ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ

大臣

そう!ヤバイ!

 三月初頭。うららかな春の陽気の中、俺は期末テストを受けている。


 三限、数学、ここが正念場だ。


 今回俺は、中学最後の試験ということで、幼馴染の朝井舞と数学の点数を競っている。しかし、朝井は頭脳明晰、才色兼備な優等生。全教科満点に近い点数を取り、涼しい顔で学年一位を取る。


 かたや俺は、スポーツこそできるものの、学業はそれほど振るわない。ただ一つ、数学を除いて。


 俺の家系は、遺伝子的に、数学とスポーツが優秀で、数学界、スポーツ界ともに、名だたる著名人がいる……らしい。


 まあこの話の真偽はともかく、数学だけならば、俺は彼女に張り合えるのだ。


 もちろん、なんの対価もなしでは無い。俺たちが賭けたものは、「負けた方は勝者の言うことを一つ聞くというもの」


 ついに、来た。


 俺は今回勝つ。勝ってこのチャンスをものにする。


 そして俺は———。


 試験開始の、チャイムが鳴った。


 さあ、戦闘しけん開始だ。


 ————————————————————


 残り三分を残して、俺は最後の問題を解いていた。表面は簡単な基本問題から構成されていた。ここは俺たちレベルならば満点で当然だ。裏面は応用問題の集まりだが、四つのうち最初の三つは授業でやった奴だからこれもできて当然だろう。問題は最後のこれだ。


 伝統的に、数学科の最後の問題は、初見の応用問題と決まっている。難易度はとても高く、要は百点をとらせないための問題だ。


 差がつくとしたら、ここしか無い。


 だから俺は、ここに十二分の時間を割きたかった。しかし、前の回答の記述にミスを見つけ、それを直していたらこんな時間になってしまった。


 しかし今、この瞬間、俺はすこぶる調子が良い。おそらく、解ける。


 そう思って、力んだからだろうか。


 ポキリ、と。


 シャーペンの芯が、折れた。


 ……。


 ………。


 …………。


 まあ大丈夫だろう。中にまだ芯は入っている。


 カチカチ。カチカチ。カチカチカチ……。


 無い。


 無いだと。


 まあまだ手はある。俺はいつも芯が入っているケースがあるのだから。


 俺はキャップを開けて芯を出す。


 トントン、トントン、トントントン……。


 入ってない。


 入ってないだと。


 ……まあ、万一に備えて、鉛筆がある。


 ……ない!


 まずい、これはまずい!


 時間はあと三分を切っていてこれはまずい!


 どうするどうするどうする!


 ……よし。


 まずは折れたシャー芯をつまんで、強引に書いてみることにしよう。


 俺は折れた芯をつまんで書く。


 おお、おお! 書ける、書けるぞ!


 俺はスラスラと、三行ほど書く。


 ゴギッ。


 ん?


 俺は指先を見る。


 芯が、砕けていた。


 ………どうしろと?


 万策尽きた……いや、まだだ!


 俺は粉々になったそれを、指につける。


 これならば、これならば!


 俺はその指を紙面につける。


 確かに書けた。が、太すぎた。


 ……知ってましたよ。知ってましたとも!


 太くてだめならば、爪につければ!


 俺は散らばった黒鉛を、せっせと爪につけ始めた。


 が。


 ——キーンコーンカーンコーン。


 俺の試験は、ここで終わりを告げた。


 ————————————————————


「おい、舞」


 テスト返却日、俺は舞を呼び出した。


「決着をつけるぞ」


 最後の問題があれだったのだが、弱く見られたくはないので、俺は虚勢を張る。


「そうね。じゃあ、点数公開と行きましょう」


 俺の実情を知っているのか、知らないのか、舞はいつも通り涼しい顔だ。


「いざ!」


 俺たちは、お互いのテストを見せ合った。


「くっ……百点……だと……」


「なるほど、九十三点……」


 勝負は、決した。


「私の勝ちね!」


「クッ……ソ———————ッ!」


 最後の、最後のアレさえなければっ!


 だが、仕方ない、運も実力のうちだ。


「さあ、舞、要求を述べろっ!」


 俺がヤケクソ気味に大声を出すと、なぜか舞が縮こまった。


「え、ええ。そうね」


 なんだ。


 俺は俯く舞を見る。


「おまえ、なんでモジモジしてるのさ?」


「——っさいわね!」


 パシッ! と、派手な音を立てて、俺のほおは叩かれた。が、痛いところを突くとこうなるのはいつものことなので慣れた。


 舞は息を吸い込んでいる。ん……? 心なしか頰が赤いぞ。


 まさか……。


「あんたっ! 私と付き合いなさい!」


 舞は人差し指をビシッとこちらに向けて、決め台詞のように決めた。


 ………。


「ははははっ!」


「な、何がおかしいのよー!」


「いやだって……」


 。なーんて、恥ずかしくて口が裂けても言えない。


 が、仕方ない。敗者は勝者に絶対服従だ。


「おまえの顔が、あんまりにもおかしくてさ!」


「なっ……ふざけんじゃないわよー!」


「はははっ!」


 こうして、俺たちのテストは、真の意味で終わりを告げた。


 さて、明日は何をしようか。

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