん?これって…まこちゃんファンクラブの?」


そのポスターには、春の文化祭にて、真琴のトークイベントがあることを告知されていて、飛鳥は目を丸くして驚いた。


「はぁ?!と、トークショー?これ、まこちゃん知ってるんやろか?」


と、独り言を言い、そのポスターの写メを撮り、真琴のLINEに添付してメールした。

すると、即電話がなった。


「飛鳥、おはー!」

「まこちゃん、おはー。」

「あんた、もうガッコにおるんかいな?」

「そやで?でな、さっき送った写メ、見てくれたか?」

「見たわよ!ってかイベントは承認したけど、文化祭でトークショーやなんてウチ、ビックリで飛び起きたわ。」

「そやろなー。そうおもてメールしてん。」

「あ、そうや、それよりエリカさんは?」

「あぁ、うん、今、院長室でお父様やせんせらと話ししてるわ。」

「そうなん?あんたは?」

「私は教室に行く途中。」

「そうなんや。で、その途中でこのポスター見つけてウチにメールくれたんや。」

「うん。」

「ありがとな、ウチもガッコ行ったら詳しいこと、柚梨川さんに聞いてみるわ。」

「うん、それがいいと思うわ。」

「ほなあとでガッコでな。」

「ほーい。ほななー。」


そう言って2人は電話を切った。


で、ここは、電話を切ったあとの真琴の部屋。真琴も今、制服に着替え、髪をセットし、学校へ行く準備をしていた。

そして、母親に、今日は朝食は要らない。と伝え、急いで家を出て、いつもの停留所へ向かって、やって来た電車に乗り、

天王寺駅前まで向かい、いつもの通学路を学校へ向かって駅から15分ほどで学校に着くと、

来客用の駐車場に、見慣れた飛鳥の父の車が止まってるのに気付き、それを横目に、昇降口へと向かい、

上履きに履き替え、廊下を歩いて、飛鳥の待つクラスへと向かう途中、飛鳥が教えてくれた掲示板を見つけ、

「あ、これかぁ…。」と、少しの間、内容を読んでから、A組へと向かって、ガラガラ、と、ドアを開けると、

教室内にはまだ飛鳥しか居なく、笑顔で飛鳥と挨拶を交わした。


「飛鳥、おはー。」

「あ、まこちゃん。なんや、お早い到着やなー。」

「ま、まぁな。」


教室の時計の針は、8時過ぎを指していた。

教室内にはまだ他の生徒は登校しておらず、今はまだ、飛鳥と真琴の2人だけだった。


「なぁなぁ、飛鳥?」

「んー?」

「あれから先輩とはLINEでやり取りとかしてんか?」

「いんや?特には。」

「そうなん?何で?」

「だって、日曜にデート行くやんか。」

「そ、そらそうやけど。」


…それから約30分が過ぎ、飛鳥たちのクラスにも、続々と生徒たちが教室に入って来て、それぞれに、「おはよう。」と挨拶を交わしていた。

その中の一人の女子生徒が、飛鳥たちに近付いて来た。


「なぁなぁ、悠生さんと楠木さん?」

「あ、おはよう。」

「おはよう。」

「さっきな、校門の前でな、多分隣のクラスの柚梨川さんやと思うんやけど、こんなん配ってたで。」

「え?」

「なになに?」

「あぁ、これ。」

「楠木さん、文化祭でトークショーするん?」

「そのようやな。」

「"そのようやな"、ってあなたはまだ知らんかったん?」

「うん、今朝、飛鳥からの写メでビックリしてん。」

「そうやったんや。ウチ、そのトークショー、楽しみにしてるから!」

「ありがとう。」


そう言ってその女子生徒は2人の元から離れ、自分の席へ戻って行き、仲の良い友達同士で喋っていた。

そこに、ホームルーム開始の予鈴が鳴り、毬茂が教室に入って来た。


「はーいみんなー、席着いてー。ホームルーム始めるわよー。」


と言うと、生徒たちは席に着いた。


その頃、エリカが転入することになった、2-Fでも、ホームルームが行われており、エリカは廊下で待機していた。

教室内では、尾之上が今日の予定を話した後、こう切り出した。


「はーい、皆さん。今日は、転入生を紹介します!よろこべ男子たち!残念でした女の子ども!」


と、尾之上が言うと、今日室内は急にざわめきはじめた。


「はいはい、みんな静かにっ!!」

「じゃあ、青島さん、入って来て?」


と言うと、廊下で待機していたエリカが、ガラガラとドアを開け、教室内に入って来た。

すると、室内からは、もの凄い歓声が上がった。

特に男子生徒が盛り上がっていた。


「おわー、女の子やっ!」

「背ぇちっちゃっ!」

「かわいいなぁー!」


などと口々に話していた。と、その中には、千春の姿もあり、晴喜が、エリカの姿に気付いた。


「ん?あの子…。」と、千春が一言言うと、隣の席の男子生徒がすかさず突っ込んで来た。

「あの子、どっかで見たことあるな…。」

「なんやお前ら、あの子と知り合いか?」

「や、そうゆうんやないけどな。んー…どこで見たんやったかな?」


「じゃあ青島さん、自己紹介、お願い出来るかしら?」

「は、はい。」


エリカは凄く緊張していたが、壇上で、クラスメイトたちに向かって、


「静岡県掛川市の、粟生野女学院から転入して来ました、青島エリカと申します。」


と言うと、教室中から大きな拍手が上がった。

