2 とりあえず、前向きに。
そんなこんなで双子の姉である私が悪役令嬢、実の双子の妹がヒロインという全く理解できない上に、このゲーム製作者は何を考えてんだ頭がおかしいんじゃないか、悪意ある茶目っ気が炸裂したとしか思えない配役を転生として賜って、前世を思い出してしまった訳だが。
いや、「前世を思い出してしまった訳だが」ではない。そこで一息つく所ではない。
第一双子で姉が悪役令嬢、妹がヒロインってなんだ、いじめか。ゲーム製作者は本当に何を考えたんだこんちくしょう。実の血の繋がった、しかも双子にそんな運命背負わせるか?
まだ5年しか生きていないがハイランドア王国に双子が忌み子、などという風習はないし、まだ少ない人生を振り返っても妹とは良い関係を築いていたはずである。
その妹を婚約者を巡って対立する? 果ては取られそうになって虐める? 冗談ではない。この配役こそ私に対する虐めではないか。ゲーム製作者許すまじ。
--という脳内思考をしつつ、顔に引きつった笑顔を浮かべながら私はなんとか妹から櫛を受け取った。
そんな私の脳内葛藤など知る由もなく、我が妹、ロシェルカはにこにこと笑いながら話しかけてくる。
「今日はおとうさまがおやすみらしいですわ、おねえさま」
「まあ、めずらしいわね」
いつも多忙で家を開けがちな父が休みとは、これまた珍しい。
私たち双子の父、アーレルド・イグニシアはハイランドア王国の宰相である。ちなみに、父と国王は学友で悪さをしては家臣たちを困らせる「悪友」でもあったらしい。
その父だが、殆ど家にいないことから察せられる通り宰相という名のブラック企業で朝から晩まで働き詰めが基本である。それがお休みとは。
「ええ、なんでもカインが『国王をおどして……交渉してお休みをもぎ取った』って言ってましたわ」
「……」
だからおやすみらしいですわ、と無邪気に告げるロシェルカに、私はふと遠目になる。
どの国に国王を恐喝して休みをもぎ取ってくる宰相がいるんだ。いや、ここにいたよ。
父よ、国王に何をしているんだ……。
ちなみにカインというのは父についている侍従で黒髪長身のの美丈夫だ。
細マッチョな中性顔イケメンで、前世が腐った女子だった私からすると格好の獲物……もとい目の保養である。父と並ぶといい感じに攻め受け構図になって、妄想が捗る……ぐふふ。
「おねえさま、先ほどからずっとぼーっとしていらっしゃいますわ! 朝ごはんができてますのに、冷めてしまいますわよ?」
急かすようにこちらの背中を押すロシェルカの言葉にハッとする。
あ、いけない。唐突に思い出した前世やら、妹がヒロインだとか、ボーイズなラブだとか、なんやかんやで思考がショートしていたわ。
しっかりするのよ、ロジエル。私はまだ5歳!
悪いことばかり考えてはダメ。逆にまだ5歳で前世の記憶を思い出せたのはラッキーじゃない。これから対策を立てられるのだから。
ポジティブに考えるのよ、人間諦めたらそこで試合終了よ!
某先生のセリフを頭の中に思い浮かべつつ、まだ支度がすんでいないことを思い出した私はロシェルカに「先に行ってて」と告げて支度を再開するべくメイドを呼んだ。
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