第4話「少年とナイフ」

(こんなきらびやかな世界を見たことがない)

 小山少年は、大和たちに歓迎会のためにイバラキにある繁華街につれてこられていた。たくさんの人たちが、こうこうと輝く街灯の下で、酒を手にして、歌を歌い踊っていた。

喧騒のなか、時折叫び声や怒声も混じるがそれもまた、繁華街の華。

 水商売のボーイが頻繁に声をかけてくるのもまた現在の日本では見られない光景であった。

 とくに小山少年は、今まで見たことのないような非常に露出度の高い服をきた女の人たちが出歩いていたことに、刺激を受け、心臓の高鳴りを覚えた。

 そしてその女たちにいろんな男たちが声をかける。そういう光景が街のあちらこちらで見受けられた。


「そうねえ今の日本じゃナンパは、厳罰だからねぇ。下手すりゃ露出の高い服着てただけで補導されてたし、イスラム教徒じゃないっつーの」

ナンパの様子をきょろきょろ見ている小山少年に、下妻ミトが話しかける。ミトもそういう女たちと同じように露出の高い派手な服を着ていて、少年はそれをチラチラ見てはなにかいけないことをしてるようでドキドキしていた。


「それにしてももう10月だぜ、寒くねーのか」

 先生である大和が少し先生らしく服装をたしなめた。

「ファッションとは気合いなり」

「素晴らしい根性だな」


「それにしても12歳にファフニータは刺激的過ぎやしませんかね」

 繁華街に来てから大和たちに合流した、ロン毛で清潔感のないメガネ男が、大和に話しかける。この男がもう一人の大和の生徒である、宍戸イワセである。漫画家を目指しているらしかった。

「お前が書いているマンガよりは刺激が少ないだろうよ、ロリコン野郎」

 どうにもろくな漫画家ではなさそうだ。


 岩瀬やミトが口にするファフニータとはショーパブのことである、昔は東京を中心に外国人のリピーターが大勢来るほどの最高に刺激的なスポットだったのだが、あまりにもエロティックで刺激的過ぎたため、様々な団体から抗議を受けて、とうとう条例によって東京から締め出され、廃業せざるを得なくなった。

 そしてなんだかよくわからない罪で刑事告訴もされたオーナーは、イバラキ送りの刑に処されてしまった。そしてこのイバラキの地で新たにネオ・ファフニータというさらに刺激的なスポットを作り出したのであった。


 ファフニータでは最高にスタイルの良い女たちがほとんど裸のような恰好でダンスと歌を提供する。さらには、イバラキでしか作られない、最高の酒と食事が提供されるのだ。いかにも堕落的で崇高とは言えないものであるが、しかし外の日本では失われた文化の極みであった。

 とはいえ12歳の小山少年には明らかに刺激が強すぎる場所。

「きれいだ」

 ただその言葉のみを小山少年は残した。果たしてそれがきらびやかな女たちに対して向けられたものであるのか、装飾きらびやかな空間に向けられたものなのかはわからない。

 しかし、確実に小山少年が今まで持ちえなかった感情の何かを引き起こしたのだった。


 果たしてこの刺激は小山少年にどんな化学変化を起こさせるのであろうか。

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