第24話 雄ちゃんうちに来る

 雄ちゃんが私のうちに来た。


 私は雄ちゃんに出掛けたいと言ってみたのだけれど、彼は今日はゆっくりした方が良いと言い、頑とした感じで「俺が行きたいって言ってたからだろ? 今日はもう行かなくてもいいよ」と言葉を続けた。

 

 聖陽にされたことをずっと心配してくれているみたいだった。


「どうする? 俺ん家に移動しようか? 七海は車は置いてけば良いよ。明日は会社に俺が送ってやるから」

「雄ちゃん」

「んっ?」


 雄ちゃんはうちの玄関に突っ立ったまま部屋には上がらない。


「上がる?」

「いいよ今度で。七海は着替えてきたら? それから……。本当にうちに泊まってくれるなら服とかさ、必要そうなもの持って来なよ。……今日は絶対に七海には手を出さないから。約束する」


 雄ちゃんは真っ直ぐな瞳でそう言った。私は長年の付き合いから雄ちゃんは約束を守る人だと言うことはよく分かっていた。

 信頼しているから。

 ただ今は一緒にいたい。

 そばにいて欲しい。


「うん。そうしようかな」

「待ってるよ」


 雄ちゃんは玄関の小上りの部分に腰掛けた。

 私からは雄ちゃんの広い背中が見える。

 頼もしいなあと思って胸が熱くなって彼の背中を見ていた。


「七海。これギリシャのサントリーニ島のポストカード?」


 雄ちゃんは私が玄関に飾ってあるポストカードを見上げながら、私に優しく微笑んでいた。


「うん。いつか行ってみたくって」


 私はサントリーニ島の目に飛び込む眩しい白と青の建物とそして紺碧の海の写真を初めて見た時に、いつか行ってみたいと思っていた。

 このギリシャの地に足を着き、ポストカードではなくて本物の景色を肌で感じでみたいと、この写真のなかに自分も存在してみたいと願うようになっていた。


「綺麗だな」

「でしょう?」


 雄ちゃんはしばらくポストカードを眺めていた。

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