2027 天上

 チンンンンンーーー



 綺麗な、音、これは、なんの音だろうか?


 ドンンンーーーーーー!


 …え?あのハゲワシが、いきなり、地に落ちた。


 ……ええ?頭が、なくなった?首には綺麗な切断面が残った。


 血が噴き出した、いっぱい。


 何が起こった?


「お前達、よくやったな、女子供で一匹倒せるだけでも上出来だ。」


「ええ?お姉様、この人の言葉、わかりませんの。」


 一体どこから飛び出してきたのか?


 うちらの前に着地した、この男は…


「あ、あなたは…?」


「天上だ。」



 天上。


 佑芳がわからないのは当たり前だ、だってこいつ、日本語で喋ってる。


 背は結構高い…180センチくらい、黒い短髪、僅かな白髪、年季が入っているようだ。


 白い、日本の海軍将校の軍服…いや、形は同じだが、軍服ではないようだ、何の装飾もない、金色のボタン以外、真っ白だ。


 普通の太刀より長い日本刀だ、刀身だけでも120センチもある、腰に掛けている鞘も長い。


 顔は…渋い、超渋い、僅かな無精髭、そして無数の修羅場を乗り越えたような、深くて、寂しくて、力強く瞳。


 な、なんだ…この、まるで心の奥底まで見抜かされたような、威圧感。


 そしてたったの一撃で、あの化け物を倒す力、非常にヤバイ男だ。



「天上…様。」


「お前達、ここの人間ではないようだな。」


「ねえちゃん、この人何いってんの?」


「……台湾人か?そうは見えないようだが。」


 いきなり中国語が出た!


「あ、な、なにを!私達は台湾人ですのよ!」


「……子供か、こんな女子供で、なぜここにいる。」


「子供っていうな!」


「ああ、済まなかったな、お前達は確かに立派な戦士だ、許せ。」


 な、なによ!この天上って人、マジで超渋い!


「天上…様…」


 千月?なんかおまえ、おかしいぞ?


「天上でいい、お前達は?」


「わ、私は…」


「あ、あなたに名乗る名前などありませんわ!」


「……そうか。」


「ゆ、ゆうちゃん…失礼なことはやめて、命の恩人でしょう?」


 佑芳と佐方は一体どうした?さっきから気が立っていて、まるで天敵でも見たような…


「すみません、天上…さん、私は…ち、千月と言います、この子達は、佐方と佑芳です。」


「そうか、どうやらお前達は休息が必要だな、歩けるか?」


「な、何とか…うぅ…」


『くっ、おい千月、無理するな、うちすげー痛いぞ…』


 ああ、どんどん、見えなくなった、視界が朦朧していく…


「いけません!お姉様、動いちゃいけません!」


「大丈夫よ…だい…」


 ち、千月…ああ…意識が…



 #



 まったく、本島に来た早々、とんでもない目にあってしまった。


 この調子じゃ、先が思いやられるな。


「あ、起きましたね、いーちゃん。」


『ああ、ここは…どこだ?』


「ゆうちゃんが言ってたよ、嘉義城って。」


 ほう?城って言うなら、かなりの規模だろう。


 この部屋は…な、なに?


 超高級な天蓋カーテン付きのクラシックベッド、超高級なキャンドルスタンド、超高級な枕、超高級な壁画……。


 もう、部屋全体も超高級だ、超高級じゃない品はなに一つない、超高級そうな中世ヨーロッパ風、まるで御伽噺から出てきたお姫様の寝室だ、どういうことだ?


「お姉様、ただいま戻りましたわ。」


「どうだったの?」


「今日は天上さんがいませんでした、ですが伝言が残されているようですわ。」


「今日は迎いに来るんだって。」


「そうか、昨日の?」


「詳しくはよくわかりません。」


 昨日?


 C.E.2063_0504_1105


 3日も寝たか、だが今回は思ったより早いな。


 体は…痛くない、3日だけで治ったか?


『千月、おまえは昨日から意識が取り戻したのか?』


「…………」


 はあ…この子達と一緒に行動した以来、千月と話すのも面倒になった、何とかしないとな。


「あ、お姉さんちょっとトイレ。」


「わかりましたわ。」


 ああ、トイレね、いいアイディアだ、よくトイレの時で雑談してるしな、うちらは。



 げっ、トイレまで超高級だ、この部屋一体どういうことだ?


「いーちゃん、昨日はね、起きたときは大変なことがあるの。」


『なに?何が起こった!』


「それはね、天上さんが隣に居るの、看病してくれるらしいですよ?」


『そうか、それで?』


「私のベッドに座って、顔に超近づいて、一目見たあと、すぐ出ちゃったけど…」


 あん?アホか?そんなのどこが看病だ、様子を見に来ただけだろう?


「それでね…私…私…」


『あん?』


「下着が…大変なことになっちゃったの…」


 …………はっ!?うち、一瞬気絶したらしいぞ!?


『アホかああぁぁ!』


「ひぃー、い、いーちゃんなによ!びっくりした。」


『ボケ!ドアホ!どうしてうちの相棒はこんなバカなのか!!』


「い、いーちゃん!人のことをバカアホ連呼って!」


『あんなやつに対して発情したのか!?あんな…おじさんが!?』


「おじさんってなによ!超かっこいいと思いませんか!?」


『確かに渋いが、かっこいいとは程遠いぞ?』


「ああ…そこがいいですよ、渋過ぎますわ…ああ…」


『てっめえ…あいつ、お前の父親にも成れる年だぞ?』


「ああ…そこがいいですよ、成熟な旦那様…ああ…」


『あとあいつは一撃だけであんな化け物を倒したぞ、警戒すべきだろうが!』


「ああ…そこがいいですよ、か弱い乙女を守った勇姿…ああ…」


 駄目だなこいつ、まさかあんなのが趣味だったとは…


「それでね、私達倒れたでしょう?あのトンボのあと。」


 またトンボかよ!あれ佑芳の付けた呼び名じゃねえか!


「さーちゃんが言ってたよ、私の事をおんぶしてここまで運んできましたのよ?」


『あん?それがどうした。』


「あああ!私、気絶しなければ良かったわ!」


 があああぁぁーー!


 もう!誰か助けてくれ!


『てっめえ!わざわざトイレまで来て、言いたいのはそれだけか!?』


「それだけってなによ、超重要事項でしょう?」


『はあ……、何か、情報はないか?』


「情報って?ああ、天上さんの趣味と…」


『違う!ここはどんな所か、これからはどうすればいいか!』


「えっと、ないですね。」


『…まさかおまえ、昨日から何もやっていないのか?情報収集は?』


「してたよ?天上さんは普段どこにいるか、なにをしてるのか、あと…」


『あああああっ!』


「ひぃー、いーちゃんそんなのやめてよ!もう…頭割れそうじゃないですか。」


 ああ…うちはもう駄目だ、恋する乙女は、手に負えないわ…



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