タイムレギュレート

TARO

ゴミ箱にゴミを捨てるなら、どのゴミを捨てるべきか?

 タイムワープの理論が確立されたとの発表があってからというもの、世間はお祭り騒ぎのようになり、メディアは連日、特集を組んで、理論の解説をしたり、時間旅行の実現性と危険性を科学者同士で論じあったりした。人々は希望に胸を膨らませた。しかし、遅々として研究は進まなかった。理論を実現させるために必要な物質の合成が必要なのだが、それが出来るまで、なお数十年を費やし、ようやく、新たな物質、通称「クロノス」の合成に成功した。それからさらに数十年、ようやく実用化に漕ぎ着けた。今では一般の利用が可能となっている。誰もがその恩恵を受けられる世の中になった。その時には法整備とともに、具体的なシステムの構築が完成していた。それも、全世界一斉に。だから、人々は、とっくの昔に利用可能になっていたのにも関わらず、管理体制のために秘密にされた違いない、と怪しんだ。タイムマシンがいよいよ実現する、と期待を抱いた子供が、今や老人となっていたのである。

 実現して間もない頃、国家単位で実験が繰り返され、成果は各国でシェアされた。厳密な国際ルールの構築が急がれ、それが公になった時、人々は落胆した。

 いわゆる、時間旅行は禁止された。実験段階で知り得た情報は厳密に管理され、秘匿されることになった。当然大衆の不満は募る。抗議活動が頻発した。各国の管理局は連帯して解決策を協議した。そして、市民を懐柔する案を考え出した。

 各国の管理局は一般利用を約束した。国際ルールに基づき、利用を希望する者は24時間が平等に与えられる。その24時間を使って過去と現在を行き来するのだが、管理局員が必ず同行し、厳密に使用目的と使用時間が記録される。時間を使い切ったら更新は認められない。


このシステムは通常、過去の過ち、失敗の回復に使われることが多かった。利用者は過去に戻ってリカバリーする。そして三分間を使って現在の戻るのだが、その三分間で管理局は記録に基づいて整合性に矛盾が生じないか計算によって答えを出し、不都合なものは拒絶され、現在に反映されない。例えばちょっとした火傷の回復などは成功するのだが、大怪我の回復は失敗することが多かった。

このように厳密であまり使えないシステムは頗る評判が悪かったが、システムを逆手に取って投機的に使用されるケースが流行った。過去に戻って未来の情報に基づいてギャンブルや、証券を購入するのである。勿論、現在に戻る過程で大概は無駄に終わる。しかし、まれなケースで利益を確定出来た者もいたのである。これに人々は飛びついた。


「あんたねえ、何度目よ? もう1時間切ってるじゃないの」

管理局員はウンザリした様子で語りかけた。この男の担当になってから文字通り時間を無駄にして来た。

「イイんだよ。アンタは自分の仕事してろよ」

男は言い放った。そしてなけなしの金を叩いて馬券を購入した。当たってもたかが知れていた。管理局員はそんな状況に悲惨さを感じていた。

「もう帰るぞ。五分切っている。知ってると思うけど、帰るのに三分かかるからな」

男は思いつめている様子だった。返事をしない。

「オイ! どうした?」

「イイよ、このままで。迷惑かけたな。じゃあな!」

「バカ! そんなことしたらどうなるか」

男は走り去った。管理局員に残された時間はなかった。


 ありえない場所にありえないものが現れた。宇宙ステーションの隊員たちがくつろぐための共有スペースに突如、死体が出現したのである。隊員全員が召集された。数が合っている。つまり?

 若い健康そうな男だった。支給品でない一般の服装をしていた。特に汚れてもいないし、乱れてもいない。しかし、それが、一層推測を困難にするのだった。とにかく、地球に報告されて、死体は物資運搬用カプセルに入れられ地上で調べられることになった。

 男の体は解剖されて、隅々まで調べられた。そして、脳から未知の成分が検出された。

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タイムレギュレート TARO @taro2791

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