第6話

「……ねぇ、莉緒。最近ちゃんと寝てる?」

「突然どうしたの、あけちゃん」

「目の下。ファンデで隠してるみたいだけど、隈ができてるわよ?」

「……まじか……」

「誤魔化せてない。化粧薄すぎるわよ。隠すつもりならもうちょっとちゃんと隠しなさい」


 そう言われて、莉緒は友人に手を掴まれ、引っ張られた。どこに行くのかと思ったけれど、多分、空き教室に行くんだろうなと思い、結局何も言わずについていく。

 案の定、行き着いたのは講義で使われていない空き教室。しかも、本当に誰もいない。

 なんで知っているんだろうとか思ったけれど、友人にそこに座ってと言われたため、莉緒は大人しく席に着いた。


「あたしの化粧道具でも良い?」

「えっ、それは、もうしわけないから……」

「そのまま一日中いても良いけど、結構不気味よ?」

「…………お願いします」

「わかった。じゃあ始めるわよ? 目を瞑ってて」


 はーい、と軽く返事をして莉緒は目をつむり、あとは友人に任せることにした。


「……莉緒のお肌はもちもちツルツルつやつやだよねぇ……羨ましい。いや、いっそ恨めしい」

「……あけちゃん……」

「はっ、本音が。ごめんごめん」


 あはは、と笑いながらもテキパキと手を動かして確実に莉緒の目の下の隈を隠していく作業をしていく。

 五分ほどで作業は終わり、友人が莉緒に目を開けても良いよと伝えてくれた。

 ぱっと目を開けて、目の前に持って来てもらっている鏡を見れば、そこには綺麗に化粧を施された自分が映り込んでいる。


「……あけちゃん、天才」

「えー、それほどでもあるけど〜」

「すごい褒めたの台無しになった」

「そんなこと言わないでよ! 素材がいいんだから綺麗に仕上がるのは当たり前でしょ!?」

「それは大いに否定するけども!」


 そう言って、二人はお互いに否定と褒め言葉、肯定と逆ギレを繰り広げていると、教室の扉が突然開いた。


「……あれ、誰かいたんだ。ごめんね? 邪魔しちゃったね?」


 聞こえて来た声の方を振り向けば、そこには一人の男子学生らしき人物が立っていた。

 太陽の光を凝縮したような、白金の髪。綺麗な碧眼。まるで、物語から抜け出て来たかのような美しすぎるその男性に、二人ともが言葉を失う。

 ふわりと微笑んで自分たちを見ている男性に、莉緒はなぜか恐怖を感じる。

 碧眼が、莉緒を捉える。すると、今まで浮かべていた微笑みが一瞬消えた。それを見た莉緒のラベンダー色の瞳が驚きで見開かれる。次の瞬間、碧眼の彼は、驚くほどの甘い微笑みを莉緒に向けた。

 それに、恐怖を覚えて莉緒は思わず友人の陰に隠れてしまう。

 それにハッとしたように、友人が莉緒を隠すように動き、そして挨拶をした。

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