第二話 さあ、お話は続くよ! 眼鏡っ子の正体を知りたいから。


 冒頭より、さりげない一言。


『パイロット版である第一話が終わり、

 ここから、本当の意味での連載スタートです。以後、お見知り置きを……』


 と、ご挨拶も兼ね、ここからが本題。



 四角い窓から差し込む日差しは、夕方のものではなく、

 まだお昼過ぎのもの。


 それからね、いま地球に届いている太陽の光は、約八分前のものだそうだ。


 それでもこの場所は、薄暗くて冷たく青っぽい。

 決して明るくなることはないのだと、丸い眼鏡の奥の瞳が、物語っていた。


 今は、一日のお勉強の時間が終わったのだから、

 そう。今日一日の『授業』が終わったのだから、


 つまり時間外。大人になったら、残業というものがある。……でもでも、中学生になっても『クラブ活動』と呼ばれるものがあって、『放課後』という時間に行われている。



 それでもって今も尚(第一話から引き続き)――。


 まるで時間が止まっていたような、……あるいは、DVDが約一月もの間、一時停止を継続していたような感じで、旧校舎の三階の女子トイレに、わたしたちはいた。


 立ち位置。ポージングまでも維持で、

 文字通り、上からも下からも泣いちゃったわたしと、それ以前に全身ずぶれ。泣くのも通り越してしまった丸い眼鏡の女の子と個室の前、向かい合わせになっている。


 で、どちらが先にしゃべり始めるのか……と、思いながら、


「……あの、大丈夫?」


 と言われても、今はうつむいて泣いているから、その子……丸い眼鏡の子の顔を見ることができず、さらには嗚咽おえつしたまま「大丈夫じゃないよお、全部でちゃったよお」と、いう有様。……でもね、それ以上は、訊かないでほしい。察してほしいの。


 只々ただただねんため


 わたしたち二人の四つの目をもっても、……一人は丸い眼鏡で、二つの目を追加したとして、合わせて六つの目ということになっても、それで三百六十度、辺りを見渡したとしても、この場にいるのは、……やはり二人だけ、ということになる。



 やっぱり、三人目は存在しないのだ。


 昨夜のホラー映画、または学校の怪談みたいなこの展開は駄目だけど、幽霊や……例えるのなら『トイレの花子さん』がいるわけでもなく、似ても似つかぬ眼鏡っ子。えていうのなら、そういった空気の問題だと思える。そうであるから……、


 だれのせいでもないけれど、


「……あの、ごめんなさい」

 と、かすかな声だけど、わたしの小型探知機のような耳が、聞き逃しはしなかった。


 でも、誰かのせいだから、


「……駄目、許さない」と、一言を発する。


「えっ?」と、それに続くのは定番だけど、


「一緒に帰ってくれなきゃ、やだ」と言う。


 それによって付け加えられる、意外な展開を目の当たりにした驚きの表現。しかし、よくあるパターンの「北川きたがわさん?」と、わたしの名字を思わず声に出したこと。


 その声もまた小さくとも、


瑞希みずきって呼んで」

 そう、ハッキリと、わたしは言う。ビックリしてしまった丸い眼鏡の子は、


「え、えっと、瑞希さん?」と、小さくパニック。


 せっかく泣き止んだというのに、目にいっぱい涙を溜め……そんな感じだ。

 でも、それでも、


「えへっ」っと、顔を上げる。わたしはもう泣き止んだ。……だからなのだ。



 こうして今ハッキリと、間近で、お互いの顔を見る。


 このジャンルはホラーではなく、

 お友達を作るお話……この瞬間、

 そう、わたしは思った。だから出来る限りの笑顔で、


「じゃあ帰ろっ、佐藤さとうさん」


「うん」


 ……そう、迎えてあげたなら、この様に、

 この子は笑顔で答えてくれる。……そう、心からグッときた。


 それから、くどいようだけど、ずぶ濡れ。

 足元の水溜りから解放され、トイレを出て、帰り支度のために教室へ向かうも間も、しずくは滴り落ちる。並んで上履きを履いたまま、靴を手に持つも……以下同文だ。


 それでも、

 よく見たら可愛かわいい。


 女の子から見ても、可愛い方じゃないかな?


 丸い眼鏡の奥では、パッチリした目。……わたしは心が躍るのを、何処どこかで感じた。


 佐藤……(ごめんね、下の名前が思い出せないけど)さんは、四年二組で同じクラスの女子。背は、わたしと同じくらい……とはいっても、わたしの背はそんなに高くなく、体育の時間でお馴染なじみの身長順・・・に並ぶと、前から四分の一くらい。……ううん、せめて三分の一にしておこう。転校生はわたしの方で、クラスでは大人しく……それ以上に、佐藤さんは大人しい子で、実はこの子と、ここまでお喋りしたのは初めてのことだった。



「うん」と「ううん」……または「はい」と「いいえ」しか言えないわけではなく、

 ミュートでもなく、声が小さいだけ。


 これも又くどいようだけど、わたしの小型探知機のような耳なら、問題はない。きっと普通に、お喋りができると思うの。……と手と手を握り合い、頭をやや空に向けて、瞳が輝くイメージ。少女漫画の、あの流れ星を見つめるような乙女チックなイメージだ。


 ――見つめ合う瞳、……まだ一方通行だけど、



「わたしたち、きっといいお友達になれるわ!」


「えっ?」と、いつもの小さな声を覆すような声量。今度は、わたしが驚く番だ。

それにワンオクターブ高目で乙女チックで我ながら似合わない口調。自分でも何だか、気持ち悪かった。……ボクッ娘とまでいかないけど、そんな類の口調がやっぱり自然だ。


 気がつけば、――おおっ、良かった! この子はすっかり笑顔になっている。

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