あなたは、偽りの愛をささやく

妃沙

夢から現へ、

第1話

 何度も、何度も。

 繰り返し見る“夢”がある。


 何度も、何度も。

 繰り返し願う“夢”がある。


 目覚めて仕舞えば、それはただの妄想で、跡形もなく消えていく。


 目覚めて仕舞えば、それは跡形もなく手のひらに残らず霧散していく。


 そんな“夢”を、いったい何度見てきただろうか。


 夢の中での“彼女”を見ていると、いい加減に諦めた方がいいと、何度も言いたくなる。けれど、叫んでも届かないと理解もしていた。だって、夢だから。


 そして、夢とは思えないほどの現実の中を歩いている時もあった。周りには西洋風の建物がいくつも並び、そして、“彼女”は綺麗なドレスを身につけているのだ。

 きらびやかな屋敷の中を、たった一人で過ごしている。

 “彼女”以外の人間を見ることはあっても、それは遠すぎてよく見えない。

 

《ねぇ、お願い。届いて――》


 いつもいつも、悲しそうな表情で窓の外を見つめる彼女に、思わず聞こえないとわかっていても、声をかけてしまう。

 いつもいつも、彼女は泣きそうになりながらも絶対に涙を流さない。

 その心の強さに、感動していた。


 ――けれど、違うのだ。


 “彼女”は、泣くことを許されなかった。その涙はすでに枯れていたから。両目を潤すその水を、滲ませ、溜めることができなかったから。だから、“彼女”は涙を流さなかった。


 それに気づいたのは、いつ頃だっただろうか。


 初めて、“彼女”以外の人間を間近で見た時。

 綺麗な衣服を身につけて、“彼女”の目の前に現れる男性。優しい微笑みを浮かべて、“彼女”の前に立つその男性に、思わず眉を顰めてしまう。

 甘いマスクの男性は、“彼女”に手を伸ばしてその美しいプラチナブロンドの髪を優しく撫でる。


『――、愛しているよ』


 ――嘘。

 思わずそう言葉に出そうとしたのに、言葉が出てこなかった。まるで何かに喉を塞がれているかのように。

 思わず、自分の喉元をその手で撫でてしまう。それほどに信じられかったのだ。


『今はまだこんな生活しかさせてあげられないけれど、もう少し待っていてね。僕を信じて』


 ――何度その言葉を聞いて、あれから何年経っていると思っているのだろうか。

 それも、言葉にしたかったのに、同じように出てこない。


 こんな経験はほとんどなかったのに、なぜこんなことになったのか。


 目の前にいる甘いマスクの優しい微笑みを浮かべている男性を見ると、なぜか吐き気がする。

 息苦しくて仕方がないのだ。

 早く、ここから立ち去ってしまいたい。

 そう、思うほどに、ここにいることが苦しくて苦しくて仕方がない。


 だから、“彼女”に手を伸ばして、大声で叫んだ。


《――逃げてっ!!》


 けれど、その祈りが届いたことは、一度もない――。

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