第3節

 その後、コダマはバローナの近傍惑星との往復航路に配置された。なんてことはない。お隣さんとの荷物をやり取りするだけの話である。しかし隣の星系との距離はノーマルなエンジンで三ヶ月はかかる道程である。それをコダマは一分足らずで往復していた。船外時間はあっというまに経過していった。


「あ、郵便屋さん。お久しぶり」


「どうも。郵便です」


 ユキの住むエリアを担当し始めて、船外時間で五年が経過していた。コダマとユキは知り合いになっていた。


「これから隣の星系へ行くの?」


「いや。今日はもう店じまいだ。補給基地に帰るところだ」


 コダマはタブレットにサインを貰うと、すぐに帰る素振りを見せた。


「じゃあお疲れ様だね! コダマさん!」


「……お、おう」


 コダマは突然かけられた労いの言葉に動揺した。


「どうしたのさ」


 船に戻るなり、スラッシュが尋ねてきた。


「……労われた」


「へぇ。珍しい」


「ああ」


「それで? おめでとうとでも言えばいいのかな」


 スラッシュは船を次の配達先へと走らせていた。


「いや、いいもんだな。そう思っただけだ」


「たかが女の子に労われただけで? いや安上がりだねぇ!」


「失礼なこと言うな。未来のレディだぞ」


「あれ。もしかして気がある?」


「バカいうな」


「いや分からないね。僕らは光速で飛び回っているから、彼女が成人するのなんてあっという間さ。次に来る時には、良い年頃になってるんじゃないのぉ?」


「そしてその次の機会には、親世代の年齢になってる」


「哀しいね。恋もままならない」


「やめろよ。俺は別にあの子に気があるワケじゃないんだぞ」


「はいはい」


 その後も幾度となく、コダマはユキの家を訪れることになった。手紙や小包を手渡す度に、ユキは労いの言葉をかけてくれた。そしてそのたびに、コダマはユキの成長と、自分の不老を感じるのだった。


 気がつけばユキは二十代も半ばになっていた。


「コダマさんは寂しくはないんですか?」


「寂しい? いや別に? 何故?」


 コダマは集荷にきていた。端末をいじりながら返答した。


「光速船に乗っての配達は過酷だと聞いてます。家族も親戚もいない。みんな先に歳をとって、亡くなってしまうって」


「まぁ概ね当たりだね」


「……」


「はいどうも。じゃ、着払いで一つお受けいたします」


「あの、コダマさん」


「うん?」


「今夜、街で入植二十周年のパーティがあるんです。コダマさんもいかがですか」


 コダマは考えた。パーティなら食事もあるはずだ。うまくすれば、スラッシュの食費も浮くかもしれない。


「良いね。行くよ」


 ユキの表情が一層明るくなったのに、コダマは気づかなかった。

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