1-2-2 He is a slender man

 スーツを着た男達が傘で雨を凌ぐ。


 ざっと10人以上はいるであろうその集団の先頭にはスキンヘッドの男が煙草を咥えて立っていた。


「……勇気ある同胞へ。」


 男がゆっくりと両手を合わせる。


 その隣で傘を持つ付き人もまた神妙な表情で見守っていた。


 後ろでは残りの男達が傘をさしたまま黙祷を捧げていた。


「……今日、ワシらから行く。お前らの血、絶対に無駄にはせん……せやから、安心して寝とけや。」


 男がゆっくりと立ち上がり、拳をゆっくりと握りしめた。













 事の始まりは丁度Triggerの出始めの頃。


 俗に言う暴力団、福組も例に漏れることなくTrigger発現による被害を受けていた。


 最初はTrigger発現者達を機動組に入れ、他の団を出し抜こうとみなで動いていた。


 しかし、福組No.2の男、大和 大輔のTriggerが発現し、組は2つに分裂した。


 Triggerを発現しなかった者を足でまといと称して排除しようとした大和 大輔。


 それを防がんとした組長、福 大地。


 その2つが衝突するのも遅くはなく、1度目の抗争で福 大地側の陣営は半分以上が死んでしまっていた。













「……それで?アタシはヤクザの手助けをしなくちゃいけないって?」


「まぁまぁ……そう怒らないでくれよ直美。正義を執行する、それが俺の使命なんだよ。」


 No Nameはカウンターに置かれた銃に触れる。


「結局アンタは何がしたいんだい?……確かにアンタに助けられた事は感謝してる、それでも、訳を知らないで誰かを殺すのには納得出来ないね。」


 女はNo Nameの顔をじっと見つめる。


 表情を悟らせないその布から発せられた声はあまりにも冷たかった。


「なら……帰ればいい。もとより俺は頼んだだけで強制した覚えはないからね。」


 No Nameは銃をスーツにしまい、イスから腰を上げた。


「正義というのは、曖昧な物なんだよ。そして、それは個々によって異なる形をしている。俺の正義、そして直美の正義、たとえ共通点があろうとも形は全くの別物なのさ。」


 直美は微動だにせずただグラスに入った氷を見つめる。


「正義を押し付けることは出来ない。許されるはずがない……それもまた俺の元なんだから。」


「……正義を執行する。それは執行される側からも助けられた側からも押し付けにならないのかい?」


「その通りさ。だから俺はこんなやつSlendermanなんだよ。」


 No Nameは静かに影へと消えていく。


「アンタが何をしたいのか、まだ聞いてないんだけど。」


 静かに笑い、そして本をひらひらと降ってみせるNo Name。


「正義を執行する執行者……それが俺のあるべき姿さ。」

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No Name 黒い怪物 @yami0907

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