第2話



* *



 ぱっと目がさめると、見慣れた天井が目に入り、そこが現実世界だと強く認識させられた。もぞりとベッドの上で体を動かせば、慣れた香りが鼻孔をくすぐる。

 それだけで、ほっと心が落ち着くような感じがした。

 ベッドから上体だけを起こして周りを見回せば、見慣れた自身の部屋が目に入る。女の子という感じの、ピンクと白で統一された部屋。


(ここは、私の部屋……だよね……?)


 思わず確認してしまったのは、多分、まだ夢の余韻が残っているから。けれど、数回瞬きをしても景色は変わらない。ようやく、自分が現実にいるんだと理解できた。

 自分の前に流れてきた髪を見て、彼女は少し苦い表情をする。


(夢の“彼女”と同じ、プラチナブロンドか……。因果か何かなのかな……)


 思わずそう思ってしまうほど、彼女の髪は見事なプラチナブロンド。そして、瞳の色は珍しいラベンダー色。現代日本でこんな色を持って生まれてくる子供なんて、どこにもいないだろう。

 と言っても、彼女の片親が外国人で、その髪も、その瞳も、片親である母から受け継いだものだ。父はどこにでもいる、平凡を背負った男性だ。身長は平均よりも高いし、体つきもひょろひょろというわけではなく、無駄な筋肉のついていない均衡のとれた体つきなのだが、顔は、誰が見ても“平凡”と言わしめる顔だった。

 逆に、なぜそこまで恵まれた身長、恵まれた体格なのに、顔は恵まれなかったのか。神は二物を与えないというが、まさにそれを体現したような父だと、彼女は何度も思ったことがある。


(……いや、お母さんが恵まれ過ぎなんだけど……)


 というのも、彼女の母親はボンキュボンのナイスバディ。確実に女に嫌われてしまうような体つきである。

 しかし、はっきりとした性格や、そのくせ天然なところがあるというちょっと抜けている部分があり、同姓にも好かれるという神クオリティーを発揮する。

 むしろ、なぜ父と結婚したのか。謎過ぎである。


(……とりあえず、リビング行かなきゃ)


 そう思って、彼女はようやく身支度を整えるためにベッドから降りた。長いプラチナブロンドの髪を軽く手櫛で整えてから部屋着の上にカーディガンを羽織り、そのままリビングに降りるために階段をとんとんと降りていく。

 ひょっこりとリビングに顔を出せば、優しい笑顔で両親が迎えてくれた。


「おはよう、莉緒」

「おはよう、お父さん」

「朝ごはんできてるわよ」

「ありがと、お母さん」

「今日講義は?」

「二限と四限だけ。だから、ちょっとゆっくりできる」


 そう言いつつ、彼女――莉緒はいつもの自分の席に腰を下ろす。

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