そして、尾之上は、チョークを持ち、エリカの代わりに、苗字と名前を書いた。


すると、エリカも、3分ほど自己紹介をし、尾之上から、空いてる席に座るように、と言われたので、千春の隣の席に座った。


「初めまして。」

「初めまして。」


と、お互い挨拶する。


「僕は、鷹梨千春、と言います。よろしくね、青島さん。」

「よ、よろしくお願いします。」

「君の事、どっかで見たことなるな…、って思ったんだけど、苗字が違ってたから違う人だったよ。」

「そ、そうですか、よろしくお願いします。」

「よろしくね。」


そこへ、尾之上が一言。


「じゃあみんな。これから青島さんと仲良くしてあげてね。」

「はーい。」


「じゃあ、ホームルームはこれで終わり!1時限目の授業に備えるように。」


と言って、尾之上は教室を出て行った。


尾之上が出て行った教室内では、エリカが、男女関係無く、クラスメイトに囲まれ、質問攻めに合っていた。

そこに、1時限目が始まるチャイムが鳴り、現国担当の教師が教室に入って来て、

「はーいみんな、席着けー、授業始めるでー。」と言って、1時限目が始まり、あっと言う間に午前の授業が終わった。


「ねぇねぇ、青島さん!」

「はい?」

「お昼ご飯、私たちと一緒に食べへん?」

「えぇ、いいですよ。」

「わーい。」

「ほな、学食行きましょ♪」


と、3人の女子生徒と一緒にエリカは学食へと向かった。

エリカに話しかけて来たのは、3人のクラスメイトだった。


4人は、学食へ行く途中、廊下で歩き話しをしていて、佳宮桃華よしみやとうかがエリカに話しかけた。


「なぁなぁ、青島さんはドコに住んでんの?」

「え・あ、えと、帝塚山です。」

「へぇ~、すご~い。ほな、お金持ちやん。」

「い、いえ、そんなことは…。」

「前のガッコで部活は何してたん?」

「吹奏楽です。」

「えー?!そうなん?ウチも今、吹奏楽部入ってるで?!」

「そうなんですか?」

「うん!」

「そうそう、それと、青島さんの隣の席の男の子おったやろ?」

「あぁ、えと、鷹梨さん、でしたっけ?」

「あの子も吹奏楽部でホルン吹いてるで。」

「そうなんだ。」

「青島さんは?楽器、何してんの?」

「えと、フルートです。」

「フルートかぁ。木管、今、人数少なくて困ってたんよ。

せやから、青島さんが入ってくれたら、ウチも嬉しいわぁ。」

「じゃ、じゃあ、入ろうかな。」

「うん、そおしぃそおしぃ。」


などと話しているうちにも学食へ着き、行列に並ぶ。


「この学校の食事な、どれも美味しいねん。」

「え?そうなんですか?」

「そや?だからな、何頼んでもえぇねん。」

「へぇー。」


そう話し、4人はそれぞれ好きなメニューを選んで、オープンキッチンへと向かって、

注文したメニューを受け取り、空いているテーブルで、エリカを囲んで4人で食事していた。


と、同じ学食の中に、飛鳥と真琴の姿もあり、飛鳥が、エリカの後ろ姿に気付いた。


「なぁなぁ、まこちゃん?」

「んー?」

「あれあれ。エリカさんちゃうん?」

「えー?どれ?」

「ほら、あそこ。」

「あ、ほんまや、エリカさんや!」

「さすがやなぁ、早速仲間が出来たんかなぁ。」

「そやね。あ、そうや。忘れんうちに、エリカさんにLINEしとくわ。」

「何を?」

「帰り、校門で待ってます、って。」

「そやな。」


そう言って飛鳥は、エリカにLINEでメールした。


それに気付いたエリカは、「ちょっと待って。」と言い、LINEのメールを見て、すぐに返信した。

それを確認した飛鳥と真琴は、ご飯を食べ終え、学食をあとにした。


お昼休みが終わり、午後の授業も滞りなく終わって、帰りのHRも終わったエリカの教室では…。


「なぁなぁ、青島さん!」

「なんでしょう?佳宮さん?」

「部活は、いつから始めるん?」

「まだちょっと分からないですが、そのうちに…。」

「そっか。ほな私、今日部活行くんで、そのことせんせに言っときます。」

「ありがとう。じゃあ私、今日は用事があるのでこれで。」

「はーい。」


そう言ってエリカは教室を出て行き、飛鳥たちの待つ校門前に向かった。


「飛鳥さん!真琴さん!お待たせ!」

「いえいえ、だいじょぶです。さ、帰りましょう。学校から駅までの道順、覚えてくださいね。」

「はい。」

「まぁ、私と一緒に住んでるから、たいがいは一緒に登校出来るかもですが。」


そして3人は、談笑しながら天王寺駅までの道をゆっくり歩いて行って、上町線の改札前にある定期券売り場で、

エリカは、飛鳥に買い方を教えてもらい、定期を買い、3人で一緒にホームに止まっていた電車に乗って姫松まで戻った。

姫松で降りた真琴は、飛鳥・エリカと別れ、「ほなまた明日ー。」と手を振り、自分の家に戻り、

飛鳥たちも家に戻った。


そうして、エリカにとっても、ようやく飛鳥たちと同じ、鈴ヶ丘学院に転入出来た、長い初日が終わった。

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